「官僚志望」が減少する今、生成AIは国家公務員を救えるか?
本連載では、生成AI時代のハローワークとして、子どもに人気な職業トップ100について、「AIでなくなる仕事・残る仕事」というテーマでインタビュー形式で記事化していきます。
今回は「国家公務員」です!
国家公務員の総合職として政策立案や行政運営に携わっている吉田さん(仮名)。東京大学在学中に政策立案演習のゼミをきっかけに官僚に関心を持ち、就職活動期に外資系企業のインターンで感じたギャップから、社会課題を扱う公務員の道へ。現在は情報技術分野の政策や予算立案、人事など、多岐にわたる行政業務に携わられています。
本記事では、省庁内での生成AI活用の現状や、これからの公務員の働き方・公務員像はどう変わっていくのか。吉田さんの具体的なエピソードを交えながら、「公務員 × 生成AI」の未来を考えていきます。
公務員を目指した理由—大学のゼミが転機に
――本日はお忙しい中、ありがとうございます。さっそくですが、まず国家公務員を目指されたきっかけから伺えますか?
現在の同僚や当時の語学のクラスが同じ同期は、大学入学当初から官僚を目指していたというよりも、むしろ、大学入学後、様々なきっかけで官僚を目指し始めた人が多いです。当時は、今と比べると東京大学から官僚へという人数も圧倒的に多く、少し上の先輩などにも実際に就職する人が多いため、多かれ少なかれ官僚という選択肢は自然と一つの選択肢として受け入れられ、一定割合が選ぶというカルチャーがあったように思います。私自身も、大学入学以前はあまり「官僚=こういう仕事」というイメージがなく、どちらかというと「キャリアの選択肢の一つとして漠然と公務員試験も受けるのかな?」くらいの考えでした。ただ、大学1年時に受けた「政策立案演習」のゼミがきっかけで、公務員を本気で志すようになりました。
そのゼミを担当されていたのが、経済産業省出身の先生で、「杉並区の商店街振興策を立案しよう」というテーマがすごく面白かったんです。なんとなく、「政策」というと突拍子もない天才的なひらめきで生まれるような、そういったイメージもありましたがそうではなくファクト(事実)を積み上げていくアプローチに強く惹かれました。目の前の課題が何故起きているか、その原因解決を阻んでいるのは何か、といったかたちで「何故」を深めていくプロセスだと理解しました。そこで机上の空論でない社会課題解決ができるのが官僚の仕事なんだと肌で感じました。
一方で、大学3年生になり就活が始まった際は、まだ、公務員一本に絞りきれていない自分もいて、普通の就活も進めていました。外資系消費財メーカーのインターンでは、消臭剤のマーケティング戦略に取り組んだのですが、どうしても「消臭剤をどう売るかといった戦略には、社会課題ほどの熱量が湧かないな」と感じて…。そんな経験もあり、「社会を支える政策立案に関われるのは、公務員だ。一生の仕事としてやりがいが大きい」と考え、官僚の道を選びました。
国家公務員の仕事とは?—膨大な調整を伴う政策立案
— 公務員の仕事というと、どんな業務が多いですか?
国会対応や省内調整を含めて、とにかく資料作成や説明が多い仕事です(笑)。ただ一方で、「自分が携わった政策が実際に世の中に広がっていく」、また、「自分の問題意識からまわりに伝播する」ダイナミズムを肌で感じられる点が何よりの魅力ですね。
予算編成なら各省庁とやり取りを行いながら、その政策にどれだけ国の資金を投じるかが決まっていきます。たとえば、私のこれまでの担当領域では「産業人材育成」「IT人材育成事業」「新たな技術への補助金」「国家資格の試験」といった多岐にわたる施策を調整します。最終的に予算額が決まるプロセスでは政治の意向も入りますし、他省庁や世論も絡んできます。そういった大きな流れを捉えるのは大変ですが、やりがいがあります。
省庁内での生成AI導入はまだこれから?
― 職場では生成AI(ChatGPTなど)をどのように活用しているのでしょうか?
省内で利用環境は整えられています。ただ、省内で文章の要約や翻訳などに「試験的」に使っているに留まっており、率直に言ってまだ手探りですね。セキュリティ面や情報漏洩リスクにも配慮しなければいけないので、大胆に使えているわけではありません。
省内には先端技術に積極的な部署もありますし、省内専用のチャットベース生成AIを試しに導入している動きもあります。ただ、現状は「コストの低い軽量なモデルを使っている」「機密性の高い情報は入力できない」など、制約も多いですね。
実際、私の周りでも「使い方がよく分からない」「どこまで信頼していいのか分からない」という声もあって、日常業務にがっつり溶け込んでいるとは言いがたいのが現状です。
業務効率化の可能性—「定型作業」はAIに任せられる
― とはいえ、資料作成など定型業務に大きく貢献しそうです。使ってみての実感はいかがですか?
まず、私個人としては、翻訳・要約といった点では相当程度役立っている感覚があります。長い文章について、粗くても良いので概要を確認する、そうした使い方をするとかなり役立つなという印象です。さらに、国会や省内の承認プロセスでは膨大な説明資料や答弁書を作る必要がありますが、AIがドラフトを作ってくれたり、効率化する余地もあるのではとも思います。
「膨大なExcelの法令改正箇所を“新旧対照表”で比較・校正する」といった作業もAIが得意ですよね。今はまだ不慣れな人が多くて使いこなせていませんが、うまく使えば大幅に時間短縮できるはずです。結果的に、人間が注力すべき「政策の方向性をどうするか」「専門家や企業との調整」により多くの時間を割けるようになる。
これは「AIが仕事を奪う」というより、「定型業務を補完し、人間がより高度な仕事に集中できる」方向だと思います。
公務員としての「やりがい」はどう変化するのか?
