答えにしない時間
朝、レッスンを終えてからもう一度、瞑想に入った。
お尻の下に畳んだブランケットを敷いて、足を組み、目を閉じる。
意識を下へ、骨盤底のさらに底へ向けていくと、大きなスカートを広げたようにどこまでも空間が広がり、地球の底に沈んでいく。
少しすると、考え事が浮かんで、目の奥から頭の先へきゅうと絞られ、意識は細く上の方へ集まってくる。
そしてまた、大きなスカートの内側へ戻っていく。
目を開いて、時計を見る。
ちょうどパートナーはおばあちゃんちに着いた頃だろか。
無事に会えているかな。
おばあちゃん、喜んでいるかな。
彼は今日、ずっと行きたがっていたおばあちゃんの家へ、十年以上ぶりに会いに行っている。
パソコン作業をして、お昼を食べる。
長期休暇の名残りで、いつも以上に食べすぎてしまう。
長芋と豆腐の味噌汁、油揚げと小松菜の煮浸し、蓮根のきんぴらを山盛りのご飯と平らげて、ベーグルも半分つまんだ。
そのままソファに横になっているうちに、眠ってしまった。
夢の中で私は、ずっと昔に働いていた職場で、新しい資料について営業担当に聞いている。
担当者は面倒くさそうにぶつぶつ言っていたけど、私は笑顔のまま引かない。
はっと目が覚めるとブランケットは床に落ちて、じんわり汗をかいていた。
シングルマザーになってすぐの頃。
私が唯一、会社員をしていた時期だった。
坂本さんに、佐々木さん、並木さんに加藤さん。
たった三年ほどだったのに、一緒に働いていた人たちは生き生きと動き、そこで仕事をしている夢を頻繁に見る。
どうしてこの頃の夢ばかり見るんだろう。
ぼんやりした頭でスマホを手に取る。
調べようとして、やっぱりやめてスマホを横に転がした。
太宰治はなんで死にたかったんだろうか。
ピタゴラスはなんで小さい島にいて、気候分類ができたのだろう。
そんな風に浮かぶ疑問も、
小さなガラスの窓をタップすれば数秒で答えが出る。
その場ではすっきりするけど、何かが閉じてしまう気もする。
すぐに調べずに、
疑問をからだに置いておく。
そうすると、私には分からない発酵のようなものが、どこかで始まる気がする。
ある日のお風呂上がりとか、
散歩している時とか、
急に「ああ、そういうことかもしれない」と立ち上がってくる。
知識ではなく、
私の中を通ったものとして。
そのためには、
すぐに答えにしない時間がいる。
パートナーが帰ってきた。
「ばあちゃん、寝たり起きたりしとったけど、元気だった」
ソファに横になったまま迎えると、近づいてきた彼のからだの熱が、そのまま伝わってきた。
