固いピザと、立体を連れてくる雪
朝、目が覚めたら、もう日は高かった。
光は部屋の隅々まで行き渡っていて、
白い壁はさらに白く光を跳ね返している。
普段なら、九時と十三時にヨガレッスンがあって、その合間にあれを終わらせて、これもしなくちゃ。
そうやって先へ先へと促すものが
いつもどこかにいて、気持ちが少し急いていく。
けど今日はそれがない。
それだけで胸の奥がゆるむ。
ひとしきりごろごろして起き上がった。
歯を磨き、白湯を飲んで、瞑想をする。
背中、お腹、骨盤底。
ゆっくり意識を巡らせて、胸の奥にとどまる。
からだの中が、あたたかく満たされているのを感じた。
午後、絵を描いて、ヨガをする。
少し動くだけで、からだにぐんと弾みがつく。
そのままの流れでたまっていた書類を片して、洗濯物を畳む。
ひと息ついて、パートナーとキッチンに立つ。
この休みにピザ作りに挑戦してみよう、と話していた。
「まずは、『イーストをぬるま湯で溶かす』だって」
「ちょうど湯が沸いたよ。192gって難しいね。慎重に入れてね」
湯を入れて、粉を入れて生地を練る。
ひとまとめにして、タオルをかけて休ませる。
その間に、きのこのクリームソースを作る。
鍋にじゅうっとバターが溶けて、きのこの匂いが立ちあがる。
仕込んでおいたトマトソースを器にうつし、
じゃがいもを茹でて、カニカマとマヨネーズを和えた。
四十分後、生地を取り出す。
「あれ?あんまり膨らんでないよ?」
「なんでじゃろ?二次発酵で膨らむんじゃろか?」
生地を三等分にして丸め、もう一度タオルをかけて二次発酵へ。
待っている間、彼がスマホを見ながら急に笑い出した。
「『イースト菌は熱湯で死滅します』だって。熱湯かけちゃったね!」
「わ〜。それはやっちゃったね!」
タイマーが鳴って、おそるおそるタオルを外す。
そこには、さっきと変わらない大きさの生地が、ころんと丸まっていた。
二人で声を出して笑った。
「とりあえず、伸ばして焼いてみよう。」
しっとりした生地を手のひらにのせると、なめらかで、やわらかい。
指先で確かめながら、破れないようにゆっくり伸ばしていく。
具材をのせて、オーブンに入れた。
つい、扉の前で覗き込んでしまう。
熱の向こうから、焼ける匂いが漏れてくる。
「できたー!」
出来立てを手早く切って、テーブルに運んだ。
熱々を頬張る。
チーズがとろんと伸びて、トマトソースの香りが鼻にぬける。
「おいしい!」
「うまいね。けどやっぱ、固いねー」
「うん、かみごたえあるね」
一生懸命にピザを噛んだ。
食後、窓の外を見ると、大ぶりの雪が降っていた。
すぐそばを横切る雪は、大きく速い。
その奥では、小さな雪がゆっくり漂っている。
雪を追っているうちに、世界が立体として見えてくる。
吸い込まれるような気持ちで、しばらく見つめていた。
夜、ますます静かになる気配を感じて、外を見ると、雪が十センチほど積もっている。
屋根も車もフェンスの上も真っ白だ。
「ちょっと外に出てみよう」
そう言って二人で外へ出る。
頬に冷たさが当たって、真っ白な息が遠くまで伸びる。
しゃがんで雪をつかんで、ころころと転がす。
白いかたまりは、雪を引き連れて、どんどん大きくなっていく。
「つめてぇー」
声が響く。
大きな雪の玉を二つ重ねて、目と鼻をつける。
彼が黒い鉢植えを持って来て載せると、
穏やかな顔をした雪だるまが玄関先に立った。
指先がじんじんして、感覚が戻ってくる。
平安京みたい、と笑った。
