【夜の静寂🌙、昼の気配】(9)ロッカーの影、密室の予感
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いつからだろうか。
派遣の彼女と、言葉を交わすことが自然になっていた。
それは業務の打ち合わせでも、偶然の雑談でもなく、
決まって、各自のノートPCや私物をしまうロッカーの前だった。
座席エリアからは少し死角になる場所。
通路の人の流れからも外れ、
昼の喧騒と夜の気配の、ちょうど境目のような空間。
退社時間が重なるようになり、
彼女は必ず小さく会釈をする。
私はそれに気づき、やがて同じように返すようになった。
最初は無言。
次は「お疲れさまでした」。
やがて「今日は寒いですね」「忙しかったですね」と一言が添えられ、
いつの間にか、短い冗談すら交わすようになっていた。
声は相変わらず低く、やわらかく、
どこか囁きに近い。
ロッカーの金属音に反響して、妙に近くに感じられた。
ある日、私はふと、
「少し、聞いてほしいことがあるのですが」
と、業務とは無関係な前置きをしてしまった。
彼女は一瞬だけこちらを見て、
何も言わずに、別の通路からロッカーのほうへ向かった。
示し合わせたわけでもない。
だが、数分後、同じ場所に、二人だけがいた。
話した内容は、特別な秘密ではない。
仕事の愚痴でも、人生相談でもない。
ただの、取るに足らない出来事。
それでも、不思議と「二人だけの話」になっていた。
私が冗談めかして敬礼のポーズをすると、
彼女も少し遅れて、同じように手を上げた。
その仕草が、
胸の奥に小さな波紋を落とした。
その後、
「あそこの軽食、好きなんです」
「美味しいですよね」
そんな会話から、自然と外で時間を共有する流れになった。
昼でもなく、夜でもない、
仕事と私生活の境界にある時間。
「最近、打ち合わせって、密室みたいですよね」
彼女が何気なく言ったその一言が、
妙に意味深に響いた。
それからほどなくして、
人目を避けるような静かな場所に、
二人で腰を下ろす機会が訪れた。
扉が閉まる音。
外界の気配が、ふっと遮断される。
しばらく、言葉はなかった。
ただ、同じ空気を吸い、
同じ沈黙に身を置く。
それまで理性で保っていた距離が、
ゆっくりと、しかし確実に、縮まっていくのを感じていた。
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