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「非日常」をつくる仕事―AI時代のホテルスタッフの未来図

本連載では、生成AI時代のハローワークとして、子どもに人気な職業トップ100について、「AIでなくなる仕事・残る仕事」というテーマでインタビュー形式で記事化していきます。
今回は「ホテルで働く」です!

インバウンド需要が沸騰し、多くの外資系ブランドの進出も進むホテル業界において、低中価格帯ホテルでは、自動チェックイン等のデジタル技術の導入も進んでいます。AI技術の進化はおもてなしにどのような変化を与えるのでしょうか?

九州の外資系高級ホテルに勤務し、レストランサービスを中心に活躍されている増田さん(仮名)に、「高級ホテルとAIの関わり」や「ホテルスタッフの役割の変化」についてお伺いしました。

ホテルで働くきっかけは?

― 本日はお忙しいところありがとうございます。まず簡単に自己紹介をお願いいたします。
はじめまして、九州の私立大学に通う4年生の増田と申します。専攻は観光とホスピタリティで、現在は九州に住んでいます。出身は神奈川県ですが、大学進学を機に九州へ来ました。趣味は飛行機に乗ることと、東京ディズニーリゾートへ行くことですね。昨年は海外のディズニーパークにもいきました。

現在は、九州にある外資系高級ホテルで、在学中から約2年半ほど飲食部門で勤務しています。主にレストランのディナー、ランチ、そしてアフタヌーンティーなどのサービスを担当しています。

九州から世界へ。高級ホテルのホスピタリティ最前線

世界が認める「小さな高級リゾート」

― ホテルの規模(客室数やスタッフ数)、ターゲット層はどうなっていますか?
客室数はわずか80室程度。決して大規模ではありませんが、その分ひとりひとりのお客様に上質で丁寧なサービスを提供する高級志向のリゾートホテルです。

フルタイムスタッフは約50名、飲食部門だけでも24名、さらに約10名のシェフが腕をふるっています。加えて、パートタイムやアルバイトスタッフを含めると100名規模の充実した体制です。

特徴は、ゲストの約8割が海外からのインバウンドで占められていること。特に韓国、香港、中国などアジア圏からのゲストが多く、国際色豊かな雰囲気を醸し出しています。ホテルの所有は東京資本のリース会社が行い、世界的に有名なブランドが運営しています。

多言語で届ける「最高のひととき」― 現場を支えるサービスのプロ

― 普段はどんな業務を中心に担当されているのでしょうか?
私の主な業務は「飲食部門」での接客サービスです。レストランでの朝食・ランチ・ディナーに加え、人気のアフタヌーンティーも担当しています。接客の基本的な流れはもちろんのこと、お客様一人ひとりのご要望に合わせてメニューを提案したり、アレルギー対応や記念日のサプライズ演出をするなど、「特別な体験」を提供するために日々工夫を凝らしています。
また、海外からのお客様が多いため、英語や韓国語などを駆使し、ゲストが言葉の壁を感じず快適に過ごしていただけるよう心掛けています。

地方リゾート×AIのリアル ― 九州の高級ホテルの場合

現場で使われているAI ―「効率化」と「現実」の間で

― ホテル業界でもAI導入が加速していると聞きます。働かれているホテルでは、具体的にどのようなシステムやツールを活用していますか?
勤務先では、予約や部屋割りを管理するシステムにAIを導入しています。ただ、高性能で最先端なAIというよりは、基本的なオペレーションを自動化・効率化する仕組みという印象ですね。

実際のところ、人件費の観点でいうと、ホテルが立地する県は最低賃金が1,000円を下回るエリアですので「人を雇うコスト」が他の都市部より比較的安い。そのため、最新のAIツールを導入する投資よりも「人を配置したほうがリーズナブル」という考え方が根強く、現場ではAIを使いこなせる人材も少ない印象です。ファミレスチェーンのように配膳ロボットを導入している例を見ても、「本当は清掃等では先端技術を活用できるはずだけれども、地方はなかなか進まない」というもどかしさがあります。

AI導入のメリットと課題 ― 本格導入には「壁」がある?

― もし本格的にAIやロボットを導入すると、どんな効果が期待できそうでしょうか?
もし本格的にAIやロボットを導入すれば、清掃やリネン回収などの繰り返し作業の効率化、人件費の削減が期待できます。また、勤め先のホテルは多言語を話せるスタッフが多く在籍していますが、他のホテルではインバウンド対応に困難を抱えているという話もよく聞きます。そのような現場では、多言語チャットボットや自動翻訳システムを導入すれば、外国人ゲストへの対応も飛躍的に向上するはずです。

一方で、AI導入を進めるにあたっては、地方ならではの課題があります。**「導入したシステムを運用する現場スタッフの不足」や、「システムをカスタマイズ・保守するエンジニアの不足」**が特に大きな課題となっています。また、スタッフの教育や保守管理にかかるコストも無視できません。
地方ホテルがAI活用を推進するには、こうした課題をいかにクリアするかが重要なポイントになってきます。

「おもてなし」×「デジタル」の絶妙バランス ― 高級ホテルが目指すべき未来とは?

