見出し画像

パートナーセールスでよくある失敗パターンと、成功パターンを事例で解説

こんにちは、BtoBマーケティングとスタートアップのグロースを専門としている株式会社マイノリティ代表の柳澤大介です。

これまで数回にわたって、スタートアップがパートナーセールスを始めるためのノウハウをまとめてきました。マガジンにまとめてありますので、よかったら最初から読んでみてください。

今回の最終回では、パートナーセールスにおける典型的な失敗パターンと、実際の成功事例を紹介します。

パートナーセールスにおけるよくある失敗パターン

パートナーセールスを始めた企業が陥りやすい失敗パターンをいくつか紹介します。これらを事前に認識しておくと、同じ失敗を避けることができるはずです。

競合他社に先にパートナーを押さえられる

パートナーセールスにおける大きな痛手の一つが、重要なパートナーを競合に先に押さえられてしまうことです。特に「エクスクルーシブ契約」(独占契約)を結ばれてしまうと、そのパートナーを通じた販売の道が完全に閉ざされてしまいます。

例えば、SmartHRが大塚商会と独占契約を結んでいたら、競合の人事システム会社は大塚商会という大手の販路を通じて販売することができなくなります。こうした場合は他の販路を探さざるを得なくなり、市場への浸透スピードが遅れることになります。

この問題を避けるためには、第2回で解説したようなパートナー戦略の早期立案と、業界内の有力パートナーの特定、そして競合より先のアプローチが重要です。特に業界をリードするような大手パートナーとの関係構築は、市場での優位性を確保する上で極めて重要です。

実際、パートナー候補の多くは複数の商材を扱っていますので、完全な独占契約を結ぶことは難しいことがあります。しかし、「主力として推奨する商材」のポジションを競合に奪われることは、経験上、かなり大きな機会損失となります。

大量のパートナー契約と、少ない成果

「たくさんの会社とパートナー契約したけど売れるのはそのうち数社だけ」という状況は、パートナーセールスにおいてよく見られる失敗パターンの一つです。

多くの企業が陥りがちな罠は、パートナーの「数」を追求すること。「契約パートナー数」といったわかりやすいKPIや短期的な成果指標に注目してしまい、一社一社との関係構築や実際の売上貢献までフォローが行き届かなくなるのです。

結果として、多くのパートナーと契約は結んだものの、貴重な社内リソースが分散し、一社あたりのサポートは手薄になりがちです。これではパートナーの製品理解も進まず、販売する意欲も上がりません。

気づけば、実際に売上に貢献するのはごく一部のパートナーのみ、という非効率な状況になってしまいます。

この問題を避けるための基本的な考え方は、前の記事でも解説した通り「小さく始めて、深い関係を築く」ことです。特にリソースの限られるスタートアップは、初期段階では数社に絞って手厚くサポートし、成功モデルを確立することに注力すべきです。

インセンティブだけに頼り関係構築を怠ってはダメ

インセンティブ設計のうち、条件面だけに注力し、関係構築を怠ってしまうのもよくある失敗パターンです。

実際、「パートナーへの卸値を低く設定すれば、利益が出るのだから積極的に売ってくれるはずだ」という期待をしてしまうケースはよく見られます。これは私も過去に痛感した点ですが、大きな誤解です。

パートナー企業も複数の商材を扱っているため、単にマージンが良いというだけで自社製品を優先的に販売してくれるとは限りません。日常的なコミュニケーションや信頼関係がなければ、パートナーにとって「売りやすい」「サポートしやすい」「紹介したい」商材にはなりにくいのです。

インセンティブは確かに重要な動機付けの一つですが、それだけでは不十分。パートナーに「この製品を売りたい」と思ってもらうためには、定例会議、勉強会、販売ツールの提供といったサポートと、それを通じた信頼関係の構築が不可欠です。

