【あなたの2000年代を聞かせて】第3回ゲスト:矢野利裕(その②)
サムオブメンバーが様々なゲストを招いて2000年代についてトークする連載。第3回のゲストは批評家・ライターで、都内の中高一貫校に勤務する矢野利裕さん。(その②)では、矢野さんが高校生のときに組んでいたミクスチャーロックバンドの話と、ORANGE RANGEになって売れようとした後輩について語ってくれました。(その①)は下記リンクから。
矢野:僕は高校3年時が2001年なんだけど、その年の文化祭の後夜祭に出たんです。そこでは他の人はみんなバンドをやるんだけど、僕らは8MCs1DJでTMC ALLSTARSをやったんです。TMC ALLSTARS知ってますか?
カンノ:はい、知ってます!
矢野:TMC ALLSTARSは、Dragon Ash、RIP SLYME…
カンノ:ラッパ我リヤ、SBK、PENPALSもいましたね。
矢野:あとはMissile Girl Scootもいました。TMC ALLSTARSの「TMC Graffiti」という曲は、そういうポッセカットみたいな曲でした。
矢野:そういう集まりって2001年っぽいですよね。で、後夜祭でTMC ALLSTARSをやるに至る経緯を説明すると、当時、軽音楽部はX JAPANからメタルやヴィジュアル系に傾倒するやつらと、当時流行していたメロコアに傾倒するやつらの2つが大きな派閥だったんです。90年代の東海岸ヒップホップ好きは、同じ学年で僕以外にたぶんいなかった。僕はサッカー部だったんだけど音楽は大好きで、でもメタルもメロコアもそんなに好きではなくて、その時は「もうバンドはダサいでしょ」みたいな感覚だったんですよね。それで、サッカー部を引退したタイミングでターンテーブルを買ったんだけど、当時は後夜祭に出るほどヒップホップという音楽にポピュラリティはなかったと思う。でも、ちょうどRIP SLYMEがTMCとかDragon Ashとかメロコアの流れから発見される感じがあって、興味ありそうなメロコアの連中に「一緒にやらない?」って声をかけたんですよね。言い出しっぺは元サッカー部の陽キャな感じの友人で、そいつはいわゆる音楽好きという感じではなかった。音楽的なこだわりというよりかはファッション的にヒップホップとかDJとかも入れてなにか目立つことがやりたいっていう軽い感じ。「矢野ちゃん、文化祭でDJやろうよ」みたいな。メロコア勢の協力を得るために軽音部のやつらも2~3人くらい誘ってライブをすることにしたんだけど、メンバーの主体は基本的にサッカー部とか帰宅部の仲間たちだった。みんな全然音楽に詳しいわけではなくて、いわゆるパリピというかそういう感じの友人たち。それでTMC ALLSTARSをやったんです。
カンノ:なるほど。
矢野:そもそも当時は12インチのインストがないとトラックかけてライブができなかったんだけど、TMCはアナログを切っていたのでライブができた。当時のことを思い出すと、僕はヒップホップが好きで、でも周りはメタルやメロコアが好きだったのもあって、妥協的にTMC ALLSTARSをやった感じだった。それが高3の秋の文化祭。その後、高校卒業のタイミングで軽音部の人たちが中心になって卒業ライブを企画したんだけど、僕らもそこにヒップホップのチームで出演したんです。今、思い出したけど「チャッカメン」っていうユニットでした。「観客の心に火を付ける。Light My Fire!」とか言ってた(笑)
カンノ・オノウエ・YOU:アハハハハッ!
カンノ:チャッカメンは何人MCですか?
