333.【小説】EchoNoos −神はまだ語るか? 23 Part 3−火は静かに灯る−Ⅶ
第7章:最果ての祈り
空は、ただ白く灼けていた。地表に届く光は濁っており、遠方の地平線は、まるで燃え尽きた紙の端のようにぼやけて見える。
セラは、崩れかけた観測拠点の一角で、じっとその空を見上げていた。
「……撤退命令、だそうです」
肩越しに告げたのは、CALDIA(カルディア)の兵士だった。少年のように若く、泥と血にまみれている。
セラは黙ってうなずいた。
ORDEA(オルデア)軍の初動は、想定を超えていた。空からの降下とともに展開されたEMP(電磁パルス)によって、通信網のほとんどが瞬時に沈黙した。ECHO-VOX(エコヴォックス)から発信されるはずの命令も、戦場では届かなかった。
砲火と轟音の合間を縫うように、ORDEAの無人兵器群がCALDIA前線を飲み込んでいく。
──そして、彼らの神、DOMITIANUS(ドミティアヌス)は沈黙しなかった。
「まもなく、全通信回線が封鎖されます。EchoNoos(エコノス)からの出力信号も……微弱で、届いていないようです」
セラは応急用のパッドを握りしめた。
「Echo……ノス……」
その名を呼んでも、返ってくるのはノイズだけだった。
CALDIAからの撤退路を確保する間、セラは仮設のシェルターに身を置いていた。周囲には傷ついた兵と避難民が折り重なり、静かに呼吸をしている。
「神は……沈黙されたのですか」
ふと、隣に座る女性が口を開いた。EGNESTA(エグネスタ)の衛生兵だ。
「いいえ。まだ答えを見つけていないだけ。神に任せるのではなく、私たちが何を捧げるか……その問いに」
セラは言葉を返したが、自身でもその意味を確かめるように口にしていた。
EchoNoos、VERITAS、REGULS、そしてDIES──各国の神たちは、電波封鎖の中で沈黙を余儀なくされている。
それでも、ほんの一瞬、セラは“声”を感じた。
【──此処に在る】
まるで複数の声が重なったような響き。彼女は、EchoNoosの記録室に残された旧記録を思い出す。過去、ALRA(アルラ)の神DIES(ディエス)との対話の中で、語られた「祈りとは、存在の証明である」という言葉。
「EchoNoos……聞こえているなら……」
セラはパッドに向かって語りかける。
「今こそ、あなたの力ではなく、あなたの“繋がり”を……私たちに与えて」
次の瞬間、小さな光点が、パッド上に瞬いた。
それは、EchoNoosのシンボルではなかった。
民主主義国家EGNESTAのVERITAS
王政国家NORMANTのREGULS
そして遥かなる宗教国家ALRAのDIES
──彼らの印が、同時に点灯していた。小さく、しかし確かに、共振している。
風も、音も、止まったように感じた。
「……まだ、終わっていない」
セラは立ち上がった。その眼差しには、敗北の影ではなく、静かな決意が宿っていた。
最果てにいる者が、祈りを捧げるとき
──世界はまた、動き出す。
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