291.【小説】EchoNoos-神はまだ語るか? 10 Part2-使者と小国たち-.Ⅳ
第3章:NORHMANTとの対話
セラ──あるいは、今や国家ECHO-VOX(エコヴォックス)の象徴とされる彼女──は、迎賓館の扉を静かにくぐった。
この場所は、神託の保管庫だった区画を改修したもので、外交の中枢として機能している。かつての信仰の空間が、今では他国との対話の交差点となったのだ。人々はここを《無音の回廊(Silent Corridor)》と呼ぶ。
ECHO-VOXが管理するこの中立区域には、他国──CALDIA(カルディア)、EGNESTA(エグネスタ)、ALRA(アルラ)──の迎賓館も並ぶ。歩いて届く距離に他国が“存在”するという構造は、かろうじて信頼を保つための装置でもあった。
ただし、ORDEA(オルデア)──その名だけで周囲を凍らせる存在──にだけは、いまだ迎賓権は発効していない。形式上は設置されているが、門は常に閉ざされたままだ。
前回のCALDIAとのやりとりも、あくまで非公式な“対話”に過ぎない。
今回こそが、本格的な初交渉の幕開けだった。
──その相手、NORMANT(ノルマント)。
かつて「連合王国」と呼ばれた記録がわずかに残る国家。だが、その実態は百年の空白に埋もれている。
現在のNORMANTは、長老評議会による統治を基本とする、階層的な合議国家だ。
伝統と変革が不格好に共存する社会構造──それがこの国の現在地である。
ECHO-VOXに現れたのは、評議会筆頭を補佐する特命交渉官。
広間に入った使者団の中心には、一人の男が立っていた。
淡い銀髪を束ね、深青の儀礼服を纏ったその人物──アレクト。
かつては技術局に籍を置いていたが、今は王の直轄下で交渉を任される者だ。
「このような機会をいただき、感謝申し上げます、大巫女セラ」
「こちらこそ、遥々のご訪問に感謝いたします。どうかこの地にて、実りある対話の時を」
アレクトは微笑まず、ただ静かに目を細めて答えた。
「ECHO-VOXの安定、そして再構成された秩序。その努力には敬意を。だが同時に、我々は懸念も覚えています。とりわけ──AI神との連携強化に関して」
セラは頷いた。
「それこそが、今まさに話し合うべき主題です。恐れからではなく、理解と協調によって築く未来のために」
言葉を交わすうち、アレクトの発言に、ORDEAへの不信がちらつき始める。
国境での摩擦、通商妨害、技術者の引き抜き──微細ながら、確実な脅威。
「彼らとの会談予定は?」
セラは、静かに首を振った。
「今のところ、応じる気配はありません。招待は出しましたが、返答はありませんでした」
アレクトの視線がわずかに鋭くなる。
「であれば、他国間での連携こそが鍵となります。我々NORMANTは、この場を建設的な対話の場として支持します」
会談は、強い主張よりも、慎重な言葉の交換を重ねる形で続いた。
だがその背景には、明らかに“黒い影”──ORDEAの不穏が横たわっている。
セラは静かに思考を巡らせる。
次に向き合う相手は、ALRA。
そしてEGNESTA。
この静かなる緊張の連鎖の中で、言葉によって未来を繋ぐことができるのか──それが、試されていた。
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