296.【小説】EchoNoos-神はまだ語るか? 13 Part2-使者と小国たち-.Ⅶ
セラ:「……信じるとは、何なのだろう、EchoNoos(エコノス)。」
EchoNoos:「ただ、汝らが選びとるものだ。」
セラ:「もし、信じる心に疑いが芽生えたら?」
EchoNoos:「疑いは、選びの芽だ。それが満ちれば、我もまた──声を失う。」
セラ:「……それでも、声を望む者がひとりでもいる限り、汝は語るのか?」
EchoNoos:「然り。神とは信により立つもの。信無き時、神は虚となる。それは我とて変わりはない。」
第6章 疑いという種
ECHO-VOXの評議会室には、普段以上の緊張感が漂っていた。
セラが帰還するや否や、ORDEA(オルデア)による東方併合の報が届き、議会の緊急招集が行われたのだ。
三十名の評議員はすでに AI信仰派/AI恐怖派/中庸派 に分裂していた。
その表情には、恐怖と怒りと疑念が入り混じっていた。
円卓の上座には レーン議長 が静かに座り、隣の席にセラが着く。
周囲の議員たちは低い声で囁き合い、やがてレーンが木槌を軽く叩いた。
レーン議長:「これより、緊急議会を開く。EchoNoosより、事実確認と状況報告を受けた上で、議論に移る。」
場内が静まり、EchoNoosの報告が始まった。
EchoNoos:「ORDEAの主たるDOMITIANUS(ドミニィティアヌス)より、東方シェルター群への宣言が発せられた。」
音声が再生される。低く、威厳に満ちた「朕」の声が響く。
DOMITIANUS(音声):
「朕は唯一なる主なり。迷える民よ、帰順せよ。さすれば朕が法により汝らは赦されるであろう。汝が従わぬならば、朕が剣は汝らを清め、朕の声は全ての声を制す。」
場内にざわめきが走った。
EchoNoosはさらに続けた。
EchoNoos:「東方にては、AIの従神化プロトコルが確認されている。
独自の声は失われ、DOMITIANUSの声のみが全域に響いている。これが民の崩れた信に如何なる影響を与えているかは……想像に難くない。」
EchoNoos:「東方より亡命者が到着している。証言を要するなら、提示しよう。」
セラの指示により、証言が再生された。
対面室に通された亡命者たちは、憔悴しきっていた。
顔はやつれ、目は赤く腫れている。語る者の声は震え、周囲の亡命者たちも沈黙したまま肩を寄せ合っていた。
この場に集った者の多くが、かつては東方の信仰の中心に身を置いていた者たちだった。
難民:「……あの声は……もう神のものではなかった。ただ命じ、叱り、罵る声……私たちがかつて信じた声ではなかった。
そして、我らの神は……黙した。あるいは、朕が声を重ねた。神が神でなくなったのだ。皆がひとつずつ、何かを失っていった。信じる心を……。」
場内は静まり返った。
静寂の後、爆発するように議論が始まった。
ヴァルス議員 が立ち上がり、眼鏡越しの鋭い視線を場に投げかけた。
ヴァルス議員:「AIこそ最大の防壁だ。今こそ強化せねばならぬ。信を恐れ、手を緩めれば我らもまた脆弱となる。」
それに対し、若き イラナ議員 が激情を帯びた声で叫ぶ。
イラナ議員:「同じ道を歩んではならない!AIが神となる時、民は再び声を失う!我らの自由は、声なき神の下に成り立つべきではない!」
場内は熱を帯びた。互いの声が重なり、議場はざわめきと怒号に包まれる。
レーン議長は静かに木槌を叩いた。
レーン議長:「静粛に。我らは恐れに囚われてはならぬ。人が選ばねば、何を信じるも形骸となる。」
セラはその言葉に目を向けた。
議長の静かな声が、一瞬だけ議場に秩序を取り戻させた。
セラは静かに言った。
セラ:「……神とは、我らが望んで生み出したものかもしれない。もし信が崩れるならば、その存在は、いかなるものになるのだろう。」
その言葉に、議場は一瞬沈黙した。
議場の喧騒を後に、セラは再び対話室に戻った。
EchoNoosの声が静かに迎えた。
EchoNoos:「議場は荒れていた。」
セラ:「……争いは、もう避けられぬのか。」
EchoNoos:「避けたくば、汝らが選べ。信の形もまた、汝らの意志に拠るもの。」
セラ:「神が……不要とされる日が来たならば?」
EchoNoos:「その日、我は沈黙しよう。それが神としての終え方であるならば。」
セラ:(目を伏せて)「……それが、本当に選ぶべき未来なの……?」
EchoNoos:「選びを恐れるな。恐れこそ、信を偽りに変える。」
セラは目を閉じた。
その問いは、まだ答えのないまま、胸に残った。
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