子どもの頃から憧れていた「鉄道の仕事」
本連載では、生成AI時代のハローワークとして、子どもに人気な職業トップ100について、「AIでなくなる仕事・残る仕事」というテーマでインタビュー形式で記事化していきます。
今回は「電車運転士」です!
なるべく多くの現場の声を集めるという趣旨のもと、電車の運転士を経験し、現在は鉄道会社の人事部で働く加藤さん(仮名)にインタビューしました。
大手鉄道会社に総合職として入社し、運転士としての現場経験を積まれた加藤さん(仮名)。
東京大学卒業後に鉄道業界へ飛び込み、電車の運転士として活躍。現在は人事部で働く立場から、電車運転士という仕事の過去・現在・未来、そして生成AIの進展が運転士の役割をどのように変えていくのかを率直に語っていただきました。
憧れた祖父の姿
加藤さんは、最初から運転士を目指していたわけではなかったといいます。
加藤さんが、電車の運転士を目指されたきっかけは?
私は大学では経済学を専攻していたのですが、祖父が国鉄に勤めていた影響で、小学校の高学年頃から鉄道会社で働いてみたいという漠然とした思いがありました。
そこで、大学卒業後は総合職として鉄道会社に入りました。
やはり、運転士に憧れていたのでしょうか?
私の祖父は国鉄の技術者で、電車を「運行する」というよりは「作り上げ管理する」大規模プロジェクトの凄さに子どもの頃から憧れを抱いていました。
いわゆる鉄道ファンではなく、運転士になりたいというより、インフラとしての鉄道会社への興味が強かったです。
総合職は企画や管理部門でのキャリアを積むのが一般的ですが、鉄道事業の根幹を知るために、最初は駅員から運転士まで幅広い現場を経験します。
私の場合は、最初は地方支社に配属になり、入社2年目の冬から運転士の研修を受け、3年目の4月から約1年半ほど運転士としての業務を経験しました。
過密ダイヤの運転経験で実感した“現場力”
電車の運転士ってどんな感じなんですか?
加藤さんは、朝ラッシュの速度コントロールと、繊細なブレーキワークが重要だと語ります。
私が配属されたのは、所属する鉄道会社の中でも主要路線で、ラッシュ時は3分間隔で次々と列車が発車するほど過密ダイヤが組まれています。
朝の通勤ラッシュは本当にぎゅうぎゅう詰めですし、ダイヤが少し乱れると乗客の皆さんに大きな影響が及びます。ラッシュの時間帯は列車間隔が短く、先を走る列車に近づきすぎず、ただ可能な限り次の駅に早くつけるような絶妙な運転間隔が求められます。運転士の力量が試される路線だと思いますね。
しかも乗務した路線は特急電車と普通電車が混在したり、ホームドアが未整備だったり、想定外のトラブルが起きやすい環境でした。想定外の中で、安全を守り、遅れを最小限に抑えられたときには自分が鉄道を動かしているというやりがいを強く感じました。
運転士の試験に合格してからは、若手ベテラン関係なく、シフトが組まれます。
朝のラッシュ時間帯は大変ですが、若手だからといって楽な時間帯が回ってくるわけではありません。
一方で、この路線で運転できれば他の路線はどこでも乗務できると言われるぐらい、現場では一目置かれる現場でした。
事故を防ぐために「危ないと思ったら止める」 安全運行を最優先にする仕事
加藤さんは、電車の運転で大事なことは安全だと語ります。
鉄道業務の最優先事項は「安全」です。乗務員以外でもこの意識は重要ですが、やはり、実際に運転する運転士はこの意識が別格です。
運転士研修で徹底的に叩き込まれたのが「危険を感じたら迷わず止める」姿勢でした。
実際にホームから人が転落することもありますし、踏切トラブルも起きます。そういうときはもう迷わず止める。
電車を止めることで、後続列車も含めてダイヤが乱れますが、人命を優先するのは当然です。
どんなに技術が進歩しても、コストの観点で踏切や混在列車がある在来線では完全な無人化が難しい部分も残るはずです。
だからこそ人間としての集中力、自分で止める判断をする覚悟はずっと要求されると思います。
自動運転・生成AIの普及でどう変わる?
