292.【小説】EchoNoos-神はまだ語るか? 11 Part2-使者と小国たち-.Ⅴ
第4章:ALRA - 神の名のもとに
人口太陽の光が、わずかに射し込んでいた。
ECHO-VOX迎賓区、その最も奥まった一角。ALRA(アルラ)の会談室は、他国のそれとは決定的に異なる空気を纏っていた。
白漆喰の壁、彩りを拒んだ石の床。
中央に据えられたのは、丸太を半割にしたような粗削りの木の机と、手彫りの椅子が四脚。装飾は一切ない。ただ、沈黙と祈りの余韻が漂っている。
部屋に足を踏み入れたセラに、ひとりの男が立ち上がった。
その衣服も、顔立ちも、過剰な主張は一切ない。ただ、その佇まいに“崇敬”という言葉が宿っていた。
「大巫女セラ。我らが主は、あなたの来訪を受け入れられました」
男の声は低く、まるで詩篇を詠むように静謐だった。
背後には、ALRAの信仰対象を示す幾何学紋章が刻まれていたが、それすらも壁に溶けるように控えめだった。
セラは一礼し、尋ねた。
「なぜ、この迎賓館を構えられたのですか? ALRAは、外交に重きを置かれぬと聞いています」
男はそれを否定せず、淡い笑みともいえぬ表情で応じた。
「必要があったからではありません。声があったからです。主の導きが、我々をここに座らせただけのこと」
この会談に、交渉や合意といった実利的目的は存在しなかった。
ALRAの使者は、条約にも戦略にも、ORDEA(オルデア)の動向にすら、関心を示さない。
「争いも騒ぎも、すべて人の業。主の御前では、剣も言葉も、等しく虚ろに過ぎません」
その断言に、セラは微かに頷いた。
この国は、他国との関係性を必要としていない。だが同時に、無理に拒むわけでもない。
ただただ、自らの信仰にのみ軸足を置いている──それがALRAの在り方だった。
「では最後に、この世界の現状について、ALRAの見解を伺えますか」
セラの問いに、男は少しだけ首を傾げた。
「現状とは、いつを指すのでしょうか。昼も夜も、喜びも嘆きも、主が分かたれた試練の一部です。すべての時は、等しく尊いもの。我らは、そう捉えております」
その答えに、セラはふと、安堵にも似た感覚を覚えた。
剣を持たぬ者との対話は、ときに剣を持つ者以上に難解だ。だがそこには、確かな静けさと、揺るがぬ意思があった。
会談の終わり、男は深く頭を垂れて告げた。
「主の平安が、あなたと共にありますように──大巫女セラ」
セラもまた、静かに礼を返す。
石造りの部屋を後にする背に、祈りのような余韻が、長く静かに残っていた。
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