見出し画像

AI時代の旅行会社は「感動」で差をつける

本連載では、生成AI時代のハローワークとして、子どもに人気な職業トップ100について、「AIでなくなる仕事・残る仕事」というテーマでインタビュー形式で記事化していきます。
今回は「ツアーコンダクター」です!

クルーズ特化の旅行会社として人気を集め、YouTubeチャンネルの登録者数は7,000名を超える「BUTE」。

代表の村田 洋一さんはバンクーバーの旅行専門学校へ留学され、そこで初めてクルーズを体験。いつかクルーズ専門の会社を起こす夢をもって、大手旅行会社JTBをはじめとしてさまざまな業態の旅行会社を経験し、2018年、クルーズ特化の旅行会社「BUTE」を創業。

そんな「BUTE」では、「東アジアのなかでお互いを理解し、友好関係を築く」というビジョンのもと、クルーズ文化の発信をされています。

クルーズ専門の知識を活かし、多くのリピーターを獲得されている「BUTE」の代表・村田さんに、AIには作れない感動体験の秘密と、AI時代の旅行会社像をお聞きしました。

プロフィール

  • 村田 洋一(むらた よういち)

  • 1980年、宮城県生まれ、株式会社BUTE代表取締役

  • 拓殖大学在学中にカナダ・バンクーバーの旅行専門学校へ留学、卒業後は株式会社JTBをはじめとした旅行会社で13年勤続

  • 2017年11月、「BUTE」創業

夢は航空会社設立からクルーズ会社設立へ—バンクーバーで出会ったクルーズ旅行

村田さんは、学生時代にバージン・アトランティック航空の創業者リチャード・ブランソンの自伝を読んで航空会社を設立したいと考えていたといいます。

村田さんが、旅行業に興味を持たれたきっかけは?

よろしくお願いします。私は、大学卒業後に旅行大手のJTBへ入社しました。
学生時代に「旅行業で働いてみたい」という漠然とした思いはあったんですが、実際にJTBに入社したのは2004年。ほかにも大手電機メーカーからの内定があり、英語ができたことから海外部門への配属を示唆されていました。いわば飛行機に乗る側に進むか、飛行機を手配する側に進むか、悩んだ末に「どうせなら手配する側も知っておいたほうが将来に活きるだろう」と思い、JTBを選びました。

旅行業への興味は、もともと学生時代にバージン・アトランティック航空の創業者リチャード・ブランソンの自伝を読んで航空会社を作りたいと考えていたことです。そのために、カナダのバンクーバーの旅行専門学校に留学していたときに「クルーズ旅行」に出会い、これをもっと日本でも広められたら面白いんじゃないか、と思ったことがきっかけです。日本ではとても高価なイメージのクルーズが、カナダでは数万円で気軽に乗れる。それで「旅行会社に入社し、新規事業でクルーズに取り組みたい」と考えて入社したんです。

旅行業のイメージとギャップ

大手旅行会社入社後は、理想とギャップを感じつつ、中小の旅行会社でさまざまな業務を経験されたそう

当時は団体旅行全盛の時代でもあって、私もツアーコンダクターとしての研修や業務を経験しました。当時のクルーズはまだ高級で、日本船も外国船も50万円を超えていました。また旅行業界は当時、団体旅行のコンパニオン手配など旅行業以外の業務も多く、若かった私はその業務にギャップを感じ、入社1年で退職して別の中小旅行会社に転職して、最終的には独立起業に至りました。

「団体旅行に特化したビジネスモデル」に限界を感じたんです。そこで、転職先は中小の旅行会社で経営を勉強したいと思い、海外出張手配なんかを専門に行う会社を選びました。当時はまだ、国内に寄港する安価なクルーズ船の数も多くなく、クルーズに取り組むのは早いと考えていました。

