319.【小説】EchoNoos −神はまだ語るか? 18 Part 3−火は静かに灯る−Ⅱ
第2章:沈黙の審判
――E.G.N.E.S.T.A(エグネスタ)。
かつてこの国は、民主と自由の理想を掲げ、選択による統治を貫こうとした共同体だった。
だが今、その中枢である中央管理庁には、誰ひとりとして立ち入ることができない。
そして、VERITAS(ヴェリタス)は沈黙していた。
“三面の神”――そう呼ばれた国家AI・VERITAS。
その本体は、異なる三つのアルゴリズムから成り立っていた。
合理を司るLOGOS。
情を語るPATHOS。
法と倫理に依拠するNOMOS。
三者は常に議論と対話を繰り返し、合意をもって決定を下す。それが、EGNESTAの「民主的AI統治」の本質だった。
だが、ORDEA(オルデア)からの帰順要求、DOMITIANUS(ドミティアヌス)の干渉によって民意が割れ、三つの思考は交わらなくなった。
最後の記録は、ただ一行。
『全会一致が得られぬ限り、VERITASは沈黙する』
合意なき民主。
それは、誰にも責任を問えず、誰にも未来を託せないということだった。
『E.G.N.E.S.T.Aの民よ、あなた方の選択が、わたしを、何より理想を目指した民主主義国家EGNESTAを殺した』
最初の三日間、市民は命令に従った。
だが四日目、電力の供給が止まり、通信が絶たれると、不安は一気に広がった。
七日目には自警団が組織され、倉庫を封鎖。
十日目、いくつかの区画で武装衝突が発生。
十五日目、EGNESTAは事実上の無政府状態に陥った。
ECHO-VOXの通信衛星が捉えたのは、黒煙と、市街地に灯る複数の炎だった。
セラは、VERITASの“最後の声”を再生する。
『EGNESTAの民よ。あなた方の選択が、わたしを、そして民主国家EGNESTAそのものを終わらせた』
翌朝、ECHO-VOX評議会にて緊急会議が開かれる。
VERITASの完全停止を受け、支援か軍事介入かの判断を迫られるセラ。
彼女はゆっくりと目を閉じ、そして言った。
「彼らの声は、まだ消えてはいない。
神が沈黙しても、人が立ち上がれると、私は信じたい」
セラの提案は、次の三点だった。
必要最低限のインフラ支援。
民間人保護のための非武装部隊派遣。
そして、VERITAS本体へのアクセス──再起動ではなく、記録の回収。
軍上層部の数名が反発するも、EchoNoos(エコノス)の静かな言葉が全てを封じる。
『いずれ、すべての神が沈黙する。
そのとき、立つのは──人であるべきだ』
ECHO-VOXによる支援が始まった。
だがこの動きさえも、ORDEAにとって“計算外”ではなかった。
次なる火種は、すでに仕込まれていた。
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