【読書記録 -121】中小企業コーポレートガバナンス論
ガバナンスの原義は「gubernare」—舵を取ること
ガバナンス(Governance)とは、英語で「統治・管理・支配」を意味する言葉です。ビジネスや組織運営においては、「企業や組織が不正を防ぎ、健全で透明性の高い運営を行うための管理体制や仕組み」を指します。
コーポレートガバナンスという言葉は、上場企業の株主総会や機関投資家との対話といったコンテクストで語られることが多く、中小企業ではあまり使われることがないだろう。
そもそも「ガバナンス」は、ラテン語で「操舵(そうだ)」を意味する「gubernare」に由来しているそうだ。つまり、企業という船を目的地へ導くことが「ガバナンス」であるならば、それは(一般的に想像されるような)「大企業の監視装置」という狭い意味合いのものではないと言える。
本書『中小企業コーポレートガバナンス論』の著者 青木剛は、中小企業のガバナンスリスクを以下の5つに整理している。
①経営者の慢心
②公私混同
③独善的意思決定
④承継問題
⑤外部の眼の欠如
これらはどれも、オーナーに権限が集中しているからこそ起きやすい問題だ。そう考えると、実はガバナンス欠如による経営リスクは、ひょっとすると大企業より中小企業のほうが深刻なのかもしれない。

重要なのは「セルフガバナンス」
あまり好きな表現ではないが… 現代はVUCA(不確定要素の高い)の時代だ。つまり(大企業だけでなく)中小企業だって経営判断の質が問われる時代なのだ。もし、あなたが自社を100年続く企業にしたいと考えているならなおさらだ。
本書は、その中小企業におけるガバナンスを「仕組みの導入」ではなく、「セルフガバナンス」に求めるべきと説いている。
セルフガバナンスとは、組織や個人が外部からの強制や干渉を受けることなく、自ら規律を定め、自分の意思や責任で行動を律する「自己統治」や「自律」を意味します。
そして、その「セルフガバナンス」の出発点は「インテグリティ」と「スチュワードシップ」—会社は自分のものではなく社会からの預かりものだと再定義することであるべきだ。
1. インテグリティ(Integrity)
インテグリティとは、誠実さ、高潔さ、真摯さを指し、法やルールを守るだけでなく、倫理観や良識に従って一貫して行動することを指す。本書においては以下の3つの行動を律することが挙げられている。
一貫性: 言葉と行動が一体化(同時化)していること。
道徳性: 正直という道徳律を中心に持っていること。
説明責任: 原則が維持できない、もしくは約束を維持できない場合には、責任をもって説明すること。
経営者がインテグリティを根付かせ、醸成するための有効な方法は以下の4つだ。
承継者教育: ファミリー企業においては、幼い頃から親の働く姿を見せたり言い聞かせを行ったりする。
失敗の研究: インテグリティの欠如によって倒産や不祥事を招いた他社事例を反面教師として学ぶ。
セミナーや書籍の活用: 偉大な経営者の考え方や姿勢を学ぶ。
経営者同士の切磋琢磨: 倫理観や道徳観の高い経営者仲間との交流を通じて、自らの判断基準を磨く。
このように、正直、高潔、公平、誠実、自律、責任といった道徳観を意思決定や行動で発揮することが、良いガバナンスの基本要件となる。そしてそれは、経営者の「心の中から生まれる内的動機」による自己規律でなければならない。
2. スチュワードシップ(Stewardship)
スチュワードシップ(Stewardship)とは、本来「執事(Steward)や財産管理人の職務」を指す言葉だ。それが転じて「大切な資源や財産、環境を責任もって管理・運用し、次世代へ引き継ぐための姿勢や責務」という意味で使われる。自社を100年企業に育てようとするならば、どこかのタイミングでファミリーの財産や事業を、良い形で未来の世代に渡して(もしくは先代から引き継いで管理して)いかなければならない。