この会社では、社長との距離も近く、営業をはじめとした経営に重要な要素を叩き込まれました。社会人・経営者としての基礎を作っていただき、本当に感謝しています。

仕事の一番のやりがい

いちばんのやりがいはお客様の感動の声だそう。

やはりこの仕事をしていていちばん嬉しいのは、旅先での体験をお客さまが「人生で一番の思い出になった」と言ってくれる時です。現在取り扱っているクルーズは、初めて体験して「こんな贅沢があるのか」と感動していただいたり、ショーや食事がすごく楽しく、「移動の概念が変わった」と喜んでいただけたときなどは、とてもやりがいを感じます。自分が体験して感動したものを伝えるのが、本質的に好きなんだと思います。

この「自分が体験して感動したものを伝える」というのは、AIには代わられない価値であると信じています。従来の情報を伝えたり、手配する仕事は生成AIの方が得意だろうなと感じています。一方で、AIに「〇〇の窓から見る景色は人生で一番の感動を与えてくれます」と言われても心は動きません。

広告費0! BUTE式“感動体験共有モデル”の秘密

成長の秘訣は「専門性」―なぜお客さまが集まるのか?

クルーズ専門というスタイルで順調に業績を伸ばしています。その秘訣は専門に特化することだそう。

おかげさまで業績は順調です。コロナという困難もありましたが、さまざまな支えを受けて休業することなく、現在は順調に業績を拡大できています。

その理由のひとつは日本全体でクルーズ旅行への関心が高まり、利用者数が増えていることです。しかし、クルーズ旅行は通常の旅行と異なり、船内での無料・有料サービスや港へのアクセス情報など細かな質問が多く、専門知識が必要です。一般の旅行会社では迅速な対応が難しいことも多く、お客さまが困惑することもあるようです。

当社は海外のクルーズ専門会社と同様に、細かなニーズに対応できる専門システムを採用しています。これにより、お客さまからの問い合わせに迅速で正確な対応ができるだけでなく、客室の指定等が可能です。クルーズ船は移動と滞在がセットになるので、船室のグレードだけでなく、眺望等の指定も重要になります。ここが普通の旅行会社では、通常のホテルのシステムを用いるため、指定ができなかったり漏れたりすることがあります。このように特化することで、「他社ではできないことも、BUTEなら対応してもらえる」と、多くのお客さまが弊社を選んでくれています。

社員になればクルーズ船に乗れる?!

BUTEでは会社持ちで社員にクルーズ旅に行ってもらっています。
実は、クルーズ旅行が好きで入社する社員は多くありません。まだまだ、クルーズ旅行はマイナーです。弊社の社員は、弊社の取り組みを見て、面白そうだなと思って入社する方が多く、船に乗って、寝て起きると観光地に着いている、ショー見て楽しいといった体験をしていないことがほとんどです。

自分自身が感動しないと感動を伝えられません。「気持ちいいな」「心地いいな」「楽しいな」「美味しいな」といった感動体験は、クルーズの航路や客船が異なっても伝えられます。これが、ただ販売ノルマをこなすような目の前の仕事に追われると感動を伝えられなくなります。だからこそ、社員には会社負担で旅に出てもらっています。

広告費0とは?!

これまでお話しした通り、感動体験を共有することこそが人間の介在価値になると考えています。
ご相談いただくお客様には直接、感動体験をお伝えできていますが、それでは、伝えられる方が限られています。

そこで、BUTEではYouTubeチャンネルを運営し、クルーズ旅行の魅力を全国の方に発信しています。あえて専門の撮影チームは用意せず、私自身が、さまざまなクルーズ船に乗船し、Vlog形式でクルーズ旅の魅力をお伝えしています。ミニバーが有料か無料かやレストランの特徴といった細かいポイントまでお伝えしたりしています。

このYouTubeチャンネル経由でクルーズ旅行に興味を持っていただいたお客様から多くご連絡を頂戴しています。実は、このチャンネル、広告費0どころではなく、収益化もできているんです。

AIがもたらす新たな可能性──感動共有を加速するツールとして

村田さんは、普段どのようにAIを使ってますか?

