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見えない家事に論破できる女、出来ない女 508号室の住人




いつも爪楊枝があると思うなホトトギス 
詠み人・上沼恵美子。  

22歳で結婚し、  
約50年の結婚生活の中で、  
こんな話をしていた。  

私は使わないんだけど。
うちの旦那が爪楊枝をよく使う人なんですよ。

だからいつも爪楊枝入れを満杯にしてる。そういう細かいことを、いつのまにか誰かがやってくれてるっていうのは、天の声で言わないかんね。  

「誰が爪楊枝を満杯にしてるかわかってんの?」って言わないかん。  

だけど、それはもう当たり前のことだという感じでしょ。ずーっともう「どんだけ歯が悪いねん」と思いながら、私は見てますよ。  

爪楊枝も、トイレットペーパーも、誰かが補充してくれてるって、考えればわかるでしょ。それを当たり前みたいに使いやがってね。もう「やがってね」になるわね。  

一度ね、便座が冷たかったら「冷たいぞー!」って飛び出してきたことがあるの。

飛び出す前に用足してこいと思うんですよ。今は勝手に便座は温かくなりますけど、昔はカバーつけてたのよ。  
便座のカバーつけるの嫌やったわぁ。あれ誰やってんの?それをいつ洗ってる?妻が毎日洗って付け替えてるわけ、おしっこ飛んでたら嫌やから。  

歯磨き粉も誰が買いに行ってる?

あのチューブ一生ある思てんねん。とんでもないわ。ごめんなさい、やかましいね(笑)。  

お布団を干したとしましょう。

布団を外でパンパン叩いて、部屋に戻してベッドメイキングして、そこまでが家事ですやん。
 「布団干しといて」言ったら、干しただけじゃあかんのよね。ところが干しただけのように夫は思いよる。「布団なんか干すだけやないか」「俺なんか会社では複雑な仕事してんねんぞ」って。  

帰ってきて、自分の定椅子の前に料理が並んでるのが、もう当たり前でね。

それで、熱いものは熱いタイミングで出してるとか、それも見えない家事ですよ。ほんと「うちは吉兆か!」と思うときありましたね。お料理を一品ずつ出すなんてこともやってたんです。  

今日だってそう。

犬の散歩行ってくれたんで、彼が帰ってくるまで食パンも焼かないで、ガチャンって音して帰ってきたな思ったら、トースターのスイッチ入れて、シチューの鍋もあたためて。とにかく熱々で食べさせるって癖なんよね。もう損やわ、考えたら。  

家事というのは無限にあるんですよ。

でも男にとってみたら「そんなもん大して神経使わんやろ」って。神経使わんのやけど、ややこしい嫌な作業ですね。明日が見えなくなるようなね。しかも労われなくて、褒められることもなく、当たり前に。  

「ありがとうの反対語は当たり前」って誰かが言うたけど、ほんまやなと思いますね。  

そこで戦おう思ったら、トイレットペーパー替えなかったらいいわけですやん。
芯だけにしといてやったら。

そしたら「おーい」言うて絶対叫びますわ。そういうこと続けていたら分かっていくんでしょうけど、邪魔くさいでしょう、毎日のことやし。  

「私は食器の裏まで洗ってるのよ。鍋の裏まで洗ってるのよ。あなた分かってるの?幸せもんやね」って自分で言うんもおかしな話で。  そうなってくると家事が自分のプライドみたいになってくるでしょうね。  


新婚時代、こんなことがありました。

旦那の誕生日に、同居してた姑に朝6時半に叩き起こされて。  「旦那の誕生日だから七草粥を作って祝え、いつもそうしてる」っていうの。  それで七草粥を二人で作って、旦那はまだ起きてこないから二人きりで食べて。  

でも、あとで旦那に聞いたら「初めて食べた」って言ってましたね。  


昔の主婦のお友達のことも思い出します。  

おうちに行ったら、トマトくり抜いたのの中にサラダ入れて、ヘタを蓋にしたのが出てきたの。「うちはいつもこうしてます」って顔で。  「わあ、奥さんすごい」って3人ぐらいで拍手しとったら、子供が帰ってきて「お母さんこれ何?」って。「かわいい、こんなことできるんだね」って。奥さんは「何言ってるの、向こう行ってなさい」。
見栄張りたくなんねんな。でも子どもがバラす。誰かがバラす。  

ドラマを見てて、  

「友達の家に遊びに行ったけど、あそこの嫁はんズボラやから鍋の裏黒かったで」「お前はよくやってるんだなあ」「君の値打ちが分かったよ」  なんてシーンないでしょう。それ言うてくれたら最高ですけどね、まずないですね。そんなドラマがあったって当たらへん思うわ(笑)。  

そんなやから、家事においてトイレットペーパーが替わってなかったとか、そんなの話にもならない。「灰皿はなんでいつもきれいなんでしょう?」っていうクイズを出したこともないしね。そう、クイズ出したくなるな、「誰がいつもトイレットペーパーを補充してるんでしょう?」って。  

夫は家事を勘違いしてます。

嫁はんはええな、気楽でな、気も遣わんと家でぼさーっとしてんのやろと思ってるんで。とんでもないわ。男は会社で終わりやんか。奥さんは寝るまで終わりがないやん。最後のしまい湯に入って、風呂まで洗って出てきたりするやん。  

そんなこと思うとね、家事が一番しんどいかわからんな。  褒められない、労われることはない。当たり前にされて流される。そやねんけど毎日のことです。割に合わんなあ。

上沼恵美子・見えない家事について『週刊文春WOMAN2026春号』より抜粋  

 

時に思う。  

私はここまで、  
強くは思ってはいない。  

夫はむしろ、  
よく気がつくほうだ。  

ご飯を作ってくれる。  
食器も洗ってくれる。  
重たいものは  
黙って持ってくれる。  

でも、思う。  

補充されたものも、  
整えられたものも、  
そこにあること。  

たぶん、  
悪気はない。  

ただ、見えていない。  

それでもいい日もある。  

でも、思う。  

上沼恵美子さん。  
ありがとう。