チェックイン自動化の壁 ―「人の温かさ」を超えられるか?

― 低中価格帯のホテルでは、セルフチェックイン機やフロントのチャットボット対応が進んでいます。高級ホテルではいかがでしょうか?
勤務先では、「対面でのおもてなし」を重視しています。チェックイン時にウェルカムドリンクやおしぼりを提供し、到着後の疲れを癒し、スタッフとのコミュニケーションを楽しんでいただくことが高級ホテルならではの価値だからです。そのため、完全なセルフチェックインや無人化はあまり現実的ではありません。

ただし、同じグループ内でもビジネス寄りのホテルブランドでは、セルフチェックインを選択できるシステムを導入しているケースもあります。高級ホテルと中価格帯・ビジネスホテルでは求められるサービスが違うので、高級ホテルではどのブランドも対面のチェックインが主流だと思います。ただし、スマホチェックインといったそのまま部屋に入れるサービスなども見るようになってきており、こちらは旅慣れた旅行者には高級ホテルでも受け入れられているようです。
そのため、今後は、オンラインと対面の併用型のスタイルになるのではと思います。

「デジタル化」で生まれる新しい接客スタイル

― 一方で、既に予約管理などはシステム化が進んでいるのですね。現場の業務はどう変わっていますか?
予約管理や支払い処理は既にかなりデジタル化されています。宿泊予約だけでなく、レストランやスパ予約もオンライン化が進んでいるため、現場スタッフは事務処理から解放され、「お客様と直接触れ合う時間」に集中しやすくなりました。

インバウンド対応についても、留学生スタッフの採用や個人のスマホアプリの活用などでカバーできており、現状では特に大きな問題はありません。お客様ご自身でアプリを使われる場合も多いです。特に、アジア圏のお客様は年配の方でもデジタルデバイスを駆使されていて驚かされます。

余裕のできた時間の使い方に関しては、より細かいおもてなしを実現できる可能性があります。スマホからフロントにチャットができるホテルがありますが、実は、あのシステムの導入の現場のハードルは非常に高いです。導入すると、「気軽に要望を伝えられる」「スタッフが対応漏れを防げる」といったメリットもありますが、一方で「対応が追いつかない」「会話しないことでお客様の真の要望に気づけない」懸念もあるため、慎重な判断が求められます。事務作業から解放されることで、余裕ができれば、導入に踏み切れる可能性はあります。

価格戦略のリアルな舞台裏

「高級ブランド」と「収益重視」の絶妙バランス

― ホテル業界では、需要予測やダイナミックプライシングにAIを活用する動きが注目されています。実際はいかがでしょう?
高級志向のホテルなので、もともと収益を意識した価格設定をしていますし、価格設定はブランド全体で戦略が組まれています。ただ、地方リゾートという特性上、需要に応じて頻繁に価格を大幅に変動させることはそれほど多くありません。

また、世界的に認知度が高いホテルブランドのため、初めて当エリアを訪れるお客様も多く、安心感を求めて選ばれる方が多いのが現状です。そのため、価格競争には巻き込まれにくいという特徴もあります。安定的に需要が予測できる環境だからこそ、現時点では大幅な価格変動はそれほど必要とされていません。

ロボットが働けない理由―高級ホテルの「おもてなし品質」とは?

ロボット導入を阻む「きめ細かさ」という壁

― 清掃ロボットや配膳ロボットを導入している事例を耳にしますが、検討されていますか?
現状、ロボットの導入予定はありません。
ファミレスなどでよく見る配膳ロボットは、カジュアルな場面には適していますが、当ホテルのレストランはコース料理が中心です。お客様一人ひとりに合わせたきめ細かいサービスが求められるため、ロボットで代替するのは難しいと考えています。

また清掃の分野でも、リネン回収や共用スペースの掃除はある程度自動化できる可能性がありますが、導入費や維持管理にかかるコストを考えると、人件費の安い地方では「まだ割に合わない」という判断になってしまいます。

高級ホテルの満足度を支えるのは「人間」の力

高級ホテルではベッドメイク、アメニティの補充、微妙な汚れのチェックなど、細かな部分まで気配りすることでお客様の満足度が決まります。「痒いところに手が届く」レベルのサービスは、現時点ではロボットには困難です。人の感覚や経験に基づく細部へのこだわりが、高級ホテルの「品質」を支えているため、少なくとも当面は人間中心のサービスが続くことになるでしょう。