矢野:TMC ALLSTARSをやったやつらがそのままチャッカメンというクルーになって、メンバーは8人くらいいたかな。で、最初にDragon Ashの「Amploud」、2曲目に大神「大怪我」をやったんですよね。
矢野:レパートリーの条件は12インチでインストがあること。ほかの軽音部の子たちはオリジナル曲やメロコア系の曲をやっていました。それで、企画の最後では全バンドがみんなで一緒にステージに上がるんです。ギターはこのバンドのこいつ、ドラムはこのバンドのこいつ、みたいな感じでね。その最後の曲がDragon Ash「Viva la revolution」でした。
矢野:僕はチャッカメンを代表してDJとしてステージにいるんだけどスクラッチとかができるわけじゃないから、サンプラーで「ビバ!ビバ!ラレボリューション!」とひたすらボタンを押す係(笑)
カンノ:いい話ですね~(笑)
矢野:でね、ヒップホップってその後流行っていくじゃないですか。音楽番組とかでもKICK THE CAN CREWを観るようになったり。そうすると、僕は世間でヒップホップが流行り始めるよりも早くヒップホップを聴いていた人ということになるんですね。だから、大学に入ってからは、最近ヒップホップを好きになってきた人が「いいのある?」みたいに僕に聞いてくれることが多かった。
カンノ:教えていく立場になるんですね。
矢野:そんななか、高校の軽音部でメロコアをやっていた1つ下の後輩がだんだんミクスチャーをやり始めるようになるの。それで、ミクスチャー曲のオリジナル曲を作るときに「ラップの歌詞を書いてよ」とか言われたりしたの。でも、打ち込みのトラックのラップとミクスチャーのラップってまた違うじゃないですか。ミクスチャーのラップは硬く踏んでいくよりラウド感があったほうが映える。そういう違いもわからずにリリックを書いていたから、ちぐはぐな感じがあったりもしました。それで、その後輩のやってたバンドっていうのは、次第にポップ路線のミクスチャーバンドになっていって。当時結構ライブにも行っていたけど本当に良い感じにポップで盛り上がっていて、「頑張ればインディーデビューできるんじゃない?」みたいなことを言い合っていたのが2003年から2004年くらい。でね、僕は当時、ORANGE RANGEを結構悪く言ってたの。
カンノ:ORANGE RANGEを悪く言う流れはありましたね(笑)
オノウエ:僕は中2のころやってました(笑)
矢野:「ORANGE RANGEはよくできているけどフェイクだ」みたいな(笑)一方、後輩のバンドは明らかに「花」みたいな泣かせる感じのラップをしていて。
カンノ:泣かせるラップも流行ってましたよね。湘南乃風「純恋歌」とか。
矢野:正直、ORANGE RANGE化していく後輩に「なんだよ、コイツ」って思っていたんですよ。だから、ライブのあとに居酒屋で後輩とそういう話もするんだけど、そしたら彼が「だけど矢野君、俺だって売れたいんだよ!」って。
カンノ・オノウエ・YOU:アハハハハッ!
矢野:「売れるんだったらORANGE RANGEでもなんでもやるよ」って言い出して。僕は「コイツ、マジでフェイクだなあ…」って思いつつ、ちょっと文学的な葛藤だなとも思ったり(笑)で、これは今の考え方にもつながる話なんだけど、僕はそのときはもう大学院に進学するつもりだったんだけど、就活をのぞいてみたり教育実習に行ったりとかもしていたので、スーツを着ることが多くなっていたの。それで、その帰りとかに後輩のライブに行くから、僕はスーツ姿でライブハウスにいるんですよ。でも後輩は、そのスーツを着てライブに来る僕を見てショックだったらしくて。「矢野君も就職するの?」みたいな。
カンノ:スーツ姿で来る矢野さんにがっかりする。
矢野:そのときの僕は、ECDにも影響を受け始めていて「労働と音楽」「ヒップホップと社会貢献」みたいなメンタリティになってるの。
カンノ:「本業があったうえでの表現」って矢野さんはよく言われてますよね。
矢野:そうそう。そういうことを考えていたから、単に「売れたい」って言って自分の音楽表現の核みたいなものがわからなくなって、好きでもないのにORANGE RANGEみたいなことをやってるほうがダサいし子供っぽい、と思ってしまったんです。自分もルサンチマンみたいなものがあったから、そういうことにすごくムカついたりしてた。で、僕は高校で非常勤講師をやりながら自分なりのかたちで音楽を続けていくんですけど、しばらくして久しぶりに学生時代の仲間と飲んだときに、そのORANGE RANGEを目指していた後輩がスーツ姿で現れてね。
オノウエ・YOU:おぉ~!
矢野:それは2008年か2009年くらいだったけど、なんかいろいろ考えちゃったね。
カンノ:スチャダラパー「From 喜怒哀楽」の「哀」みたいな話ですね(笑)
YOU:これまでの話って、矢野さんは音楽活動において「なにが本当にハーコーか」を大事にしてきたっていうことですね。
矢野:本当にそうかもしれないですね。ハードコアに音楽をやるってやっぱり地に足を付けていることだと思う。ECDとかLess Than TVの谷ぐちさんを見ていてもそう思う。
オノウエ:僕らの周りって、「音楽でなんかやれたらいいけど、そんなわけねえよな」っていう諦念があるんですよ。だからバイトしつつも「いつかはバンド一本でやってく!」っていうよりは、みんな普通に正社員やりながら、音楽をやる人が多い気がする。
カンノ:それは前提だよね。
オノウエ:だから「売れるためにORANGE RANGEでもいい」っていう人がいなかった。2010年代はカンノとバンドをやってたけど、逆に「俺らでもCDって出せるんだ!」って思ったもん。
カンノ:そういえば、僕は当時の会社の営業車でTOKYO FM聞いてたら、自分たちの歌が「今月のパワープレイです」みたいなレコメンドをされていましたね。
矢野:素晴らしいエピソードですね。それはグッときます。
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