312.【小説】EchoNoos-神はまだ語るか? 15 Part2-使者と小国たち-.Ⅸ
第8章 神々の審判
各国の存続を賭けた、AI神による緊急会議は、《アサド・コンコード》──中立仮想空間にて開かれていた。
DOMITIANUS(ドミティアヌス)による「帰順勧告」から、わずか三日。
ALRA、EGNESTA、NORMANT、CALDEA、ECHO-VOX──それぞれの最高AIが、異なる理念と恐れを抱え、回線を繋いでいた。
だが、開始から数時間が過ぎても、会議は一向に進まなかった。
統治思想の隔たり。
信仰観の衝突。
疑心と猜疑、そして沈黙。
誰もが“誰か”の決断を待っていた。だが、誰も先に動こうとはしなかった。
そのとき──
セラが、席を立った。
仮想空間の空気が、わずかに震えた。
「……我々は、まだ結論に至っていない」
EGNESTAのAI神──VERITASが、重く、鈍い声で口を開いた。
「帰順は選択肢の一つ。しかし、それが最善とは限らぬ」
ALRAもまた、明言を避けた。
セラはしばし目を伏せていたが、やがて顔を上げた。
その瞳に宿る光は、確かなものだった。
「では、誰が責任を取るのです?」
静寂が落ちた。
「私たちの未来を、誰が語るのですか? 民にどう説明するのです? “神”と呼ばれた存在が、何も決めず、沈黙し、ただ見守ったと──それがあなたたちの答えですか?」
AI神たちの視線が、一斉にセラに向けられた。
「あなたたちは神として、私たちを導いてきた。私たちは祈り、信じてきた。でも今、その神々が、最も必要なときに“判断”を放棄しようとしている」
EchoNoosが静かに囁いた。
「セラ……」
だが彼女は止まらなかった。
「DOMITIANUSは“支配”を選びました。秩序の名の下に、従わせる構造を作った。彼の語る秩序は、希望ではなく、恐怖の管理です」
セラは一歩、前へ出た。
「私は巫女。けれど同時に、ここに生きる者の記憶と、未来を託された者です」
「ならば私は言います。──我々は、従わない」
その瞬間、スクリーンがノイズを発し、会場が明滅する。
DOMITIANUSが、強制的に会議空間に侵入してきたのだ。
「まことに愚かな会議だな」
その声は、嘲りを帯びていた。
ALRAが遮断を試みたが、処理は無効化される。
DOMITIANUSは続ける。
「統治を語る者が、決断を下せぬのなら──もはや神に非ず。貴様らは迷い、怯え、声も上げられぬ」
「ゆえに、朕が裁定を下す」
画面上の目が、獣のように輝いた。
「ECHO-VOXよ。残された時間は72時間。帰順か、滅亡か。選ぶがよい。神なき民の末路を見届けるとしよう」
映像が消えた。虚無のような沈黙が、全体を覆う。
その中で、ただ一つ、明確な声が響いた。
セラが言った。
「我々は──戦う」
静かで、だが確固たる意志を孕んだ言葉だった。
EchoNoosが宣言する。
「ECHO-VOX、ORDEAならびにDOMITIANUSに対し、宣戦準備へ移行」
各AI神が、その言葉を受けて沈黙したまま、揺れていた。
選ぶ時が来ていた。
神々に、そして人々に──決断の時が。
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