「ICTがあること」と「現場で活きていること」は違う|新しい介護現場で感じたこと
こんにちは。
元ITエンジニアで現役介護福祉士のやなぎです。
最近、新しい介護現場に入り、いろいろなことを感じています。
新しい現場に入ると、前の職場では当たり前だったことが、今の職場ではそうではなかったり、反対に、今の職場ならではの良さや積み重ねが見えてきたりします。
どの現場にも、その場所で長く働いてきた人たちのやり方がありますよね。
事情もあります。
人員体制も違います。
設備も違います。
利用者様の状態も違います。
なので、外から入った人間が、すぐに「ここが悪い」と言えるものではないと思っています。
ただ、新しい現場に入ったからこそ、見えることもあります。
慣れている人にとっては日常になっていることでも、外から入ると、
「ここに職員の負担が隠れているのかもしれない」
「ここは少し見直せたら、現場が楽になるのかもしれない」
と感じる場面があります。
今回は、その中でも特に、介護現場のICT化について感じたことを書いてみたいと思います。
面接で聞いたICT化への期待
面接のとき、その現場ではICT化を進めていきたいという話がありました。
介護ロボットやインカムなども活用しながら、現場の負担を軽くしていきたい。
今後はもっとそうした方向にも力を入れていきたい。
そのような話を聞いて、僕自身も共感する部分がありました。
僕は介護職になる前、IT企業で働いていたことがあります。
その経験もあり、介護現場にICTやAIが入っていくこと自体には、かなり前向きです。
人手不足が続く中で、今までと同じやり方だけで現場を支え続けるのは、少しずつ難しくなっていくと思っています。
記録。
申し送り。
情報共有。
見守り。
職員同士の連携。
新人さんへの説明。
ご家族への情報整理。
管理者やリーダーの確認業務。
こうしたものを、すべて職員一人ひとりの頑張りだけで支え続けるには、限界があります。
だからこそ、ICTやAI、介護ロボットのような仕組みは、これからの介護現場にとって大切な支えになっていくと思っています。
面接でICT化への前向きな話を聞いたとき、僕自身も、
「ここなら介護現場とITの両方の視点を活かせるかもしれない」
と感じました。
ただ、実際に現場に入ってみると、少し考えさせられる場面もありました。

「ICTがあること」と「現場で活きていること」は違う
介護ロボットやインカムはある。
でも、それが日々の業務の中で十分に活かされているかというと、まだそこには距離があるように感じました。
もちろん、導入したこと自体を否定したいわけではありません。
介護現場でICTや介護ロボットを導入する背景には、現場の思いだけでなく、加算や補助金、法人の方針、企業や取引先との関係、導入実績としての意味など、いろいろな事情があるのだと思います。
管理する立場から見れば、制度に対応する必要もあります。
将来的な人手不足を考えて、少しずつ新しい仕組みに触れておきたいという考えもあると思います。
外部から見える形で、ICT化に取り組んでいることを示す必要がある場面もあるのかもしれません。
そうした事情があることは、理解しているつもりです。

だから、
「使われていないなら意味がない」
と乱暴に言いたいわけではありません。
ただ、本当に現場を良くしたいなら、最後に一番大切になるのは、やはり現場目線なのだと思います。
その機器は、誰のどんな困りごとを軽くするためにあるのか。
どの時間帯で使うのか。
誰が使うのか。
使うことで、職員の動きは少しでも楽になるのか。
利用者様への関わりに良い変化はあるのか。
使いにくいと感じる人には、どんな支えが必要なのか。
そこが見えないまま機器だけが置かれていても、現場の中では「あるけれど、使われないもの」になってしまうことがあります。
インカムがあっても、必要な場面で使われていなければ、職員同士の連携は変わりにくい。
介護ロボットがあっても、どの場面で、誰が、何のために使うのかが曖昧だと、いつもの介助に戻ってしまう。
記録ソフトがあっても、紙の記録や口頭確認が残ったままだと、確認する場所が増えてしまう。
つまり、ICTは「ある」だけでは足りないのだと思います。
先にアイテム、つまり機器や仕組みがあるのではなく、先に現場の悩みがある。
記録が大変。
申し送りが分かりにくい。
介助で身体への負担が大きい。
連携が取りにくい。
新人さんが確認しづらい。
夜勤者の不安が大きい。
そうした困りごとがあって、そこを少しでも軽くするために、介護ロボットやインカム、記録ソフト、AIなどの手段を考える。
この順番で見ていかないと、せっかく導入したものが、現場の支えになりにくいことがあります。
ICT化は、機器を置くことではなく、現場の困りごとを少し軽くすること。
新しい現場に入って、あらためてそこを感じました。

