日本の学者を、これ以上つぶさないでほしい 〜金がないなら、せめて場所を〜
はじめまして、介護と支援の相談どころ そよぎの代表、ヒロです。
量子コンピューターの記事を読みました。世界に数えるほどしかない、途方もなく高価な機械です。それなのに、世界中の研究者がそれを使って成果を出している。それはなぜか。順番に、みんなで使っているからです。IBMは2016年5月4日、5量子ビットの機械をクラウドに載せました。今では無料のアカウントで、誰でも本物の実機を動かせます(28日あたり10分という枠はありますが)。装置は一台でも、扉が開いていれば、才能は世界中から集まってくる。
これを読んで、私は日本のことを考えました。
■ まず、正直に言っておきたいこと
「日本は研究にお金を出さなすぎる」と、私は書くつもりでした。でも調べてみたら、そう単純ではありませんでした。日本の研究費の総額は2024年度で23兆7925億円。4年連続で増えて、過去最高です。対GDP比もOECDの計算方法で3.44%あり、世界で5番目に高い。金額だけを見れば、日本は出していないわけではない。ここを誤魔化して書いたら私の思い込みの主張になります。
■ それでも、確かに痩せている
問題は、額ではなく、伸びていないことでした。2000年を1として2023年の研究開発費を実質で比べると、中国は18.08倍、韓国は5.44倍、アメリカは2.12倍。日本は1.41倍です。世界が走っている間、日本だけが歩いていた。
そして大学の足腰が細りました。国立大学法人運営費交付金は、法人化された2004年度の1兆2,416億円から、2025年度は1兆784億円へ。1,632億円、13.1%減っています。
もっとこたえるのは、時間と人です。大学教員が研究に使える時間は、2002年度の水準の約65%にまで減りました。三分の一が消えた計算です。博士課程に進む人は2003年度の18,232人をピークに減り続け、2022年度は約1万4千人。二割減りました。そして注目度の高い論文(Top10%補正論文数)の国際順位は、1997年から1999年の平均では4位だったのが、2021年から2023年の平均では13位です。
お金の問題というより、研究するための条件が痩せた。私にはそう見えます。
■ 「公共の共用ラボを作るべきだ」と書こうとして、手が止まった
ここで私は「金がないなら、せめて最新の機器を集めた公共のラボを用意すべきだ」と書くつもりでした。でも、調べていて手が止まりました。
もう、あるのです。
1994年に共用のための法律ができて、大型放射光施設SPring-8、X線自由電子レーザーSACLA、J-PARC、スーパーコンピュータ「富岳」、そして2024年度からはNanoTerasuが外部の研究者に開かれています。ARIMという事業は、全国26機関・約1,200台の機器をネットワークでつないでいます。日本にも国産の量子コンピュータがあり、初号機(のちに「叡」と命名)は2023年3月27日にクラウドで公開されました。
決定打はこれです。2022年3月29日、国は「研究設備・機器の共用推進に向けたガイドライン」を作っている。その副題が、こうです。
「すべての研究者がいつでもアクセスできる共用システムの構築を目指して」
国は、私が言いたかったことを、4年も前に言っていました。
■ では、なぜ届かないのか
仕組みがあるのに現場に届いていない。その理由が、調べるほど出てきました。
大型施設は「成果を公開するか、お金を払うか」の二択です。SPring-8は成果を公開する課題ならビームタイム料が無料ですが、公開しない課題は8時間あたり48万円。富岳は利用報告書を公開すれば単価がちょうど半額になります。開かれてはいる。ただし条件付きで。
中規模の設備は、もっと厳しい。国の整備枠は5億円が上限で、年に2件程度です。しかも令和6年度の補正予算では当初10億円で2件を要求したのに、折衝の末に5億円になった。国の審議会では「5億ということでは1つの設備を丸々更新することが難しく、設備の一部の要素を更新するにとどまってしまう」と説明されています。
大学の中はもっと切ない。機関によっては「資産台帳と実際の機器の情報のひもづけができていない」と国の部会で報告されました。どの機器が共用できるのか、把握すらできていない。統括部局が管理している共用機器は、総資産の一割か二割ほどです。
支える人も細い。共用機器を動かす技術職員について、無期雇用と有期雇用が混在し、給与面から人材の確保が難しいと、審議会の場で委員が指摘しています。
そして共用の仕組みづくりを助ける国の事業さえ、競争なのです。2020年度は34機関が手を挙げて採択は5機関。2021年度は35機関に対して10機関。手を挙げても、大半は落ちる。