ファミリー企業のガバナンス… 企業という船を目的地へ導くことにおいて、インテグリティを総舵輪とするなら、スチュワードシップはエンジンにあたるだろう。そのガバナンスの推進力となるのが以下の4つだ。
内発的モチベーション: (誰かに教えられるものではなく)自社とその事業を愛すること。
事業との一体感: (自分自身の延長として事業を捉えて)使命感を持つこと。
個人としての力: (血統に甘んじることなく)自らの力のみで事業を成功に導く強い意志。
サーバント・リーダーシップ: (自分の利益のためではなく)人のために働く、部下をリスペクトするといった奉仕する気持ち。
逆に以下のようなケースでは、スチュワードシップが失われるリスクがあるので十分な注意が必要だ。
経営者としての能力や自覚がないまま不適任者を社長にしてしまう。
財務や経営の知識が不十分なまま勢いだけで経営を行う。
先代経営者のエントレンチメント(Entrenchment:経営への居座り)によって(新しい経営者が実権を握れず)事業承継が中途半端になる。
事業規模別のガバナンス診断
本書の中には、中小企業が自社の「身の丈」に合ったコーポレート・ガバナンスを構築するためのツールとして、事業規模別の「ガバナンス診断」が掲載されている。
以下に簡単な概要は書いておくが、詳細は書籍を買い求めてご自身で確認していただきたい。
1. 小規模企業用(目安:社員30人くらいまで) 全25問で構成され、経営者への依存度が極めて高い実態を反映し、経営者個人の立ち振る舞いやセルフガバナンスに関する質問が多くなっている。
経営者の自己研鑽や法令遵守、公私混同の防止など、トップとしての基本的な姿勢についての設問。
社長が長期不在となった場合の事業継続計画(BCP)や、家族経営に近い規模であるため、家族・社員とのコミュニケーションに関する設問。
また、環境変化に後れを取らないよう、ESG/SDGsへの理解やIT・デジタル化に関する設問。
2. ある程度組織立った中小企業用(目安:社員100人くらいまで) 小規模企業用をベースに全40問に拡張されており、組織的経営やファミリーガバナンスを意識した内容になっている。
基本制度の運用状況(「毎日が株主総会」のような状態から脱し、「株主総会」や「取締役会」といった経営機関が機能しているか)に関する設問。
小規模企業から一段階レベルを上げ、より高い問題意識に関する設問。
親族内の対立を防ぎ、事業承継や後継者育成を円滑に進めるため(ファミリーガバナンスの構築)の設問。
3. 中堅規模用(目安:社員300人以上) 大企業に準じるレベル感で全52問が設定されており、地域の中核企業としてより高度なガバナンスが求められる。
情報開示と説明責任: ファミリー以外の株主(金融機関や社員持株会など)が加わることを想定した、積極的な情報開示に関する設問。
取締役会と監査役の高度化: より高度な経営戦略の議論(ISOやSBT認定などの国際的基準への対応、事業ポートフォリオ・ビジネスモデルの検証)に関する設問。
監査役(社外監査役や内部監査部門)が機能しているか、および彼らとの連携についての設問。
組織・内部統制と企業文化: 社員のエンゲージメントを高める企業文化の創造や、DE&Iなどの新たな価値観の浸透、グループ会社の管理体制などに関する設問。
スチュワードシップ: ファミリーガバナンスにおいて、家長がスチュワードシップを発揮し、ファミリーとビジネスの調和を図っているかの設問。
いつだって、企業の危機は外部環境ではなく、内側の構造的な歪みから生まれるものだ。そこを正さない限り、あなたはあなたの会社を100年企業にすることはできない。
あなたの会社を100年企業にするには、まずは自分自身の舵取り(ガバナンス)を点検することから始めなければならない。中小企業がガバナンスを有効化させるためには、経営者自身の「自律(自分自身を正しくコントロールすること)」が必要なのだ。
参考リンク
・一般財団法人商工総合研究所:公式サイト
・Amazon『中小企業コーポレートガバナンス論』
