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偽憎代稿(二十一)

前話↓

「……意味がない?」
 聞き返すと、天灯さんが頷く。
「ああ。例えば、お前さんが遭遇したプリンターの怪異とか、野太い男の声とか、90度首が曲がったまま追いかけてくるヤツとか――他にも色々あったろうけど、ソイツらは言わば尖兵・・ってトコだ」
 樹木で言えば枝葉、RPGで言えば雑魚敵って言った方が分かりやすいか――と天灯さんは続ける……なるほど、言いたいことは分かった。
「要は、対症療法じゃなくて、原因から根治しないとならない、ってこと、ですよね。尖兵じゃなくて、総大将・・・を叩かなきゃ、意味がない。……けど総大将は、近くに居ない。だから、祓うことはできない……と、そういう、ことですか」
「流石小説家。呑み込みが早い」
 歯を見せて微笑む天灯さん。……なんか、気恥ずかしいけど、悪い気はしないな。久々に褒められた気分だ。
「裏を返せば、総大将を見つければオレのでも対処可能だ――尖兵の力からしてそんなに強くないとは思うしな」
 確かに、ここの境内に入った後にも気付いたが、ここにいる時には全く怪現象に見舞われていない。恐らく、結界か何かを張っているのだろう。そして、その結界じみた何かで、十分に対処できているということでもある。
 そんなマンガみたいなこと、あるんだな。
 事実は小説より奇なり、ってのはよく言ったモンだ。
「が」と、天灯さんはここで笑みを消す。「オレとしてはうかうかせず、早く総大将を見つけるのをオススメする。佐藤さんも体験したとおり、悪霊1つ1つは弱小と言えど、一般人からすると脅威だ。お前さんはオレのところに駆け込んで来たからまだマシだったけど、普通あれだけ精神を削られれば、自殺することだってあり得る」
 オレはそういうの、これまでも見てきたよ。
 天灯さんのその真剣な言葉に、ゾッとする。

 自殺。

 ……そうか。俺は、もしかしたら死んでいたかもしれないのか。よくぞココに来ようと最初に思い立ったな……と、自分を褒めてやりたい。
「それに」
 と天灯さんは付け加える。
「もし、小説に書かれた怪現象を自らの力にできる、ってのが本当だとしたら、それこそ急いだ方がいい」
 オレはそうやって強力になるデタラメな怪異を、聴いたことも見たことも無いが……と続ける。
「その『白い蝋の話』のサイトか、ヒロシの立ち上げた個人企画とやらか……どちらにせよ、今でこそ注目されちゃいないようだが、これが何かの弾みで急拡散されて、注目を浴び始めたらかなりマズい。それで怪異のレベルが一気に増したら、師匠ならまだしも、オレの術では手に負えなくなっちまう。そういう意味でも、どんな手段を使ってでも漆賀矢を見つけることを勧めるぜ」
 急拡散バズ
 あり得ない話じゃない。ある日突然、よく分からないものが拡散されるなんて、インターネットじゃ日常茶飯事だ。
 俺は天灯さんの言葉に頷いた。
「あとは、そうだな。なるべくヒロシホラーを書かないことだ。万が一、怪異の攻勢に耐えられなくなったら、お前さんがやったような、既に投稿済みの別の話をパクって公開するのも良いだろう」
 アレはナイスアイデアだと思うぜ――天灯さんの顔に、微笑みが戻った。
「ただ、何も無しでは不安だろうからな。今日のところは、悪霊から身を守るための祈祷をする。それが終わったらお帰り願おう」
 祈祷する場所に連れてくからついて来な、と言う天灯さん。だが、俺はまだこの境内から出たくなかった。それだけ、久々に怪現象のないこの状況が、心地よくなってる。
 そんな俺の情けない心を察したのか、「悪いけど」と天灯さんが言う。
「悲しいことに、この寺に2人分の寝食を養う余裕はなくてな……大丈夫だ。その分、今回は金は受け取らないし、悪霊から身を守る術は強力にしといてやるから。これで調査する時間くらいは稼げるだろうよ」
 それに、と。
 天灯さんは紙を取り出した。名刺だ。
「もし効き目が無くなりそうだったら、すぐに連絡してこい。ここの寺の電話番号も書いてある」
 僧侶が名刺なんてちょっと珍しい、かも? そう思いつつも、これが天灯さんなりの精一杯の誠意なのだろうとも思う。
 不安だが、仕方ない。
 俺は大人しくメモを受け取り、天灯さんについて行く。

***

「――お出口は、左側です」

 目が覚める。気付けば、次は最寄駅。
 祈祷を受け、寺から出て電車に乗った後、俺はFacebookで漆賀矢の友人と思しきアカウントに、片っ端からメッセンジャーを送りつけていた――漆賀矢浩について、何か知っていることはないか、と。
 そこまでは覚えているが……どこからか意識がない。寝落ちたか。寝ぼけて変な文章送ってないよな……と思ってスマホを見るが、特に送ってなかった。返信も来ていないから、しばらくは待ちだ。
 欠伸あくび。それから小さく肩回し。パキパキと心地良い音が鳴る。
 それにしても、よく寝た。
 変な怪異とやらに攻撃を受けずに済んでる。天灯さんの施してくれた祈祷とやらの効果は絶大だ。こういう除霊とか霊能者とか、世間的には胡散臭い奴らってイメージは強いけど、マジの本物もいるんだな……。
 これは、何かの設定に活かせるかも。
「……ふふ」
 良いぞ。
 創作意欲が、戻ってきている感覚がする。
 ホラー小説系の話は、ちょっとしばらく書くのはやめておくが……。
 家に帰ったら、早速書くか。
 いや、ちょっとまだ帰るのは怖いから、どこかカフェか……いや、カフェは金がかかるから、図書館か生涯学習センターにでも行って――

ピンポーン。ガガーッ。

「……っと」
 駅に着いて、ドアの開く音。危ねえ。考え事してまた乗り過ごすところだった。荷物を持って、電車を降りる。
 その時、スマホの通知バイブが鳴った。
 すぐに確認する――Facebookのメッセンジャーから。

 漆賀矢の友人達の中から1人、返信が来ていた。

つづく

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