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今ここにとどまるとき、触れられるもの

朝、歯を磨きながら、
昨日、お風呂場で浮かんだ
「からだから離れたくない。」という感覚を思い出す。

胸の奥に意識を置くと、からだの中心から下へ重心がおりていく。

洗面台の水を出す。
冷たい水が指先にふれ、
ひやりとした感触が手のひらにまで広がっていく。

冷たさがいちど強まったと思ったら、
じわじわと湯に変わり、
指先の緊張がほどけていく。

このわずか数秒の移ろいの中にも、
世界は思っているよりずっと多くを含んでいる。

思考はいつも先へ先へ急いでしまうけど、
からだの中に留まっていると、
今ここで起きていることに出会いやすくなる。


そして、からだのなかにいながら世界と触れているとき、私は決まって瞬きが増える。

もしかしたら瞬きは、
からだを通して世界を受け取っているとき、
自然に起きてくるものなのかもしれない。


最近、物事をほとんど頭で考えなくなった。
事業のことも、次にやることも、
ふと「これだ」とわかる瞬間が訪れる。


それは自分の力というより、
もっと大きなものに触れたとき、
そこから必要なことが届いているだけなのかもしれない。


お昼は、甘い卵焼き、納豆キムチごはん、白菜とわかめのお味噌汁を食べる。

あまじょっぱい卵焼きとキムチを交互に、口いっぱいにほおばった。


午後、ピアノを弾いて、レッスンを二つ終え、ひと息ついてソファに寝転がる。

ふと顔を上げると、
カーテンの折り目に夕陽が差し込み、
淡いオレンジの影と光が重なっていく。

はっとしてパレットをひらき、今見た景色を紙に落とす。
にじみ、ゆらめき、混じり合う。
そのまま筆を動かした。


まだ言葉にならないまま惹かれる時、
私たちは、思考より先に世界へ触れているのだと思う。

部屋に暗さが馴染んでくる。
あわてて灯りをつけて、
そのまま夢中で筆を動かした。



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