スタートアップの代理店販売は「小さく始める」のがコツ。パートナー戦略の立て方と選定方法
こんにちは、BtoBマーケティングとスタートアップのグロースを専門としている株式会社マイノリティ代表の柳澤大介です。
前回はパートナーセールス(代理店販売)の基礎知識について解説しました。
今回はその実践編として、具体的なパートナー戦略の立て方と、最適なパートナーを選び出す方法に焦点を当ててお伝えします。
多くの企業が「パートナーを増やしたのに、思ったように売上が伸びない」という壁にぶつかります。これは、パートナーセールスが単に数を増やせば成功するものではないからです。
限られたリソースで最大の成果を出すためには、誰と組むかというパートナー選定、そして初期段階での丁寧な関係構築が何よりも重要になります。
業界構造を分析する
パートナー戦略を立てる最初のステップは、自社が属する業界の構造を深く理解し、潜在的なパートナー候補がどこにいるのかを見定めることです。
まず、業界の商流を正確に把握することが重要。業界によって、商品やサービスが顧客に届くまでの流れ、つまり関わるプレイヤーとその役割は大きく異なります。
例えば、製造業、広告業界、IT業界など、それぞれに特有の商流があります(※詳細は前回記事もご参照ください)。自社の業界ではどのようなプレイヤーが存在し、どのような役割を担っているのかを理解することで、パートナー候補となりうる企業が見えてきます。自社の商流を図式化してみるのも良いでしょう。
次に、競合他社がどのようなパートナー戦略を取っているかを分析します。競合がどの企業と組み、どのような関係を築いているかを知ることで、業界の標準的なモデルや、自社が狙うべきポジション、あるいは未開拓のチャンスが見えてくることがあります。
競合のウェブサイト調査、業界レポートの分析、展示会での観察などが有効です。最近では、Chat GPTやGoogleのディープリサーチなどのAIツールを活用し、「〇〇社の代理店一覧」といった情報を効率的に集めることも可能です。
パートナー候補を特定する
業界構造への理解が深まったら、具体的なパートナー候補を特定していきます。「どのような企業が代理店になり得るか」という条件面と、「どうやって候補を見つけるか」という手法面から解説します。
1. パートナー候補に求める条件と考え方
有望なパートナー候補を見極める上で、いくつか重要なポイントがあります。
1つ目は、顧客セグメントの共通性です。自社と同じ顧客層にアプローチしている企業は、すでに顧客との関係性を持っているため、スムーズな販売活動が期待できます。
2つ目は、製品・サービスの補完関係です。自社製品と組み合わせることで顧客への提供価値が高まる製品を扱っている企業も、良いパートナー候補となります。互いの強みを活かせるため、協力関係を築きやすいでしょう。
3つ目は、販売力の評価です。パートナー候補がどれだけの営業リソースを持ち、どのような顧客基盤を持っているかを見極める必要があります。
これらの観点から潜在的なパートナー候補をリストアップし、自社との親和性や販売力などを基準にスコアリングを行うと、アプローチすべき優先順位が明確になります。
ただし目星を付けた会社がすでに他社とエクスクルーシブ契約(独占契約)を結んでいるケースもあります。
その場合はスピーダのような企業データベースで分析し、目星を付けた代理店と類似した特性を持つ企業を探す、といったデータ活用も有効です。
2. パートナー候補の具体的な探し方
有望なパートナー候補を効率的に見つけるための具体的な方法も見ていきましょう。
AIを活用したリサーチツールの活用は、前述の競合調査だけでなく、特定の条件に合う企業リストを作成する際にも役立ちます。「A社が過去3年間に出展した展示会」といった情報から、業界内での活動状況を把握できます。
専門家へのヒアリングも有効です。ビザスクのようなプラットフォームを使えば、特定の業界に詳しい人物に直接話を聞くことができます。自社に知見がない業界への参入を検討している場合、現場のリアルな情報を得られるだけでなく、その場で有力なパートナー候補に出会える可能性もあります。
特定の業界に特化したい場合は、業界団体へのアプローチも効果的です。シェアリングエコノミー協会、日本マーケティング協会、各種ユーザー会など、自社のターゲット層や関連企業が集まる団体に参加することで、自然な形で接点を持つことができます。