その関係性があって初めて、インセンティブが効果的に機能すると言えるでしょう。結局、ビジネスも人と人との繋がりがベースにあるということです。

パートナーのビジネスモデルの理解不足

最後に、見落としがちですが重要な点として、パートナー企業のビジネスモデルや状況を理解せずに協業を進めてしまう失敗も挙げられます。

パートナーの顧客層や普段の売り方、収益モデルなどを理解しないまま「とにかく売ってください」と依頼しても、効果は期待しにくいでしょう。

契約前のコミュニケーションを通じて、相手のビジネスを深く理解し、自社製品がどのように貢献できるかを一緒に考える姿勢が、成功の鍵となります。ここを怠ると、あとで「こんなはずじゃなかった」となりがちです。


これらの失敗パターンは、独立して存在するわけではなく、ほとんどの場合互いに関連しています。例えば、初期に多数のパートナーと契約すれば、必然的に一社あたりのサポートが薄くなり、結果として関係構築が不十分になります。

また、パートナーのビジネスモデルを理解していないと、適切なインセンティブ設計も難しくなるでしょう。結局のところ、「理解」や「関係」といったキーワードが大事になってくるんです。

次に、具体的な成功事例を見ていきます。

ニュースアプリのケーススタディ

私が過去に在籍していたニュースアプリの会社は代理店販売を中心としたセールスモデルを構築し、売上の大半を代理店チャネルから生み出した事例です。

今回は特に、同社の初期の代理店戦略、一次・二次代理店構造といった側面に焦点を当てて解説します。

初期の代理店戦略

このニュースアプリの初期の代理店戦略で特徴的だったのは、立ち上げ段階から代理店チャネルを重視した点です。多くのスタートアップが最初は直販から始めるのに対し、広告ビジネスという特性から早期に代理店モデルを採用しました。

直販の営業部隊の立ち上げと並行して、代理店戦略も推進したのです。そして初期の代理店対応では、代理店の人員にも自社オフィスに常駐してもらうという徹底した関係構築を行ったことが、のちの成長の基盤となりました。

これは「単なる外部パートナー」ではなく「拡張された自社チーム」として捉える視点があったからこそできた取り組みです。

ここまでやるのか、と思われるかもしれませんが、この初期の信頼構築があとになって大きく効いてくるんです。

一次代理店と二次代理店の構造

このニュースアプリの会社が構築した代理店構造の特徴は、限られた一次代理店とだけ直接契約をした点にあります。だいたい5社程度に絞っていました。これらの一次代理店の下に、より小規模な二次代理店、三次代理店が位置する階層構造を採用していたのです。

この構造の大きな利点は、自社側のリソース効率です。限られたチーム規模でも効果的なパートナー管理が可能になりました。

新たな代理店からの問い合わせがあった場合も、すべて一次代理店を紹介するというシンプルな対応が可能になりました。これにより、パートナー管理の複雑さを大幅に軽減しながらも、販売網の拡大を実現できたわけです。

成功要因の分析

このパートナー戦略が成功した主な要因の一つとして、広告業界の商流に対する深い理解が挙げられます。

広告業界ではクライアント(広告主)と広告媒体の間に代理店が入るのが一般的な構造ですが、同社はこの既存の商流を最大限に活用しました。既存の商習慣に逆らうのではなく、それを活用する戦略が最も効果的だったのです。

広告業界の商流

このような戦略的な取り組みにより、このニュースアプリは代理店との関係を構築し、急速な成長を実現しました。

ベルフェイスのケーススタディ

ベルフェイスは、Salesforceとの強力なパートナーシップにより成功した代表的な企業です。どうやって有力なプラットフォーマーと連携し、独自のポジションを確立していったのか、その戦略に焦点を当てます。

Salesforceとの効果的なアライアンス

ベルフェイスは営業向けの電話面談システムを販売していますが、彼らの戦略の特徴は、単なる「代理店」としてではなく、「補完製品」としてのポジショニングを確立した点にあります。

元COOの西山直樹さんが「販売チャネルの中で最も有力な手段がアライアンスだった」と過去に明かしているとおり、特にSalesforceとのアライアンスが成果を上げたそうです。

ベルフェイスのアプローチは、単独で顧客獲得を目指すよりも、すでに顧客基盤を持つSalesforceのエコシステムに参入することで、効率的に市場浸透を図るというものでした。これは限られたリソースを持つスタートアップにとって、非常に合理的な選択です。