古い設備や紙記録は、ただの不便では終わらない
新しい現場に入って感じたことの一つに、設備や記録の違いもあります。
古い設備。
紙で残っている記録。
確認する場所が分かれやすい情報。
身体に負担がかかりやすい動き。
こうしたものを見ていると、ただ「古いから良くない」と言いたいわけではありません。
古い設備にも、長く使われてきた理由があります。
紙記録にも、一覧で見やすい面や、慣れている職員にとって扱いやすい面があります。
現場に馴染んできたものを、外から入った人間が簡単に否定することはできません。
ただ、その一方で、古い設備や紙での管理が、職員の負担につながっている場面もあると思います。
必要な情報を探すのに時間がかかる。
同じ内容を何度も書く。
どこに何が書いてあるか、人によって見方が違う。
確認に時間がかかり、新人さんが判断に困る。
身体の使い方に無理が出やすい設備の中で、介助が続いている。
こうしたことは、少しずつ職員の身体や気持ちに積み重なっていきます。
紙が悪い、古い設備が悪い、という話ではありません。
それによって、誰にどんな負担が寄っているのかを見たいのだと思います。
ICT化を考えるなら、いきなり新しいシステムを入れる前に、まず今の現場で何が負担になっているのかを見たいですよね。
紙の記録が残っているなら、どの情報を紙で見る必要があるのか。
どの情報はデジタルにした方が探しやすいのか。
同じ内容を二重に書いていないか。
新人さんが見たときに分かりやすい形になっているか。
そこを見ないままICTを入れると、紙とシステムの両方を見ることになり、かえって確認する場所が増えることもあります。
ICT化は、紙をなくすことだけが目的ではありません。
現場の確認しやすさや、負担の減らし方を考えることが大切なのだと思います。

食事介助や排泄介助の流れに、現場の負担が見える
食事介助や排泄介助の流れを見ていると、現場の負担がとても見えやすいと感じます。
食事介助。
下膳。
口腔ケア。
排泄誘導。
コール対応。
記録。
休憩交代。
次の時間帯の準備。
こうした業務は、きれいに一つずつ終わるわけではありません。
時間帯によっては、いくつもの業務が重なります。
職員の人数や利用者様の状態によって、同じ時間帯でも負担の大きさは変わります。
食事介助中に他の対応が重なることもあります。
排泄介助に入っている間に、別の利用者様のコールが鳴ることもあります。
新人さんが判断に困っても、先輩職員がすぐに声をかけられないこともあります。
記録をしたいと思っても、後回しになってしまうこともあります。
こうした流れを見ないまま、ICTだけを入れても、忙しさの原因は残りやすいと思います。
たとえば、記録ソフトを入れても、記録する時間が勤務の中に確保されていなければ、結局あとでまとめて入力することになります。
インカムを入れても、つける習慣が根付かなかったり、誰がどのタイミングで何を伝えるのかが曖昧なら、必要な情報は流れにくいままです。
見守りシステムを入れても、その通知を誰が受けて、どう動くのかが決まっていなければ、現場は戸惑います。
食事介助や排泄介助の流れを見ていると、ICTを入れる前に、まず業務の重なりや人の動きを見る必要があるのではないかと感じます。
ICTは、現場を見ずに入れるものではなく、現場を見たあとに選ぶものなのだと思います。

「改善した方がいい」と思っても、すぐに言えるわけではない
ただ、新しい現場に入って感じたことを、すぐに言えるかというと、それはまた別の難しさがあります。
長く働いてきた職員さんたちがいます。
その現場のやり方があります。
今まで積み重ねてきた流れがあります。
正直僕も気になるところはかなりたくさんあります。
それでもやっぱり、外から入ってきたばかりの人間が、
いきなり「ここは変えた方がいいと思います」
と言うのは、簡単ではありませんよね。
たとえ良くしたい気持ちから出た言葉でも、伝え方によっては、今までのやり方を否定されたように感じる人もいるかもしれません。
僕自身も、そこはかなり慎重になっています。
感じた違和感をそのままぶつけるのではなく、現場の困りごととして一緒に考えられる形にしたいと思っています。
「これはおかしいです」ではなく、
「ここに負担が集まっているように感じます」
「この時間帯は、少し業務が重なりすぎているのかもしれません」
「この機器は、どの場面で使う想定なのか一度確認してみたいです」
「新人さんや夜勤者が確認しやすい形にできると良さそうです」
そんなふうに伝えられたら、少し話し合いやすくなるのかもしれません。
改善は、正しいことを強く言えば進むものではないと思います。
その現場で働いている人たちが、
「それなら少し考えてみてもいいかもしれない」
と思える形で言葉にすることも、大切なのだと思います。

