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角を曲がったあとで

夢の中で、五歳くらいの娘とかけっこをして遊んでいた。

「家まで競争ね!」

そう言って勢いよく走りだす娘。

もうこんなに速く走れるようになったのか。
うれしくて、しばらく隣で一緒に走る。

娘はどんどん前へ出て、すいっと角を曲がって見えなくなった。

とたんに私の足が重くなった。
精一杯動かしても、前に進まない。

早く追いついてあげないと。
娘が不安になってしまう。

焦る気持ちと裏腹に、足はますます重くなり、
その重苦しさと一緒に、

娘はもう家に着いただろうか。
今ごろ一人で、家の前で心細く待っているのかもしれない。

張り裂けそうな気持ちのまま、目が覚めた。

夢と現実が一瞬わからなくなる。
いま目が覚めているこの朝は、本当に現実なのだろうか。

ざわついた胸の余韻を感じながら、
布団のやわらかい匂いに、ほっとする。


朝の支度をして、レッスンを終えて、
離乳食を送る準備をした。

月に一度のばあばの離乳食宅急便。
冷凍していたものを、ひとつずつ袋に入れる。

娘からのリクエストがあったパン粥も、
水分量が心配だったけどちょうどよく固まっている。

パン粥なんて、娘のときに作っただろうか。
ほとんど記憶がない。

シングルマザーで娘を育ててきた期間が長く、
仕事、家事、育児をすべて一人で回しながら、
「父としても、母としても手を抜けない」
そんなふうに、いつも気を張っていた。

仕事でどんなに疲れていても、
夕食後の三十分で絵の具や粘土で遊んだり、
週末は美術館や体験学習に出かけたり。

精一杯、愛情を注いでいたけど、
「やらなきゃ」「ちゃんとしなきゃ」に追われて、
すぐそばにあった愛おしさを見過ごしてしまっていたのかもしれない。

いま思うと少しだけ、胸がきゅっとなる。

残りの離乳食も箱につめて、
合間に娘の好きなお菓子を差し込んだ。

何かメッセージでも、と思ってカードを用意する。

「頑張って?」
いつも頑張ってるしな。

「今年はママになっていっぱい頑張りましたね」
なんか先生みたいだな。

ひとしきり悩んで、

「ママ、育児に仕事におつかれさま!
たまにはゆっくりしてね。
ばあばはいつでも、そばにいます」

と書いて上にのせる。

箱を閉じて、テープでとめる。
コートを着て、玄関を開けた。

いまだからこそ、後悔も、愛おしさも、
どちらも受け取れるようになった気がする。

冷たい空気が頬に触れて、胸の奥が少し静かになった。



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