AI時代のホテルマンに求められるスキルとは?―『デジタル活用』と『人間力』の融合

「人にしかできない接客」がホテルの価値になる

― 今後さらにAIが高度化すると、ホテルスタッフに求められるスキルはどう変わると思いますか?
AIにより定型業務が自動化・効率化されるほど、逆に「人間にしかできない接客」や「お客様の要望を引き出して最適な提案をする力」が重要になっていきます。特に高級ホテルにおいては、スタッフが直接お客様と対話し、潜在的なニーズを引き出して柔軟な提案をする能力がますます重要になるでしょう。

海外の富裕層ゲストの中には、ホテルスタッフとの会話を楽しみにしていたり、特別なリクエストを気軽に相談したりする方もいます。こうしたお客様の要望に対して、柔軟かつ感動を生むサービスを提供できることが、ホテルマンとしての醍醐味であり、高度なAIが普及した後でも、変わらず求められる価値となります。

「ITリテラシー」と「コミュニケーション力」の二刀流へ

これからのホテルスタッフは、AIやデジタルツールを活かすために最低限のITリテラシーを備えることが求められます。チャットボットやデータ分析ツールなど、導入したシステムを十分に活用できる知識やスキルが欠かせません。また、お客様が利用されているwebサービスやアプリなどを自身で使ってみることも重要です。

その一方で、お客様とのコミュニケーション能力やホスピタリティ精神はこれまで以上に重要性を増していきます。多言語や異文化理解が必要になる場面も多いので、そのあたりの研修や自己学習は続ける必要がありますね。

未来のホテルマンは『人間力』×『AI力』のハイブリッドへ

高級ホテルは「おもてなしの進化系」へ

― 10年、20年先のホテル業界をどう見ていますか?
10年後、20年後のホテル業界では、セルフチェックインや配膳ロボなどの「効率化の波」が中価格帯のホテルではより一層進んでいくと思います。

一方、高級ホテルやリゾートホテルでは、これまで以上に「人が持つおもてなし力」と「AIによるサポート」を融合した『ハイブリッド型サービス』が求められるようになるはずです。例えば、AIがゲストの同ブランド内の別のホテルの過去の滞在データや好みを瞬時に分析し、その情報をもとにホテルスタッフがよりパーソナライズされた、心に響くサービスを提供するといった形です。

「非日常体験」をつくるのは、やっぱり人の力

カジュアルと高級の差が広がっていくのはホテルだけでなく、エアラインのようなあらゆるホスピタリティの現場で共通なはずです。フラッグキャリアのビジネスクラスは、より高級志向が高まり、従来のファーストクラス並みのシートが用意される一方、LCCを使うと2万円台でハワイに行けるチケットが出てきたりしています。

高級ホテルに求められる価値とは、「特別感」や「非日常感」に他なりません。お客様がロビーに足を踏み入れた瞬間からお部屋にご案内するまで、細やかな気配りが繋がり、滞在全体を通じて「ここに来てよかった」と思っていただく。その体験価値は、AIだけでは決して再現しきれません。

私自身、「ホスピタリティを究めたい」「お客様に心から喜んでもらえる仕事がしたい」という想いがあります。これからのホテルマンには、AIを効果的に活用しながらも、「人間だからこそできる温かさ」を常に提供し続ける姿勢が求められるのではないでしょうか。

インタビュアーあとがき:AI時代だからこそ光る「おもてなし」の力

九州の高級ホテルに勤務される増田さんへのインタビューを通じ、高級ホテルにおけるAI導入の難しさや、現場で大切にされる「人のおもてなし力」が明確になりました。
地方では、最低賃金の問題や教育コストの課題があり、また「人によるホスピタリティ」が求められる高級ホテルの現場では、単純なAI・ロボット導入にはハードルがありそうです。

一方、予約管理や価格設定など、データを活用する分野ではAIによる効率化の余地も大きそうです。また、過去の滞在履歴の収集、それによるきめ細かいおもてなしには期待が持てます。増田さんのお話には、「AIに仕事を奪われる」という不安よりも、「AIが人の業務を補助することで、人間だからこそ提供できる接客力を高められる」という前向きな視点が感じられました。

特に海外の富裕層、ハネムーナー、記念日を特別に過ごしたいゲストにとって、高級ホテルはただの宿泊施設ではなく「非日常を味わう場」です。その体験のクオリティを決めるのは、最終的には“人の温かみ”です。だからこそ、AIを活かしながらも人が主役であり続ける――それがホテルマンの未来像なのでしょう。生成AI時代になっても、最高のおもてなしを求める限り、この仕事は決してなくならないはずです。

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