ATO試験と無人化への期待
鉄道業界では、近年「自動運転(ATO=自動列車運転装置)」の技術開発が加速しています。
JR東日本では山手線で本格的な試験が進み、ホームドア設置や高架区間を活かして、将来的には無人運転化も視野に入れているようです。
私が運転士をしていた路線は、自動運転が困難な環境でしたが、運転支援システムの技術には十分可能性を感じていました。
既に新交通システムや一部の地下鉄などでは完全自動運転(無人運転)も珍しくありません。
ただ、古くからある路線は沿線環境が複雑ですし、踏切や特急列車との兼ね合いなど課題が多くあります。万一のトラブルや異常時対応、乗客への案内を考えると、当面は保安要員として人が乗務することがなくなることはない(※GoA2.5 水準)と思います。
駅での問い合わせ対応や複雑な切符販売の支援
近年話題の「生成AI(Generative AI)」が鉄道現場にも応用されはじめています。
鉄道は規則やマニュアルが膨大で、しかも過去のトラブル事例が山ほどあります。そうした知識を一元管理して運転士や指令員が瞬時に検索できるようになったら、現場としてはかなり助かると思います。(早く作ってください笑)
運転士よりも先に、生成AIが駅業務をサポートする動きは広がりそうです。
実際、現在すでに、無人改札やチャットボットによる問い合わせ対応など、駅員の仕事自体も変化しつつあります。
一方で、規制産業であることから、古くからある営業規則が非常に複雑で、課題もあります。
どの区間を経由すると割引が適用されるかやこの切符は変更可能かどうかといった対応で駅員が手いっぱいになることがあるんです。そういう複雑なルールをAIが全部覚えていて、瞬時に回答してくれたら作業はぐっと楽になるでしょうね。
ただ同時に、車椅子のお客様を案内したり、ホームで何か落とし物の対応をしたりと、人がいないと難しい業務もあります。駅員の仕事はいつ何が起こるかわからない性質もあって、その待機要員が必要というジレンマもあるんです。
駅員の削減が一気に進むかどうかは別としても、AIが問い合わせ対応やマニュアル検索でサポートできる領域は確実に増えていく。その結果、人間はよりおもてなしや非常時対応などに注力するよう再分担が進む、という見方です。
人事部で活かされる「運転士目線」
「命を預かる仕事」であるリアリティ
加藤さんは現在、人事部に所属し、新卒採用や社員研修を担当しています。そこでの仕事にも、運転士経験が生きているといいます。
採用面接や内定者フォローの場面で、よく伝えるのが鉄道って、お客様の命を預かる仕事なんだよというリアリティです。
私も現場で駅員・運転士をやって、止めるべきときに止めるという判断を経験しました。そういう現場の厳しさを本気で語れるからこそ、学生さんも話を真剣に聞いてくれる気がします。
それから、これからの運転士像も変わるかもしれないですよね。自動運転やAI活用が進むと、運転技術の習熟がそこまで重要じゃなくなる代わりに非常時対応の知識やシステムを使いこなすITリテラシー、あるいはお客様対応力がもっと求められるかもしれない。
そうしたスキルの再定義に、現場を知っているからこそ具体的な提案ができるのかなと思います。
電車運転士は本当に「なくなる仕事」なのか?
“完全無人運転”のハードルと、監督・緊急対応役へのシフト
「AIや自動運転の普及で、将来は運転士の仕事そのものが消えるのでは?」という声も聞かれます。加藤さんはこう展望しています。
技術的には無人化できる路線は今後増えていくはずです。実際、地下鉄や新交通システムではすでに無人で走っているところも多いですよね。
ただ在来線の場合、踏切や急カーブ、沿線の事情などでイレギュラーが起きやすい。
結果的に、何かあったときの最終判断や緊急停止、乗客への安全誘導のために人間が乗務する、というスタイルはしばらく続くと思います。
電車でGo的な仕事は減っていく
「ATO+保安要員」の組み合わせが一般化すれば、列車を手動で運転するという要素は大幅に減ります。けれども「完全にゼロになるか」は、技術面だけでなく費用対効果や法規制、いわゆるトロッコ問題といった倫理的な側面も絡み、自動化が進む路線とそうでない路線がでてきそうとのこと。
既存路線は、沿線環境が複雑で、踏切や信号システムとの兼ね合い、乗客の安全誘導など、どうしても人手を必要とする場面が出てきます。
ただ、長い目で見れば、運転そのものはAIにまかせて「監督・指揮」「緊急時対応」「サービス担当」などに人間がシフトしていくかもしれません。
そうなると、今の「運転士」とはまた違う肩書きになるのかもしれませんね。
今の子供達が大人になる20年後には、全て運転士がやっていたところを、ブレーキ等の操作はなくなる可能性があります。
実際に、ATOの導入が進む路線では、眠気との戦いになっているという話も聞きます。
私が経験した、速度コントロールし、絶妙なブレーキ操作が求められるといった電車でGoのような要素はなくなっていくはずです。安全性も向上していきます。
どうしてもそういった仕事がしたい場合は、地方の独立路線では投資が進まないから運転士らしい運転士ができるところが残るかもしれません。
子どもたちへのメッセージ「人間ならではの役割は、なくならない」
最後に、将来の夢として「電車の運転士」を挙げる子どもたちへ、加藤さんにメッセージをいただきました。
私自身、子どもの頃から鉄道が大好きでしたし、電車の運転席に座るのは本当に特別な経験でした。
今は技術革新がどんどん進み、AIや自動化が主流になっていくかもしれません。でも大丈夫。鉄道という大きなシステムを支えるのは、最後はやっぱり人の力だと思います。
みなさんが電車を動かしたい、たくさんの人を安全に目的地に送り届けたいという気持ちを持ち続ければ、必ず鉄道の世界で活躍できる道はあります。
運転という行為自体が減っても、そこには新しい技術を扱うスキルや、お客様を助けるホスピタリティが求められる。どんな時代になっても、人間にしかできないことは必ず残るはずです。
インタビュアー あとがき、AI時代に求められる鉄道の仕事は「協働する力」と「ホスピタリティ」
運転士として過密ダイヤの最前線を経験し、今は人事部で後進を育てる加藤さんの言葉を通じて見えてくるのは、「AIと人が協働する時代への大きな変化」です。自動運転やAI活用が進めば進むほど、人が担うべき業務は「緊急時の判断」「乗客対応」「システムの監督・運用」にシフトしていくでしょう。
運転士が手動でレバーを操作していた部分は減り、AIやコンピュータがきめ細かくアシストする。しかし「安全を守る究極の責任」は変わらず人間が負うのです。
多くの男の子が子ども時代に一度は憧れた「電車の運転士」という仕事は、技術革新によってその姿を大きく変えようとしています。けれども、そこには依然として「人間にしかできない役割」が確実に残り続けるはずです。運転操作のプロというだけでなく、トラブルを素早く判断し、お客様を安心させるサービス面でも頼られる存在へ――。まさに「移動の総合プロデューサー」へと進化する運転士像・鉄道会社の社員像を思い描くことができるでしょう。
「AIが仕事を奪う」という悲観的な見方ではなく、「AIと協働することで、より安全に、移動という目的を達成できるようになる」という前向きな視点で、これからの鉄道業界を捉えていくのが重要と感じました。