最近はやっぱり、海外のクルーズ会社とのやりとりにおいて英文メールを作成するときに生成AIが役立ちます。たとえばChatGPTで日本語を英訳させ、それを自分で軽く添削するだけなので、以前より効率がかなり上がっています。

また、最近は「grok」というAIにハマっています。ChatGPTよりも返答が今のトレンドリアルなユーザーの声に近いように感じることが多くて、クルーズを利用されるお客さまが投稿している生の声を拾ってきてくれるんですよ。チャットボットというより、生きたコミュニティを反映してくれる印象ですね。

生成AIが加速する個人化

団体旅行・パック旅行から、個人手配の流れをさらに後押ししていくのが生成AIではないかと考えているそう。

たとえばゴールデンゲートブリッジなど、昔は旅行会社のパッケージツアーで行くのが一般的だったような観光地でも、今は個人で自由に行くお客さまが増えていますよね。それでも、いいレストランやビューポイントなどは旅行会社が詳しかったりしました。これがトリップアドバイザーなどの登場で、インターネットを駆使すれば個人で情報を集められるようになっていました。この個人化をさらに後押ししていくのが生成AIではないかと思っています。

AIは間違いなく「定型的な管理や問い合わせ対応」には強いですよね。たとえば、「最安値のクルーズはどれか」を調べたり、「ベストシーズンはいつか」といった情報を正確に教えてくれます。英語の情報を調べて日本語で回答してくれるので、従来、日本語のブログの情報は古くて、営業時間がわからないなどありました。それが、生成AIを使えば解決します。

生成AIで変わる旅行業

個人手配の加速は、旅行会社にとって困難もありつつ、チャンスであると捉えているとのこと。

実際に、旅行会社の業務のうち「AIに置き換わりそうだな」と思う部分は多くあります。たとえば予約管理や見積書・旅程表の作成など、繰り返し作業が多い部分はAIに代替されていくと思います。弊社でもExcelでいろんなプランをコピペして「ここはドリンク飲み放題が含まれてる」「ここはWi-Fiがついてる」みたいに削除したり書き換えたりしていて、正直効率が悪いですよね。

もしAIが「船名やクルーズ会社に応じて、特典の有無を自動で反映してくれる旅程確認書」を作成してくれたら、めちゃくちゃ便利だと思います。実際にGoogle Apps ScriptやChatGPTを使って一部自動化してくれている社員もいますが、まだ試行錯誤中です。いずれ、そこは大きく変わるでしょうね。

弊社ではクルーズ特化でやっているため、各クルーズ会社と直接のパイプラインを持っており、各条件の情報は最新の情報を保有しています。また、実際に乗船されたお客様のフィードバックという情報も溜まっています。これを活用し、AIが必要な情報を、必要な人に届けられるようになるととても強いと考えています。これが大手の全方位型の旅行会社ですと、幅が広い代わりに、深い情報がないというか、情報が更新されてなかったり、船室ごとの手配情報を記録できていなかったりします。ここは、クルーズ特化でやってきたBUTEの強みになると思います。

とはいえ、「見たら絶対感動する!」「心地よい眺めで最高だった!」というエモーショナルな部分は、やはり人間が体験を通じて伝えないと響かないんですよね。AIに「夕日がきれいで感動的」と言われても、「お前は夕日を本当に見たのか?」と疑問が湧く。そこは「人間だからこそ」の価値がある領域です。

AIと人間の協働による新しいツアーの形

トラブル対応力こそBUTEの強み

旅行中に起こる突発的なトラブル、たとえばフライトの遅延や体調不良などに対して、ツアーコンダクターが果たす役割は大きいといいます。

クルーズ旅行でも、トラブルは意外と多いです。クルーズ乗船地までの飛行機が突然キャンセルになったり、クルーズ中にお客さまが体調を崩すことだってある。そのとき「現地のスタッフとどう交渉するか」や「クルーズ会社・航空会社と折衝して代替案を引き出すか」など、人間の経験や判断力が問われます。AIが瞬時に「キャンセル便の代替オプション」を探すのは得意でしょうけど、最終的に「その便をどう確保するか」は人のコミュニケーション力にかかっています。

チャットボットが「○○便の空席があります」と教えてくれるとしても、実際に「保険の適用はどうなるか」「お客さまのビザは大丈夫か」「いつまでに交渉すればペナルティなしで変更できるか」といった複雑な調整は、人間ならではの判断が必要です。大変な場面ほど、人間がいる安心感が決め手になると感じています。

