手を動かして迎える
朝、レッスンを二本終えてリビングに降りると、キッチンがいつもより明るい。
上を見ると、ライトが曇りひとつなく磨かれていて、ガラスのように光ってる。
「わぁ、すごいね。ピカピカだ!」
そう言うと、パートナーは嬉しそうに
「調味料のとこも綺麗にしたんよ」とコンロ下の扉を開けた。
「おー!すごーい!めっちゃ綺麗!」
「醤油の底もベタベタしてないじゃろ」
「ほんとだ。すごい。一つ一つ拭いてくれたの?」
満足げに扉を閉じるパートナーに、
「ねね、もう一回開けて」とささやく。
「おおー!すごーい!」
同じことを繰り返して遊んだ。
私も洗面所の掃除をし始める。
洗濯槽をつけ置きにして、
その間に、棚や洗濯機の周りを拭いてまわる。
小さな椅子に乗って、照明の上とブレーカーの蓋も拭いた。
我が家で年末らしい行事と言ったら、大掃除くらいだ。
昔は、餅をついたり、しめ縄を作ったり、
からだを動かしながら年を迎えていたんだと思う。
いまは、飾って、食べて、
それだけで季節が過ぎてしまう日もある。
けど、こうして手を動かしていると、
正月を迎える感じがしてくる。
「お昼できたよー」と声がかかり、
リビングへ。
マッシュルームのクリームパスタとブロッコリーを食べる。
「美味しいねぇ。クリーム使ってるのに軽くていいね」
「うん、いいね」
夢中になって食べ終えた。
このまま掃除の続きを、と思ったけど、
からだの重さを感じる。
「40分まで休む」
そう宣言して、ソファに横になった。
目を閉じると、みぞおちがあたたかい。
じわじわ広がって、力が抜けていく。
ゆっくり起き上がると、「ちょうど40分よ」と声をかけてもらった。
残りの掃除を済ませて、
トレーニングの復習ノートをまとめる。
彼はまたキッチンに立っている。
「何作ってるの?」
「里芋、つくられよりますけぇ」
「つくりよるよります?
だめだ。うまく言えない。もう一回言って」
「つくりよる?かな。わかんねぇ。方言は雰囲気じゃけぇ!」
勢いよく言う彼に、つい笑ってしまう。
方言って、いいな。
その土地の歴史や文化が、息づかいのまま残っている気がする。
夜ご飯を食べて、
新しいインクで絵を描く。
水をたっぷり含ませて描いた水彩画の上にインクを落とすと、
インクがおのずと水の道を見つけ、生き物のように動いていく。
にじみの中を進んでいく強さと、身を任せる穏やかさが、ひとつづきになっている。
薄い橙色のにじみの中を、一筋の群青が通っていった。
