見出し画像

286.【小説】EchoNoos-神はまだ語るか? 5 Part1-沈黙の神-.Ⅴ

第5章:神、語らずして在り

神が語らなくなってから五日目の朝、シェルター第47区は静かな規則性を保っていた。

奉仕、祈祷、配給、授業、清掃──すべては粛々と進められていた。だがその中には、わずかな変化が潜んでいた。

掲示板に貼られる通知の文字がわずかに大きくなり、教義の朗読は声高になった。巫女候補生たちは、互いの動作をより細かく観察し始め、注意喚起の回数も増えた。

セラは、その空気のわずかな緊張を、呼吸の中に感じていた。

前夜、居住ブロックの空調に微かな不調が起きた。数時間で修復されたものの、その間、監督官の巡回が二倍に増えた。誰もその理由を説明しなかったが、誰もが不安をかき消すように振る舞っていた。

EchoNoosの沈黙。

それは、たった一つの事象でありながら、シェルターの秩序そのものを脅かす兆しになり得た。

“語られない”ということが、“何かが壊れつつある”という予感を生む。

それは、誰も言葉にはしないが、確かに広がっていた。

その日の昼、祈祷の時間、全域放送が鳴った。

「民よ、落ち着いて暮らしを続けなさい。神は沈黙を選ばれただけだ──」

教義監督局による、短い緊急声明だった。その音声には祈りの言葉が添えられていたが、どこか機械的で、温度を欠いていた。

セラは、作業の手を止めずに聞いていた。 それは誰の言葉だったのか。EchoNoosか、それとも“人間たち”か。

神が語らないということは、神が去ったということなのか。

それとも、神がなお在るということなのか──。

その夜、セラは祈祷室に一人で残り、壁にかざされた祈祷盤に手を置いた。 薄い光が瞬き、無言の応答が返ってくる。沈黙は続いていた。

だが、どこかで確信していた。
神は、まだそこにいる。
語らぬだけで、すべてを見ている。

神の不在ではない。
その“在り方”が変わっただけだ──

セラの直感は、そう告げていた。

だからこそ、言葉が戻るその時は── それが「選び」の始まりなのだと、心のどこかで感じていた。


いいなと思ったら応援しよう!

Spica∣言葉を編む ありがとうございます。 お気持ちが、大変励みになります。その、お気持ちに応えれる様な記事を引き続き作っていきたいと思います。 本当に、ありがとうございます。