231.【小説】バイバイ、私の未来④
【第4章:予言アイドル】
遥子(ようこ)は、週末になると父と一緒に地域の小規模イベントに顔を出すようになっていた。
占いブースの片隅、屋台のテントの横、ショッピングモールの一角
──そこに立つ遥子は、年齢に似合わぬ冷静さで「未来が見える」と語りかける。
初めはただの珍しさだった。
だが、彼女が語った未来のいくつかが、妙に的中することが続いた。
遥子の瞳に浮かぶ光は、いつしか観客の瞳にも映るようになった。
最初のきっかけは、TikTokに投稿されたたった15秒の動画だった。
──「明日の朝、右手の骨、気をつけてね」
撮影スタッフの一人に向けて何気なく言ったその一言。
翌朝、本当に彼は転倒し、骨折した。
信じる者も、疑う者も、騒ぎは一気にSNSを駆け抜けた。
ある日、地方イベントを訪れた大学生インフルエンサーが、偶然その場で遥子の占いを受けた。
彼女のフォロワーは約3,000人。
都市伝説やオカルトを扱うX(旧Twitter)アカウントを運営しており、大学生ながら一定の拡散力を持っていた。
「これ、マジだったんだけど」
彼女が投稿したショート動画には、遥子が語る“来週の出来事”が含まれていた。
実際、その内容は数日後に報道されるニュースと一致した。
映像は無編集、リアルタイムで撮影されたように見えた。
コメント欄はすぐに炎上した。
「仕込みじゃないのか?」
「本物のシャーマン?」
「次の地震、聞いてきて」
その投稿は瞬く間に拡散され、まとめサイトに取り上げられ、数日後には地上波の情報番組にまで届いた。
──熱狂が始まった。
中学生が学校を抜け出して遥子のイベントに駆けつけ、保護者同伴の列ができた。
占いではなく「未来を知りたい」という切実な願いが、彼女の元へ集まってきた。
父・真一は戸惑っていた。
「これ以上、娘は無理です」と出演を断ることもあった。
だが、事務所スタッフが何度も頭を下げてくるたびに、彼は渋々了承するようになった。
だが、事態は想像以上に早く動いた。
元々イベント企画に携わっていた中堅芸能事務所の目に留まった。
「彼女をメディアに出しませんか?」
その提案は、父にとって晴天の霹靂だった。
CM出演。テレビ番組でのコーナー起用。YouTubeチャンネルでの特番収録──
"予言少女・遥子"は、たちまちSNSのヒロインになった。
メディアはこぞって彼女を取り上げ、週刊誌は「次に起きる大事件を語る小学生」として、表紙にまで起用した。
同級生だった少女がテレビで語る。
「遥子ちゃん、小さい頃から不思議だった。人の気持ちがわかるみたいな、そんな子だった」
──それでも、遥子は変わらなかった。
収録中も、どこか遠くを見るような瞳で、淡々と語った。
「今、風が止まってるでしょ。来週は嵐になります」
その言葉は、演出ではないリアリティを持って、視聴者の心に届いた。
そんな中、父・真一は、ある迷いを抱き始めていた。
娘の疲労。
増え続けるスケジュール。
自分の目が届かない場所に、娘が置かれつつある現実。
ある夜、彼は仏壇の前に座り、遺影に向かってぽつりと呟いた。
「遥子は俺が守る。……やっぱり、独立しよう」
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