今年が始まっていく
夜が明ける少し前、まだ暗いうちにパートナーと一緒に車で出かける。
住宅街は夜の静けさを残したまま、
遠くの空だけが、少しずつ白んできている。
「初日の出が見てみたい」
そう言ったのは昨日だった。
広島に越してきて八年。
体調が良くない時期が長かったり、離島で暮らしていたこともあって、初日の出はずっと行かないままだった。
「車で三十分くらいのところに、展望台がある山があるみたいじゃ。行ってみようか」
そう言って、彼はGoogleマップを見せてくれた。
いつもは車の流れが途切れない国道も、今朝はまだ、ほとんど車が走っていない。
その非日常さに、胸が小さく弾む。
山道へ入ると、歩く人が増えてきた。
途中で車を停めて、私たちも歩き出す。
ツィーツィー。
カカカッ。
鳥たちの賑やかな声が、こちらへ降ってくる。
彼らには、私たちの姿はどんなふうに見えているのだろう。
歩くほどに、からだの奥が熱を帯びていく。
血がめぐり、足裏が起きてくる。
坂道なのに楽しくなって、ついスキップをしてしまう。
ひらけた場所で立ち止まり、山の向こうの光に目を向ける。
山の際が、溢れんばかりにオレンジに染まっていく。
「わぁ」
思わず声が漏れた。
太陽が顔を出した瞬間、視界が真っ白になる。
輪郭だけが、ぐるぐると円を描くように光を放ち、強い白が、あたりを一気に照らした。
太陽が出る。
ただそれだけのことなのに、どうしてこんなに心が震えるんだろう。
遠い昔から続いてきたものが、
からだのどこかで反応しているのかもしれない。
パートナーと顔を合わせる。
「明けましておめでとうございます」
「今年もよろしくお願いします」
少しおどけたように言って、笑った。
マックで少し休んでから、
そのまま近所の神社へ初詣に行った。
境内に入ると、背中が自然と伸びた。
手を合わせて、頭を下げた。
家に帰って、瞑想をしたあと、
ノートを開く。
今年一年、どんな年にしよう。
私は、どんなふうに在りたいだろう。
書いては眺めて、また書いて。
手帳に出てきた言葉を写していった。
紙に書くと、ぼんやりしていたものが実体を帯びてくる気がする。
動く前に、空気が変わる。
見えない力がひとつの方向へ集まっていく。
お昼を食べて、彼はテレビを見ながらゲームをして、
私は絵を描いて、ピアノを弾いて、少しだけパソコンを開いた。
夜、庭から春菊と水菜を収穫して鍋にした。
食後にお菓子の袋を開ける。
「ポリッピーのチョコ味、初めて食べた」
「うまいじゃろ。この量が出張中にぴったりなんよ」
ポリッピーを一粒つまんで、彼に向き合う。
察した彼は、口を大きく開けて構えた。
「はいっ、いくよ!」
弧を描いて宙を舞ったポリッピーが、彼の口にすっぽり入る。
「いえーい!」
ふたりでハイタッチをした。
「私の入れ方がうまかったな」
「いやいや、俺じゃろ」
そう言いながら、もうひとつ、ポリッピーをつまんだ。
今年が始まっていく。