補完製品としてのポジショニング

その戦略で最も特筆すべき点は、Salesforceの機能を拡張し、補完する製品としてポジショニングした点です。

具体的には、Salesforceのアプリとしてベルフェイスが連携できるように技術開発を行いました。例えば、ベルフェイスで電話や商談をすると、その内容が自動的にSalesforceの顧客データに同期されるといった機能を実装したのです。

この連携により、ベルフェイスは売り上げを伸ばしていきました。こうした「補完製品」としてのポジショニングは、パートナーシップの形態として非常に効果的なモデルの一つです。

単に「売ってください」ではなく、相手のビジネス価値も高める。この視点がパートナーシップでは本当に重要だと思います。

エコシステムへの参加と信頼構築

さらにベルフェイスは、Salesforceのユーザーコミュニティといったエコシステムにも積極的に関わっていたと思います。単に自社製品を宣伝するのではなく、 ノウハウ共有や勉強会登壇など、参加者への情報提供を積極的に行うのです。

アライアンスを成功させる上では、パートナーのエコシステムに貢献し、長期的な関係性を築く視点も重要になります。結果を急ぎたくなりますが、こういう地道な活動が信頼につながるというのも実感するところです。

ベルフェイスの事例から学べるのは、強力なパートナーを見つけ、そのエコシステムの中で自社の価値を明確にし、さらにコミュニティへの貢献を通じて信頼を勝ち取っていくという、多角的で長期的なアプローチの重要性です。

AIなどの“革新的な”製品に特有の課題も

ここまで典型的なパートナーセールスの成功事例や失敗パターンを見てきましたが、最近の技術革新、特にAIのような先進技術を活用した製品では、従来とは異なるパートナー開拓の状況も生まれています。

代理店からのアプローチが自然に集まるケース

通常のパートナーセールスでは、メーカー側が代理店を開拓するためにかなりの労力をかけますが、革新的な技術を持つ製品の場合、状況が逆転することがあります。

例えば、仮に「AIによる契約書レビュー自動化SaaS」といった商品があったとします。AIを用いた技術的な新しさから、プレスリリースを出すと多くのSIerから「代理店として扱わせてほしい」という連絡が来たりします。

同様に、AIスタートアップが何らかのプレスリリースを出すと、代理店企業も常に新しい商材を探しているため、すぐに問い合わせをするケースが増えています。

このように、技術的な差別化があったり、特にAIのようなトレンド領域のど真ん中にある製品は、パートナー開拓に苦労しないことがあります。生成AIなどは非常に注目されている技術であり、代理店も取り扱いたい商材の一つとなっているのです。

革新的製品によくある課題

しかし、それでもパートナーセールスには課題が出てきます。 積極的なアプローチを受けても、すぐに契約してしまうと「全然売れない」という結果になりかねません。

なぜなら、技術の専門性が高い製品の場合、パートナーへの教育・サポートに一定の負担がかかるからです。

先ほど例に挙げたような「AI契約書レビューSaaS」のように専門性の高いAI製品では、製品の技術的な理解、適切な導入・運用に関するオンボーディングが難しく、パートナーだけでは顧客サポートを完結できないことが想定されます。

結局はパートナー選定の基本に立ち戻る

このように、最新技術を用いた製品には特有のメリットや課題もありますが、結局のところ、パートナーを選定する上での基本的な考え方は変わりません。

引き合いが多い状況だからこそ、数より質を重視し、「小さく始めて、深い関係を築く」という原則でパートナーを選定することが重要なんですね。

最後に、パートナーセールスとは

パートナーセールスについて解説する一連の記事シリーズでは、基礎知識から具体的な実践方法まで、順をおって解説してきました。

最後にあらためて強調したいのは、短期的な目標ではなく、長期的な信頼関係の構築こそがパートナーセールスの成功をもたらすという点です。

そのためには、これを「単なる販売チャネルの追加」ではなく「長期的なビジネスパートナーシップの構築」と捉える視点が何より大事になってきます。


こちらのメルマガでもBtoB企業のグロースに役立つ情報を配信しています。

いいなと思ったら応援しよう!