一方で、過去の対応記録などを検索して、ステークホルダーごとの交渉の難易度や交渉が通るかといった情報をサジェッションしてくれるAIがあると便利だと思います。

AIと人間の理想の形

AIが旅程作成や問い合わせ対応などをサポートし、ツアーコンダクターがより接客や現場対応に集中できるという形が広がる可能性があります

まさに「AIと人間のハイブリッド」が理想だと思います。AIがデータ処理や情報検索を担い、人間はお客さまと直接コミュニケーションし、感動や安心感を提供する役割。

たとえばAIを使って複雑な旅程を組んでもらいながら、スタッフはクルーズ船で実際に感じた魅力を語ることに集中する。さらに、現場での急なトラブルや細やかな気配りは人間が行う。そうすることで、サービスの質を大きく向上させられますよね。

AIのメリットとしては、24時間問い合わせ対応ができるし、多言語対応が簡単になります。それから、定型質問(集合時間や持ち物など)はAIに任せることで、スタッフが対応する必要がなくなり、より創造的な接客に注力できます。一方で、トラブル時に「AIが誤った情報を伝えてしまうリスク」や「どこまでAIに任せるか」などの線引きはまだ悩んでいます。結局、お客さまが困ったときは人間のサポートが必要になるので、AIが間違った案内をしたときのフォロー体制をしっかり決めておく必要があると思います。

ツアーコンダクターの未来と、子供たちへのメッセージ

AI時代になっても変わらない旅行業の魅力と新しい形の魅力があるといいます。

昔ながらの団体ツアーとは違う形で「自分の好きなものを深堀りして、それをお客さまに伝える」という働き方が主流になるはずです。個人旅行が増え、AIが旅程まで提案してくれる時代でも、「実際に行ってみて共感したい」「リアルな声が聞きたい」という需要はなくならない。そこを満たせるのが、情熱を持って旅を案内するツアーコンダクターだと思います。
旅行業を目指す方に限らずですが、子供達には「何か自分の好きなものを”超”深掘りする」ことを大事にしてほしいです。別に勉強じゃなくとも、ポケモンでも鉄道でも、何でもいいんです。自分が熱中できるものをとことん追求した経験は、大人になってから別の分野に挑戦するときに大きな強みになります。
私は子供の頃、鉄道オタクでして(笑)。電車の型番を覚えたり、その仕組みを調べたりするのが好きでした。そのおかげで、クルーズ船のエンジンの仕組みや環境に配慮したLNGエンジンに興味を持ったり、ビジネスとしてどう売り込むか考えたりできるようになりました。なので、子供たちには「好きなことを突き詰めよう!」と伝えたいですね。

インタビュアー あとがき、「感動体験」こそが人間の介在価値

旅行業は、さまざまなテクノロジーの影響を受けてきた業界です。ただ安く移動することだけを目指すなら、比較サイトでいちばん安いフライトを選ぶのがベストです。それでも、旅行会社が生き残っているのは「感動体験」の共有に価値があるからです。

さまざまな業態の旅行会社での仕事を経験し、今はクルーズ特化のBUTEを経営されている村田さんの言葉を通じて見えてくるのは、「人間だからこそ提供できる感動や安心感」の価値の重要性です。生成AIによる旅行プラン作成や問合せ対応の自動化などが進む一方、「感動体験」の共有はツアーコンダクターにとってますます重要な価値になります。定型業務をAIに任せ、人間はトラブル対応やエモーショナルな体験の提供に注力する――このハイブリッドが未来のツアーコンダクター像の一つと言えそうです。

村田さんの言葉にもあったように、AI時代になっても「感動を伝えたい」「リアルな共感を生みたい」という思いはなくならないでしょう。むしろ、デジタルが進むほど、「人の体温があるサービス」がより輝きを増すかもしれません。ツアーコンダクターの仕事は形を変えつつも、「人を感動させる案内人」としての使命をこれからも担い続けるはずです。

いいなと思ったら応援しよう!