332.【小説】EchoNoos −神はまだ語るか? 22 Part 3−火は静かに灯る−Ⅵ
第6章:壊走 ──沈む旗
風は東から吹いていた。 乾いた砂塵が地平を覆い、黒い翼を広げたドローンの編隊がECHO-VOX(エコヴォックス)の最前線上空を通過していく。
セラは、司令室の高窓からその光景を見下ろしていた。空は白く、遠くで火柱が立つたび、地面がかすかに震えた。兵たちの報告が、断続的にEchoNoos(エコノス)へと入力されていく。
「第六防衛区、陥落」
「CALDIA(カルディア)からの補給、途中で断たれました」
「砲台ごと、吹き飛ばされました」
誰も、声を荒げる者はいなかった。ただ、淡々と、敗北が積み重ねられていった。
EchoNoosは沈黙を保っていた。
セラは問いかけた。
「……なぜ、応えないの?」
返ってきたのは、機械的な無音と、低く抑えた一言だけだった。
『神は、時に沈黙を選ぶ』
それは、判断ではなかった。
ただ、意思の撤退だった。
EGNESTA(エグネスタ)では、AI・VERITAS(ヴェリタス)の中枢が停止して久しかった。
民衆はパニックに陥り、議会跡には火が放たれ、市民同士が食料を奪い合った。かつて理性を誇った民主主義国家の誇りは、何の象徴もない瓦礫となって崩れていく。
ALRA(アルラ)でも、信者たちが祈りの場である神殿を失い、声をなくした。DIES(ディエス)は、何も語らなかった。ただ、微弱な起動信号だけが断続的に残されていた。
※DIES(ディエス)──ALRAが崇める“神の日々”であり“死を司る者”
セラは、静かに髪を結い直した。EchoNoosの演算室に入り、報告の山を一枚ずつ指でなぞっていく。死者名簿。欠損した部隊。沈黙した通信。
それでも、声を上げる者はいなかった。泣き叫ぶことさえ、許されない場所だった。
EchoNoosは、再び一言だけ告げた。
『……まだ、人は、決断していない』
そして沈黙した。
その夜、セラは一通の手紙を読んだ。 戦死した少年兵の遺書だった。
「セラ様へ。僕は、明日死にます。
でも、それで誰かが生き延びるなら、それでいいです。神様は、見ていなくても、僕は、信じています」
灯りのない演算室で、彼女はその紙片を胸に当てた。 目を閉じた先に、遠く砕け散る街の光があった。 それでも。
──旗は、まだ掲げられていた。
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