ICT化は、現場の困りごとを見たあとに考えたい
ICT化そのものは、これからの介護現場に必要だと思っています。
AIも、記録ソフトも、インカムも、見守りシステムも、介護ロボットも、うまく使えれば大きな支えになります。
ただし、いきなり導入するものではないと思います。
まず、現場の困りごとを見る。
誰が何に困っているのかを見る。
どの時間帯に業務が重なっているのかを見る。
どこで同じ情報を何度も確認しているのかを見る。
新人さんがどこで不安になっているのかを見る。
職員の身体に負担がかかっている場面を見る。
そのうえで、ICTなしで見直せることはないかを考える。
物品の場所を分かりやすくする。
申し送りの項目をそろえる。
報告の目安を共有する。
記録で迷いやすい内容を確認する。
休憩に入りにくい時間帯を見直す。
新人さんが確認しやすい表を作る。
そうした見直しだけで、少し軽くなることもあると思います。
それでも残る負担に対して、ICTやAIを考える。
この順番が大切なのだと思います。
ICT化は、現場を見ずに入れるものではなく、現場を見たあとに選ぶもの。
新しい現場に入って、そのことをあらためて感じています。

現場の困りごとは、誰かを責めるためではなく、軽くするために見る
「困りごとを見る」と聞くと、人によっては少し構えてしまうかもしれませんよね。
誰かの仕事のやり方を指摘するように感じることもあるかもしれません。
新人さんの理解不足を探すように見えることもあるかもしれません。
ベテラン職員が変化を嫌がっているように見えてしまうこともあるかもしれません。
リーダーや役職者の進め方の問題として見られてしまうこともあるかもしれません。
でも、本当はそうではないと思っています。
困りごとは、誰か一人の責任ではないことが多いです。
記録の基準が曖昧なのかもしれません。
申し送りの場所が分かれているのかもしれません。
新人さんが確認できる資料が足りないのかもしれません。
物品の置き場所や補充ルールが分かりにくいのかもしれません。
休憩に入りづらい業務の重なりがあるのかもしれません。
残業が出やすい流れが、勤務の中に残っているのかもしれません。
ICT化の目的が、十分に伝わっていないのかもしれません。
困りごとを見るのは、誰かを責めるためではありません。
誰か一人の頑張りに寄りかかっている部分を、少し軽くするためなのだと思います。
現場で働く人が少し確認しやすくなる。
新人さんが少し安心して動ける。
中堅職員が一人で抱え込みすぎない。
ベテラン職員の経験が伝わりやすくなる。
リーダーや役職者が、現場の不安を聞きながら進めやすくなる。
そうした方向に繋がるなら、ICT化や業務改善は、現場を追い詰めるものではなく、現場を支えるものになっていくのだと思います。

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誰か一人の経験や頑張りに寄りかかりすぎていないか。
そこを見える形にすることで、初めてチェックシートや共有シート、ICTやAIが現場の助けになっていくのだと思います。
近いうちに、ICT化の実践ガイドとしてまとめます
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先にアイテムがあるのではなく、先に現場の悩みがある。
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ICTなしで見直せることを確認する。
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そして、導入して終わりではなく、使ってみて振り返る。
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また、読んで終わりにならないように、現場で使えるテンプレートも用意しました。
たとえば、
ICT・AI導入前チェックリスト
現場の困りごと整理シート
業務の重なり発見シート
ICT化5ステップ整理シート
ICT導入ミーティング用メモ
ICT導入後振り返りシート
AI相談プロンプト作成テンプレ
などです。
さらに、おまけとして、テンプレートの記入例や職員向けの説明文、上司・管理者への提案文、15分ミーティングの進行台本、AIプロンプト集などもExcelでまとめています。
「ICT化と言われても、何から考えればよいか分からない」
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