― AIにルーティンワークを任せられるとき、公務員ならではのやりがいはどこに生まれるのでしょう?
やはり最終的な意思決定や価値判断、調整の部分は人間の役割として残ると思います。例えば、同じ「IT人材の育成施策」でも、トップ向けの選抜型の教育事業とある程度ボリュームが必要となる国家資格の試験をどうバランスをとって予算配分するか。AIが予測データを提示しても、最終的には何を重視し、どうバランスするのか。省内・外部のステークホルダーとのすり合わせが必要です。
さらに大きな政策テーマには、非常にセンシティブな争点も出てきます。何を優先するのかで結論が全く変わる。問題設定や課題の切り口をどう決めるかはやはり人間が担う部分だと思うんですよね。
ここに公務員としての醍醐味や、自分の頭で考えるやりがいが残り続けると思います。
雇用・採用への影響—「AIを使いこなす職場」が魅力になる?
― 今後、生成AIが進むことで公務員の採用やスキル要件は変わっていきそうですか?
少なくとも「AIを使いこなす職場であるかどうか」は、学生が就職先を選ぶ上で重要な観点になると思います。
今すでに、大企業の新卒採用では「副業OK」「リモートワークOK」といった柔軟性が求められるようになっていますが、それと同じ感覚で「生成AIを活用できる環境かどうか」「セキュリティと利便性のバランスを取りながら、どれだけ新しい技術を使い倒せるか」といった点は、若い世代にとって大きな興味のポイントではないでしょうか。
逆に言うと、ITに疎い、もしくは使わせてくれないような職場は敬遠されかねない。国としてもIT化や副業OKなどは少しずつ進めていますが、まだまだスピード感は足りないと反省します。
政策立案・意思決定にAIをどう活かす?
― 最終的な判断は人間が行うにせよ、AIが活躍する領域は広がっていくのでしょうか?
広がっていくと思います。たとえば、政策立案のためのデータ分析を自動化するとか、「どんな切り口で課題を設定すればいいのか」をAIが事前に提案してくれるだけでも、人間が戦略を練る時間が取れるようになります。
また、外部人材との協働をスムーズにするうえでもAIが役立つかもしれません。省庁が外部人材を雇用する際、文化や組織構造の壁があるんですが、それを越えるための知識・過去事例などをAIが提示してくれれば、より速く連携が進むでしょう。
ただ、現段階では「セキュリティの問題」や「どこまで機密情報を扱えるか」が大きなボトルネックです。ここがクリアになれば、もっと活用が進むでしょうし、公務員の働き方も大きく変わると思います。
子どもたちへのメッセージ—「国を動かすダイナミズムは消えない」
――最後に、将来公務員になりたいと考えている子どもや学生へのメッセージをお願いします。
「AI時代になったら公務員の仕事はなくなるの?」と不安に思うかもしれませんが、むしろAIのおかげで私たちが本来やるべき仕事に集中できるようになると思っています。
公務員のいちばんの魅力は、国や社会を動かすダイナミズムを身近に実感できることです。「安定しているから」という理由だけでなく、「みんなの暮らしをよくしたい」「政策で社会を変えたい」と思うなら、ぜひ公務員という道を考えてみてください。
そして、デジタル技術に関心がある人こそ、AIを使って新しい公共サービスや産業支援を作れる未来が広がっています。やり方次第で、どんどん面白いことができるはず。「課題の切り口をどう定めるか」「価値観のすり合わせをどうやるか」は、人間にしかできない領域。そこに公務員としての面白さが詰まっています。
一緒に新時代の行政を作っていきましょう。
インタビュアーあとがき:「問題設定や課題の切り口を決める」時間的な余裕を作るために
少子高齢化や財政難の中、国家公務員は「人員削減」「業務の効率化」が叫ばれてきました。過去の政権交代時には、「公務員2割削減」といった政策が実施された影響で、東大卒の就職先から官僚が選ばれづらくなったという経緯もあります。先輩が減って、優秀な学生へのリクルートのタッチポイントが減ったそうです。
生成AIは、そのような人員削減の流れに対し、業務量が減らず過負荷になっている現場に対し、定型作業をAIに任せることで、官僚が本来担うべき「課題設定」と「意思決定の調整」に力を注げるようになる可能性を秘めています。
もちろん、機密情報・セキュリティの問題や、意思決定における政治との関係など、課題は山積み。しかし吉田さんが語るように、“国を動かすダイナミズム”はAI時代でも消えることはないでしょう。むしろ、AIを活かした政策立案や現場支援で、新しい公務員像が生まれるかもしれません。
そのためには、時間のギャップ・支援のギャップを埋める必要があると考えます。官僚が本来担うべき「課題設定」と「意思決定の調整」に注力するためにAIは有用でしょう。一方で、現状の官僚は忙しく、新たな政策課題も山積しています。そのなかで、AIを活用するために試行錯誤するための時間的な余裕が持てていません。活用の初期段階では、技術へのキャッチアップ、使い方の習得、自身の業務への導入と、従来の仕事に加えて、追加の時間が必要です。また、技術の習得やどうやって使うかといったスキルの獲得には、適切な支援も必要です。国を支える重要な仕事を担っている方々こそ、インフラとしての生成AIの活用は重要ですが、そのための支援は十分とは言えなさそうです。
「社会を変えたい」「政策を作りたい」という思いを抱く子どもたちにとって、公務員はこれからも魅力ある選択肢になり得るはずです。AI時代だからこそ、より一層“人間が考える部分”が問われる。その結果、社会がより良くなる。ーそんな未来・社会がつくれるような支援を政治には頑張ってもらいたいです。
