270.【小説】誰のせいでもない 6-ある刑事の記録-何故、佐久間修は死んだのか。
第五章 ユーチュバー·堂島サトル
《YouTube切り抜きチャンネル「サトル・トゥデイ」より》
『【真相】佐久間修は本当に善人だったのか? 闇と矛盾を暴く』
“世間が称賛する人間ほど、裏がある──。
死後に神格化された佐久間修について、業界関係者の証言やネットの噂をもとに、真実を読み解く!”
港区南青山の雑居ビルのワンフロア。
スタジオと編集部が併設されたその空間に、葛木は指定された午後の時間に現れた。
中は思った以上に整理されており、機材が整然と並び、壁には配信実績を示すグラフが貼られていた。
「どうも。堂島サトルです」
ジャケットの上にTシャツ、白スニーカーの男が笑顔で握手を求めてきた。
口調も態度もフランク。だが、その目はカメラを見るように、葛木を見ていた。
「で、佐久間さんの件ですけど。動画、見られました?」
「拝見しました」
「最近、ああいうのが伸びるんですよ。“称賛されてる人に疑問を投げる”って構造がね。再生数は、20万回いきました」
堂島はソファに腰を下ろしながら、当然のように続けた。
「俺自身は、別に嫌いじゃないですよ、佐久間さん。
でも、持ち上げられすぎてる人間って、絶対どこか歪みあるじゃないですか。そこを拾ってあげるのが、俺らの役割っていうか」
「あなたは、佐久間さんに会ったことは?」
「ないです。
関係者の証言と、記事、ネットの声を拾って構成してるだけです」
「直接会ったことも、話したことも?」
「ないですね。でも、それって重要ですか?
“会ってない”からこそ、逆に見える構造ってあるんですよ」
葛木は、何も返さなかった。
「ま、結構、稼がせてもらいましたよ。動画一本でスポンサーもついて、登録者も2万伸びた。
こう言っちゃなんだけど……死んでからの方が、数字出ましたね。ありがたかったです」
しばらく沈黙が続いた。
堂島はスマートフォンを確認しながら、笑顔を崩さずに言った。
「人の死って、語られれば語られるほど、価値が上がるんですよ。
で、語る人間が多ければ多いほど、それは“真実っぽく”なる」
「あなたにとって、佐久間修とは──何だったんですか。」
葛木が静かに問うた。
堂島は肩をすくめた。
「商品です」
葛木が席を立とうとしたとき、堂島がふとつぶやいた。
「……俺も、親父の死で少しバズったことあるんすよ。まあ、タイミングってやつですよね」
それは自嘲にも見えたが、表情は──やはり笑顔のままだった。
帰りの電車の中で、葛木はスマートフォンの画面を再び開いた。
《関連動画:佐久間修の嘘──メディアが語らない闇/21万回再生》 《コメント数:431件》
「サトルさん、よくぞ言ってくれた!」
「死んで神様扱いは気持ち悪い。もっとこういう切り口が必要。」
「結局、何やった人だったのか、よく分からんけどな。」
画面を閉じ、葛木は窓の外に目を向けた。 沈みゆく夕陽が、ビルの隙間に静かに落ちていく。
「語られることで、人は消えることもある」
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