春に心が回り出す
朝、目が覚めると部屋の隅々まで光が入り込んでいた。
ずいぶんと寝てしまっていたらしい。
階下からパートナーが掃除機をかける音がする。
身支度を整えて、朝の瞑想を終えると、もうお昼の時間だ。
「今日のお昼はパスタを作ります!」
遅起きを挽回するように宣言して、キッチンに立つ。
鍋の残りでスープを作り、みかんを切って小皿に盛る。
しめじとエリンギをバターで炒め、醤油を回し入れてスパゲッティに和えた。
大根おろしをのせ、青ネギをちらす。
キッチンに湯気が立ち、美味しそうな香りが広がる。
うまいうまいと二人でたくさん食べた。
食後、窓を開けて、足だけ外に投げ出して横になった。
外はしんとしている。
お日様の温かさと、のんびりした時間。
しばらくすると足に日がたまって、熱くなった足先をずらす。
パソコンを開いて仕事をしているパートナーの足元で、私はごろんとしたままスマホをいじる。
春の種まきはいつしよう。
そういえば、表紙のデザインも見たかった。
思いつくまま検索をしていると、甘いものが欲しくなってきた。
「なんかアイス食べたいねぇ。コンビニでも行こうかなぁ」
「散歩がてら一緒に行こうか」と彼が乗ってくれた。
歩き出すと、遠くの傾斜にピンクの木が見えた。
「わぁ、見て! あの上、満開だよ!」
近くで世間話をしていたお母さんたちが
「あれはね、梅の花だよ。こっちに曲がると近くで見えるわよ」と声をかけてくれた。
お礼を言って、教えてもらった方へと歩く。
下から見ると、鮮やかなピンクと青空がいっそう美しかった。
コンビニで彼はコーヒーとアイス、私はバナナスムージーを買って、目の前の公園へ入った。
入口の坂を登ると、すぐに汗がにじむ。
顔を上げると、風が頬とこめかみを撫でていく。
広場では、バスケットやサッカーをする人たちが、思い思いにからだを動かしていた。
その真ん中でお母さんと一緒に野球をしている女の子がいた。
三歳くらいだろうか。自分の背丈ほどのバットを構えている。
ボールが投げられる。
彼女は思いきり振って、くるりんと回る。
若草色のスカートがゆれる。
空振りすると、すぐバットを投げて走って、球を拾う。
振る。
回る。
走る。
走っている背中にも、楽しさが溢れていて、つられて笑ってしまう。
日陰のベンチでアイスとスムージーを分けっこして食べ、
彼は先に帰って、私はもう少し公園を歩くことにした。
クククク。
ピーーチーー。
鳥の声が、木々のあいだで弾んでいる。
やわらかな空気。
あたたまった土の匂い。
さっきの若草色のスカートを思い出す。
つま先を立てて、片足に体重をのせる。
腕を少し広げる。
くるりん。
春は、こんなにも私の心を踊らせる。
世界は楽しい。
