【読書記録 -148】『価値観の力』ハーバード・ビジネス・レビュー 2023年4月号
人と組織が動き出す「価値観」の力
価値観とは何だろう
企業が激しく変化する時代を生き抜くために必要なのは、優れた戦略やリーダーシップだけではない。
ハーバード・ビジネス・レビュー 2023年4月号で特集されている「価値観」とは、「何を大切にするのか」を判断するための基準であり、日々の意思決定を支える軸でもある。

組織と個人の価値観が重なれば、人は安心して判断できるようになり、その積み重ねが組織文化となる。本特集は「価値観は組織を動かす力である」というテーマを、多様な角度から掘り下げている。
ポール・イングラム:組織と個人の価値観を一致させる
コロンビア・ビジネススクール教授 ポール・イングラムは、価値観の一致(バリュー・アラインメント)が離職率の低下や生産性向上だけでなく、従業員の満足度やコミュニケーションの質まで改善すると論じる。
ただし、会社が価値観を一方的に押し付けることには否定的だ。まず従業員一人ひとりの価値観を把握し、そのうえで組織との接点を探ることが重要だという。
価値観とは管理するものではなく、組織と個人が互いに理解し合うための基盤なのである。
ロジャー・L・マーティン:企業は政治や社会問題にどう向き合うべきか
元トロント大学ロットマンスクール・オブ・マネジメント学長のロジャー・L・マーティンは、企業が政治的・社会的な問題から距離を置くことは、もはや現実的ではないと指摘する。
だからこそ重要なのは、場当たり的な対応ではなく、自社の価値観に基づいて判断することなのだ。それは、価値観という原則があるからこそ、一見矛盾する状況でも判断の一貫性を保つことができるからだ。
変化する環境の中で企業が信頼を維持するためには、「何を守る組織なのか」を明確にし続けなければならないのである。
ランジェイ・グラティ:過去は変革の足かせなのか、それとも力になるのか
ハーバード・ビジネス・スクール教授 ランジェイ・グラティは、多くの企業が変革を進める際に過去を捨てようとする姿勢へ疑問を示している。それは、企業の歴史や創業理念に、その組織らしさを形づくる価値観が蓄積されているからだ。
重要なのは、歴史を懐古することではなく、未来へ向かうための資源として読み直すことだ。
企業の価値観は突然作られるものではない。長い時間をかけて積み重ねられた経験の中から育まれ、それが変革を支える土台になるのである。
琴坂将広:企業の価値観は、どうすれば組織に根付くのか
慶應義塾大学総合政策学部教授 琴坂将広は、価値観は掲げるだけでは機能しないと説く。
価値観は、日々の意思決定や人事制度、評価制度にまで落とし込まれて初めて組織文化になるのだ。そのためには、経営陣が定めた理念を押し付けるのではなく、社員との対話を通じて価値観を言語化し、組織全体で共有していくプロセスが欠かせない。
価値観とは標語ではなく、日々の行動によって繰り返し確認される「判断基準」なのである。
竹内康雄:企業はどのようにして本当の変革を実現できるのか
オリンパス株式会社 代表執行役 社長兼CEO(当時)の竹内康雄は、不祥事を経験したオリンパスの再建を通して、制度や組織図を変えるだけでは企業は変わらないと語る。
本当に変えるべきなのは、制度や組織図ではなく「私たちは何を大切にする会社なのか」という価値観そのものだ。
企業理念を社員一人ひとりの行動へ結び付けることができたとき、変革は一時的な改革ではなく、新しい企業文化として定着していく。変革とは、価値観を問い直し続ける営みなのである。
価値観は判断を支える軸である
5人の論考を並べてみると、それぞれ扱うテーマは異なる。
イングラムは「組織と個人の一致」を、マーティンは「政治的判断」を、グラティは「歴史」を、琴坂は「組織への実装」を、竹内は「企業変革」を語っている。
しかし、彼らが共通して伝えていることは一つだ。
価値観とは、正解を教えてくれるものではない。
それは「判断を支える軸」である。
環境が変われば、状況も答えも変わる。だからこそ、その都度判断を下すための基準が必要になる。その基準こそが価値観であり、価値観が共有されることで、人も組織も迷いなく同じ方向へ進めるようになる。
真摯さのベースに価値観がある
この特集を読んでいて、ボクはハーバード・ビジネス・レビュー 2025年12月号のドラッカー特集「インテグリティ(真摯さ)」を思い出した。
あの特集では、「真摯さ」とは一度の立派な行動ではなく、日々の判断や行動に表れる姿勢だと整理されていた。そしてその判断基準となるのが、本特集で語られた「価値観」なのではないかと思う。
価値観があるから判断が生まれ、判断を積み重ねることで、その人らしい行動になる。そして、その一貫した行動を周囲が見たとき、人はそこに「真摯さ」を感じるのだ。
誰も、最初から価値観は持っていない。
仕事での成功や失敗、人との出会い、本との出会い、さまざまな経験を積み重ねる中で、「自分は何を大切にしたいのか」が少しずつ形になっていくものだ。
その積み重ねが価値観となり、その価値観が判断を支え、やがて真摯さとして表れるのだろう。
参考リンク
ハーバード・ビジネス・レビュー 2023年4月号『人と組織が動き出す「価値観」の力』
