「企業の医者」はAIで進化する—公認会計士に求められる人間力と成長意欲
本連載では、生成AI時代のハローワークとして、子どもに人気な職業トップ100について、「AIでなくなる仕事・残る仕事」というテーマでインタビュー形式で記事化していきます。
今回は「公認会計士」です!
AI技術が急速に進化し、幅広い業務領域で活用が進むなか、公認会計士の世界でも大規模言語モデル(LLM)をはじめとする生成AIの導入が検討・実践されはじめています。仕訳テストの自動化や監査調書のドキュメンテーション支援など「業務効率化」の期待がある一方で、セキュリティ面・品質面への懸念も。果たして、公認会計士という仕事はAIによってどう変わるのでしょうか?
スタートアップ監査やベンチャー企業の上場支援に尽力されている会計士の福田さん(仮名)に、これまでのキャリアやIPO監査に対する想い、そして「AI時代における会計士の役割・必要なスキル」についてお聞きしました。
医者志望から「企業の医者」へ――キャリアの転機とは?
― はじめに、会計士を志したきっかけや、これまでのキャリアを振り返っていただけますか?
私は高校時代、もともとは医学部を目指していました。弟が幼い頃に病気で手術を受けて助かった経験があって、医者は人の役に立つ仕事だと強く思っていたんです。ただ、高校で進路を考えていく中で「医療現場には派閥やしがらみがある」「理想とは違う部分もあるのでは」と感じ始めました。
そんなとき、父が大手証券会社でIPO業務に携わっていて「楽天やソフトバンクといったベンチャー企業が面白い」と話していたことが大きなインプットになりました。そして慶應大学の経済学部の資料に「会計士は企業の医者」と書かれていたのが目に入り、「人を直接救う医者ではないけれど、企業をサポートする道があるのか」と興味を持ったのが始まりでした。
大学卒業後に4大監査法人と呼ばれる監査法人の一つへ入所し、IPO準備企業の監査を9年ほど担当。その後、投資・コンサル会社へ移り、自社のマザーズ上場や監査役・社外役員としてベンチャー支援に関わりながら、「スタートアップの支援に注力する監査法人が必要ではないか」と感じました。ちょうどIPO監査を受けられず困っている“監査難民”が増えていた背景もあり、そうした困りごとを解決しつつ、若手会計士がスタートアップ企業を知る場にもなるような監査法人を、と思い現在の監査法人の立ち上げにも関わりました。
IPO「監査難民」を救いたい―監査現場への復帰
―監査現場に戻られた背景や狙いは何でしょうか?
IPO準備企業を見ていると「監査法人が見つからない」「監査を受けたいのに誰も引き受けてくれない」と苦労しているケースが少なくありません。私自身、ベンチャー支援をする中で、広い意味でのIPO監査の担い手不足を痛感しました。そこで私が得た経験やネットワークを生かすことで「IPO監査の裾野を広げられるのではないか」「若手会計士にとってもスタートアップとともに成長する機会を作れるのでは」と考えたんです。
実際、スタートアップのビジネスモデルはとても面白いですし、監査人として財務諸表や内部統制をチェックするだけでなく、経営者と議論しながらリスクを見極める仕事には大きなやりがいがあります。だからこそ、現在はIPO領域に注力しながら、監査品質を高めつつ、若手会計士の育成やスタートアップ支援にも力を入れています。
生成AIは「監査」をどう変える?― 監査の未来と会計士の役割
― 最近は会計士の業界でも、生成AIや大規模言語モデルを使ったツールが注目されています。IPO監査の現場ではどのような変化が期待できそうでしょうか?
大企業の監査では、すでに膨大な証憑データや仕訳データを機械的に突合し、異常値を検知する仕組みが進んでいます。大規模言語モデル(LLM)を導入すれば、監査調書のドラフトや法令・会計基準のリサーチを短時間で行うことも可能でしょう。これにより「定型業務を効率化し、より重要な判断業務にリソースを割ける」メリットは確かにあります。
ただ、IPO監査の場合、対象がスタートアップ企業であることが多く、データが整理されていない、体制がまだ十分整っていないケースも珍しくありません。ですから「AIで監査業務を一気に自動化」はなかなか難しい側面があります。最終的に「このビジネスモデルならどんなリスクがあるか」「この契約書はどういう意味合いか」を経営者と擦り合わせる必要があるので、AIの力を借りながら、結局は会計士が対面でコミュニケーションし、判断するプロセスが不可欠という感じですね。
IPO監査における会計士の役割はどう変わる?—若手会計士の学びの機会
― 生成AIによって定型業務が減り効率化されると、若手会計士の成長機会が奪われるのではないかという声があります。この点をどうお考えでしょうか?
