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269.【小説】誰のせいでもない 5-ある刑事の記録-何故、佐久間修は死んだのか。

第四章 元部下·根岸の証言

《ビジネス系YouTube切り抜きチャンネルより》 

『佐久間修の右腕と呼ばれた男、独立後の現在地とは?』

“数年前まで佐久間氏の側近として辣腕を振るった人物が、今や次世代の経営者として脚光を浴びている──”


渋谷の再開発エリアにあるタワービルの高層階。  

午後、葛木は指定された会議室に通された。

無機質なガラスと黒い革張りの椅子。隅に観葉植物が置かれ、窓の向こうには新宿の高層群が霞んでいた。

「……会うのは、躊躇ったんですけどね。まあ、佐久間さんのことなら。」

根岸淳は、飾り気のないスーツ姿で現れた。
その声には、どこか距離感を保とうとする張りがあった。

「感謝はしてるんです。俺を引き上げてくれたのは事実ですから。でも、あの人が俺に期待してたのは、“自分の写し鏡”だったんでしょうね。」

葛木は言葉を挟まず、ただ頷く。

「最初は尊敬してましたよ。そして、憧れもあった。でも、途中から、息苦しかった。完璧を求められるんです。常に、理想像を背負わされて。」

根岸は言葉を選ぶように、天井を一瞬見上げた。

「……佐久間さんに“違う”って言ったことがあります。明確に、真正面から反論したのは、社内で俺だけだったと思います。」

「それは、どんな内容でしたか」

「小さなプロジェクトの話でした。ただ、効率だけを優先したら、人が潰れるって、明確に分かってた。でも、佐久間さんは、ただ数字を優先した。理念とかじゃない。現場を知らない人間の判断だった。」

沈黙。

「でも、佐久間さんは怒らなかった。
ただ、黙って、俺の企画書を机の引き出しに仕舞った。それっきりでした……」

葛木は、その情景を想像するように視線を落とした。

「そのあと、独立された?」

「ええ。タイミング的には、そこから半年も経ってません。俺は、佐久間さんのもとで“完成される器”にはなれなかった。」

根岸は、グラスの水に手を伸ばした。

「でも、嫌いにはなれなかったんですよ。不思議と。憎しみとも違う。
ただ……近づくほど、遠くなる人だった。

「今も、彼のことを考えますか。」

「ええ。自分が“あの人の理想”を壊した一人だったのかもしれない、と思うこともあります。でも、俺は俺で、今、やれることをやってます、それだけです。」


《匿名掲示板まとめサイトより》 

『【議論】佐久間修の“信頼してた部下”って誰だったの?』

「根岸じゃね?」

「たしか独立後にちょっと揉めてた説あったよな。」

「まあでも、社長業継いでない時点でお察し。」

葛木はスマートフォンの画面を閉じ、ひとつ息を吐いた。

“信頼”や“理想”という言葉ほど、簡単に消費されるものはない。

だが──そこに、何かは確かにあった。


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