■ これは、福祉とまったく同じ構造です
私は介護福祉士として、長く福祉の現場にいました。そこで何度も見た光景があります。制度はある。窓口もある。それなのに、必要な人に届いていない。申請主義の死角です。知らなければ使えない。たどり着けなければ、無いのと同じ。書類が書けなければ、その人にとって制度は存在しないのと変わらない。
研究設備の話は、これとそっくりでした。仕組みはある。ガイドラインもある。副題には「すべての研究者がいつでも」とまで書いてある。それでも届かない。届く前に財源が切れ、支える人が有期雇用のまま消えていく。
作って終わりにしないでほしい。届くまでが仕事だと、私は思います。
それに、扉を開けるだけでは足りません。量子コンピューターが成果を生んだのは、機械を開放したからだけではなく、使い方を支える人とコミュニティを、装置のまわりに作ったからです。ここも福祉と同じでした。制度を作るより、伴走する人を置くほうがずっと難しく、ずっと効きます。
■ ノーベル賞は、過去から届いた手紙です
日本のノーベル賞は誇らしいものです。日本出身の自然科学3賞の受賞者は27人(受賞時に外国籍だった方を含む数え方です)。そのうち22人が2000年以降に受賞しています。
でも、文部科学省自身が白書にこう書いています。「今世紀における我が国の自然科学系ノーベル賞受賞者数は米国に次ぐ世界第2位ですが、この受賞者数が、必ずしも現在の我が国の研究力を示しているわけではありません」
受賞は、過去の研究に対して贈られるからです。2025年のノーベル物理学賞の対象になった実験は、1984年から1985年に行われたもの。40年前です。2025年に受賞した坂口志文さんの最初の重要な発見は1995年。30年前でした。
つまり今の受賞は、数十年前の日本が蒔いた種が、いま実っているだけなのです。では今の日本は、何の種を蒔いているのでしょうか。
2016年に受賞した大隅良典さんは、自ら1億円を出して財団を作りました。その財団のサイトに、こう書かれています。
「今後も日本人の受賞がこのまま続くかというと、はなはだ心許ない状況にあります」
将来かならず受賞者が減る、と言い切ることは誰にもできません。それは予測であって、証明ではない。けれど、受賞した本人がこう書いている。その重さは、否定できないと思います。
■ 私が言いたいこと
国は、学者をもっと大切にしてほしい。お金がないなら、無いなりに工夫してほしい。
新しく作れとは、もう言いません。あるのですから。あるものを、届くようにしてほしい。研究する時間を返してほしい。支える人を、有期雇用のまま使い捨てないでほしい。5億円で年2件を、現場が回る数にしてほしい。手を挙げた34機関のうち5機関だけ、で終わらせないでほしい。
才能は、勝手には育ちません。育つ場所がなければ、育たないまま消えます。私は福祉の現場で、支えが届かないまま静かに消えていく人を、何人も見てきました。研究者も同じだと思うのです。潰されているのは予算ではなく、人です。
日本に、世界と戦える人がいないわけではない。いるのに、場所がないだけです。
学者を大切にすることは、この国を大切にすることだと思います。ここを何とかすることは、そのまま、国を何とかすることにつながっている。私はそう信じています。
参考にした資料
文部科学省 科学技術・学術政策研究所『科学技術指標2025』
総務省統計局「2025年(令和7年)科学技術研究調査 結果の概要」
https://www.stat.go.jp/data/kagaku/kekka/kekkagai/pdf/2025ke_gai.pdf
文部科学省『令和4年版 科学技術・イノベーション白書』
文部科学省「研究設備・機器の共用推進に向けたガイドライン」
文部科学省 科学技術・学術審議会 学術分科会 研究環境基盤部会(第127回)議事録
文部科学省 科学技術・学術審議会 研究開発基盤部会(第29回)議事録
公益財団法人 大隅基礎科学創成財団
【3つの支援の窓口】私たちの挑戦を応援してくださる方へ、3つの窓口を用意しています。
LEAFプロジェクト(白状だけで盲導犬の役割を果たせるアタッチメントの開発)への寄付や、活動全般の支援(Giveth)
☆暗号通貨支援⇩
活動全般への応援。私たちが日々行っている社会的弱者支援の活動そのものを支えてくださる方は、こちらのリンクから少額で結構ですのでご支援お願いいたします。
☆クレカや電子マネー支援⇩
☆JPYC(ステーブルコイン)での支援⇩※polygon・KaiaJPYC自動で両対応
各種無料アプリや拡張機能はこちらです⇩
