終わってみたら、全部いい年
朝、瞑想をしたあと、
ノートに向かって頭に浮かんでいることを書いていく。
パートナーのこと。
自分の思考の癖。
今日のやること。
パートナーが休みに入ると、二人の距離が近くなるぶん、思考が忙しくなる。
「私は自分のことばかり考えている気がする」
そこから、紐をたぐるように言葉が続く。
小さな違和感が胸に引っかかる。
私はそれを落ち着かせようとして、必死になる。
気づくと、視界が狭くなっている。
書いていると、どこかで分かっていたのに、見ないようにしていたものが浮かんでくる。
ばらばらだった点が、ふいにつながる。
窓ぎわが明るくなってきた。
早めにラグを干さないと、乾かないかもしれない。
書いたページを見返して、ノートを閉じた。
昨日忘年会だったパートナーはまだ奥の部屋で眠っている。
私は先にリビングへ向かった。
テーブルをどかして、ラグに掃除機をかける。
コロコロをかけて、重曹を入れたお湯で拭いて、ベランダに干した。
バケツを片づけていると、彼が布団のあたたかい空気をまとって起きてきた。
「おはよ。お〜すげぇ。ラグがないと新鮮じゃ。ありがとう〜」
誇らしい気持ちで
「すごいでしょう」と胸を張った。
お昼を食べて、冷蔵庫の掃除をして、
今年の大掃除が終わった。
町内会で配られた門松が描かれたポスターを手に、玄関の外に出る。
「この線に合わせて貼ろうや」
「端っこはどのくらいあける?」
それぞれ一枚ずつ持って、両端に貼った。
二人で並んで門松を見る。
玄関先が、いつもより明るく見えた。
夕方、スマホを片手に仕事が進まない。
やりたかったことが手つかずのままで、気持ちだけが焦る。
「ちょっと外行ってくる。」
そう言って、コートを羽織った。
すんっと冷たい空気が鼻をぬける。
公園を通り過ぎて、路地へ入る。
足音に合わせて、思考の速度が落ちていく。
余計な声が、ひとつずつ遠のく。
住宅街をひとまわりして、家がすぐそこになったとき。
急に、走りたくなった。
気づいたら、くるりと向きを変え、足裏でコンクリートを蹴っていた。
走るのなんて久しぶりだ。
少し足元がおぼつかない。
走っているうちに、からだがリズムを思い出す。
視界が広がっていく。
さっきまで詰まっていたものが、ほどける。
白い息が、短く切れる。
からだの中は熱くなっていくのに、外気はひんやりしている。
その境目が、気持ちいい。
家の近くまで帰ってきた頃には、息が上がっていた。
肋骨の内側で、どくどくする。
その音が、胸の奥を小さく叩く。
顔を上げると、家を出たときより月が明るく、道の端まで照らしていた。
夜は年越しそばを二人でつくる。
だし汁にネギと油揚げを入れて、茹でた蕎麦を入れる。
どんぶりに盛って、茹でた小松菜と刻んだゆずを添えた。
「今年最後の食事じゃね。」
彼がそう言う。
「そうだねぇ。今年は一年どうでしたか?」
「いい年だった!」
「即答じゃん!ちゃんと考えてないでしょ」
「終わってみたら、全部いい年になるんだよ」
彼はそう言いながら蕎麦をすする。
「この蕎麦つゆ、関西風で美味しい」
器を両手で持ち上げ、つゆを飲みきった。
