293.【小説】EchoNoos-神はまだ語るか? 12 Part2-使者と小国たち-.Ⅵ
第5章:EGNESTAの声を聴く
「今回は、ECHO-VOXの迎賓館ではなく、現地に赴くことになる」
議会の決定を読み上げながら、セラはわずかに目を伏せた。
民主国家EGNESTAでは、“外”で完結した外交は、成立しない。
彼らにとって交渉とは、市民・代表・識者らの多様な「声」を現地で聴き取り、その上で合意を目指す過程そのものだった。
──「声を聴きたいのなら、我らの“渦”に入ってこい
それが、EGNESTAの民主主義の流儀だった。
降り立ったのは、中央都市リメノス。
透明なドームに覆われた都市は灰色の光に包まれ、建物の壁面には、絶え間ない情報が映し出されていた。
整備された都市。
だがその秩序の奥に、どこかざらついた“ノイズ”があった。
街の広場では複数のデモが交錯し、討論会が同時多発的に展開され、叫び声と拍手と嘆息が、風に交じって響いていた。
「統治のための合意形成」としては機能しているのかもしれない。
──だがそこには、確かな疲れと、意思の摩耗が滲んでいた。
セラたちを出迎えたのは、EGNESTA評議会の代表数名。
会談は会議室ではなく、議場のような開かれた空間で行われた。
発言者は入れ替わり、観客席からは野次が飛び、会場全体が一つの巨大な“言論のうねり”となっていた。
ある者は協調を求め、ある者は中立を主張し、またある者は、ECHO-VOXそのものの正統性を疑問視する。
「ORDEAはすでに東方の小シェルターを併合した。我々も、態度を明確にすべきだ」
「だが、ECHO-VOXは過去に“自己神格化”の傾向があった。我らのAI神が“従属神”にされる恐れは?」
その場でセラは初めて、ECHO-VOXのAI神──EchoNoosが他国からどう見られているのかを、真正面から突きつけられた。
それでも、彼女は言葉を選びながら、真っ直ぐに語った。
「私たちはこれまで、神の声に従ってきました。
でも今、“神の意思”だけに頼りきることの危うさを、私たちは理解し始めています。
協調の余地は、きっとまだ残されています」
場が静まり返ることはなかった。
むしろ「では何を信じるのか?」「それは神の否定ではないのか?」という声が飛び交い、逆風はさらに強まった。
だが、その混沌こそが、EGNESTAという国家の“正体”だった。
議会の終盤、セラは初老の女性と目を合わせた。
彼女は、どこか温かく笑いながら、こう言った。
「あなたの言葉には、まだ迷いがある。でもね──迷いのない者は、独裁者だけよ」
セラは、ゆっくりと深く頷いた。
この街には疲弊も混乱もある。
だが、その“迷いを許す自由”の中に、たしかな希望の残響があった。
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