パートナーセールスは長期的な信頼関係が求められるので、オフラインでの関係構築も重要になるでしょう。
理想的なパートナー像を設定する
パートナー候補がある程度見えてきたら、次にアプローチの優先順位を決定します。
最優先すべきは、やはりターゲット顧客との親和性です。製造業向けなら製造業に強いコンサルティング会社(たとえば船井総研の製造業部門)、地域密着なら地方銀行など、すでにターゲット顧客との信頼関係を築いているパートナーは非常に強力です。
次に、実際の販売力です。単なる企業規模ではなく、ターゲット層の顧客基盤の大きさ、営業リソースの充実度、そして業界での信頼性といった観点から評価します。
例えば、店舗ビジネスに強いUSENは、その業界向けサービスを展開したい企業にとって有力な候補となります。おそらくSmartHRやタイミーなどが活用しているはずです。
候補の中から優先順位をつけるために、パートナー候補をスコアリングすることも有効です。先ほど触れたスピーダのようなツールで既存顧客データと候補企業を比較分析し、類似性の高い企業をリストアップします。
もちろん、スコアだけでなく、競合との関係性など実現可能性も考慮して最終的な優先順位を決定します。
初期段階は「小さく始める」のが最重要
パートナーセールスを開始する際、多くの企業が陥りがちなのが「とにかく数を増やす」という考え方。しかし、成功への近道は、「小さく始めて、深い関係を築く」ことにあります。
なぜ少数精鋭が良いのか? まずはリソースの問題です。特にスタートアップでは、パートナー支援に割ける人手も時間も限られています。多くのパートナーと浅く付き合うより、少数のパートナーと密接に連携する方が効果的です。
次に、教育・サポートの質を保つためです。パートナーが自信を持って製品を売るには、丁寧な教育とサポートが不可欠ですが、数が増えると一社あたりにかけられる時間が減ってしまいます。
そしてさらに大事なのが、成功モデルを確立しやすいという点です。少数のパートナーで成功事例を作り、そのノウハウを横展開する方が、効率的にスケールできます。
そのため、パートナーセールスの初期段階では、パートナー数を3〜5社程度に絞ることを強くお勧めします。この規模であれば、各社に十分なサポートを提供できると思います。
また、パートナーからのフィードバックも即座に収集でき、製品改善などに活かしやすくなります。実際、売上の大部分はごく一部の「本当に動いてくれる」パートナーが生み出すことが多いものです。
そして何よりも、最初のパートナーで成功事例を作ることが極めて重要です。成功事例は、新たなパートナーを開拓する際の強力な武器になります。
成功モデルができれば、それを他のパートナーに横展開していくことで、効率的な拡大が可能になります。
パートナー開拓のアプローチ法
理想的なパートナー候補を絞り込んだら、次はアプローチです。
有力候補に対して特に有効なのが、「CXOレター」です。これは、企業のトップマネジメント層宛てに送る、パーソナライズされた手紙のこと。
単なる営業レターではなく、明確なパートナーシップの提案や相手企業にとってのメリットなどを具体的に盛り込むことが重要です。
相手企業のビジネスにいかに貢献できるかを明確に示すことで、トップの関心を引きつけるようにします。
繰り返しますが、アプローチは優先順位をつけて行いましょう。候補を重要度に応じて分類し、まずは最優先の候補に集中的にアプローチします。とにかく「小さく始める」ことをお忘れなく。
Tier1代理店の候補は規模の大きい企業になることが多いです。その場合は組織構造まで分析し、キーパーソンに的を絞ってアプローチする必要が出てきます。
それはまさにエンタープライズセールスの手法となりますので、よかったら以下のマガジンもご参考に。
一度のアプローチで関係ができることはないと思いますので、継続的なフォローアップを心がけましょう。そして、少しでも実績が出始めたら、その成果を共有し、さらなる協力関係へと発展させていきます。
パートナーセールスは契約がゴールではありません。そこから始まる継続的な関係構築のプロセスそのものが成果に直結します。
今回はパートナー戦略の立て方と選定方法について解説してきました。パートナーを見つけたら、次は実際にパートナーシップを形にしていく段階です。次回は「インセンティブ設計と契約形態」に進みます。
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