確かに、仕訳テストや証憑の突合といった定型業務は今後ますます生成AIに置き換わっていくと思います。しかし、私はむしろこの変化が若手の学びを加速する可能性もあると考えています。もう少し、踏み込んでお話すると、大きな差がつくようになるのではと思います。
定型業務の負担が減れば、若手のうちからより高度で本質的な仕事—つまり「対人コミュニケーション」「リスク評価」「戦略的視点」などを早期に経験できるようになります。実際、IPO監査の現場ではスタートアップ企業の経営者との直接的なディスカッションを通じて、ビジネスモデルや組織運営のリアルに触れ、学ぶ機会が豊富にあります。
会計基準の知識は教科書やデータベースで十分に得られますが、具体的な企業の状況に応じて下す判断はケースバイケースであり、そこにこそ会計士の真のプロフェッショナリズムが求められます。定型業務の時間が減るからこそ、「企業の医者」としての本質的な役割に若手が早くから携われるのです。
「生成AI活用時代」は若手の成長意欲が問われる
一方で、汎用的な作業がAIによって効率化されると、仕事の中で何を伸ばすかは個人の姿勢次第で明確な差がついていきます。「仕事が楽になって良かった」と捉える人と、「空いた時間を使ってより高度なスキルを磨こう」と考える人では、数年後の成長に大きな差が出ると思います。
近年は待遇改善が進み、若手が猛烈に働くという環境は以前より少なくなりました。こうした中で、若手一人ひとりの可能性を見極めながら、ストレッチした課題を与え、そのアウトプットを見て育成方法を調整する必要があります。これは簡単なことではありませんが、生成AI時代だからこそ、より一層個々の「学ぶ意欲」や「成長への姿勢」が重要になるのだと感じています。
with AIで広がる新たな可能性—総合アドバイザリーへの発展
― 効率化だけでなく、新たな付加価値が生まれる可能性についてはどう見ていますか?
IPO準備企業は会計や内部統制だけでなく、経営計画の策定や資金調達、株価算定など幅広いサポートを必要とします。こうした業務は、会計士の専門知識とAIの分析力を組み合わせることで、より早期に課題を発見できたり、不正リスクを高度に検出できたり、さらに戦略的な経営支援にも踏み込めるようになると思います。
とくにAIが得意とするデータ分析や大量のテキスト処理は、IPO審査や関連機関への説明資料づくりの段階で大いに役立ちます。一方、最終的な判断や経営者への提案は「人間が責任をもって行う」必要がある。そこに「総合アドバイザリーサービス」の可能性が大きく広がると思いますね。
AI時代がさらに進み、監査における効率化や自動化が進んでも、IPOを中心とした成長企業支援のニーズは絶対になくならないと思います。 まずはIPO監査の品質と価値提供を徹底し、企業と投資家から「ここに任せれば安心」と評価いただくことが重要。そしてその評判を聞いて、志ある会計士が「自分もここで働きたい」と思ってくれる好循環を作り出したいですね。ゆくゆくは、IPO後の上場企業に対するアドバイザリーサービスの提供や、海外も含めた新たなビジネス展開も視野に入れていきたいと思っています。
会計士を目指す若者へのメッセージ
― 最後に、これから公認会計士を目指す方々へのメッセージをお願いします。
公認会計士は、会計監査だけではなく、M&A、IPO支援、コンサルティング、AI・データ分析など、ほんとうに多彩なキャリアパスがあります。まずは「自分が面白いと思う分野」を見つけて、その専門性を深めていくのが大事。
私自身はIPO監査が好きで「スタートアップの経営者と対話しながら、企業を成長させる仕組みづくりに関わる」という魅力を実感しています。もし同じようにIPO監査に興味がある方は、ぜひ一緒に企業の成長を支える基盤づくりに挑戦しましょう。
AI時代は、定型業務が減るぶん、人間の想像力と専門性がより問われます。だからこそ、公認会計士としての「専門知識 × 想像力」で新たな価値を生み出し、企業や社会に貢献していける可能性はますます広がっていると思います。
インタビュアーあとがき:「企業の医者」として、より高度な判断を求められる時代へ
会計監査の現場では、仕訳テストや証憑の突合など、定型的・反復的な業務が多くあります。生成AIの導入により、こうした「機械が得意とする作業」は大幅に効率化が進むでしょう。一方で、IPO監査の現場では、スタートアップ経営者のビジネスモデルを深く理解し、リスクを見極め、上場審査やガバナンス整備を伴走しながらサポートするという複雑な課題も山積み。まさに「企業の医者」として、ケースバイケースの判断とコミュニケーションが求められます。
「AIは、会計士の仕事を奪うのか?」─ このインタビューを読めば、その答えは明白です。むしろ、煩雑な作業を任せて人間が「判断」や「対話」に集中できる環境が整うことで、会計士はさらに専門性とコンサルティング力を発揮できるはずです。「人に寄り添うか、企業に寄り添うか」という福田さんの原体験が示すように、会計士という仕事は一貫して「困っている相手を支える」存在。生成AI時代になってもその本質が変わることはなさそうです。
一方で、「生成AI活用時代」は大きな差がつきだす。若手の成長意欲が問われるようになるというのは、重要な視点だと思います。効率化され生み出された時間の中で、どう成長し、どう自分の頭で考える時間を創出できるかは、あらゆる職業で求められる姿勢でしょう。
「企業の成長を支え、未来を創る」──この醍醐味を体感できる公認会計士という仕事は、AIが発展していくほど、逆に「人間らしい判断」の重みが増すのではないでしょうか。もし、経営や数字の面白さに興味があるなら、会計士という道はこれからも魅力的な選択肢であることは間違いありません。
