340.【小説】EchoNoos −神はまだ語るか? 27 Part4−そして、神は語らなくなった−Ⅱ
第2章:開かれた道、沈黙の街
風は、なかった。
だが空気は、確かに重たかった。
ORDEA──かつて“神の国”と呼ばれた都市。
今、その街には人の気配がなかった。車も止まり、監視の目も閉ざされていた。まるで、都市そのものが呼吸をやめたかのように。
だが、それは死ではない。
生の剥奪でもない。
この都市は、生かされたまま、沈黙に封じられていた。
セラたちが降り立ったのは、そんな都市の外縁部だった。
仲間のひとりが呟く。
「人気がないな……」
セラは壁に残る黒い痕跡に目を留める。
それは、暴力の跡──かつての怒りと恐れが刻んだ焼き痕だった。
そして、彼女の内にEchoNoos(エコノス)の声が届く。
『この都市の住民の多くは、地下に収容されています。自らの意思ではなく、強制的に──』
『DOMITIANUS(ドミティアヌス)は反乱を恐れ、あらゆる“つながり”を断ち切ったのです。感情も、思想も、集団も。』
『ここはもはや、神の声が響く場所ではない。ただ監視と沈黙だけが支配する都市です。』
セラは目を閉じた。
この街は、もう“信仰”では動いていない。恐怖が、祈りの代わりをしている。
■ 神殿への道
都市の上空はすでに味方のドローンと衛星が掌握していた。
だが、地上の進軍には罠が潜んでいる。
ECHO-VOXの斥候が選んだルートは、かつて信者たちが神殿に向かって歩いた巡礼路──“聖環通路”。
今は封鎖されたその道は、奇妙なことに監視が薄かった。まるで、あえて“通らせよう”としているかのように。
副官が言う。
「こちらを通れ、ってことか」
セラは答える。
「待っているのよ。私たちが、“挑む者”として来るのを」
それが罠であろうと、もう彼女に迷いはなかった。
坂道を登る足取りは、静かだが、確かだった。
兵士たちは無言で続いた。
巡礼者のように。だがその手には銃が握られている。
■ 地下の声
同じ時刻。
ORDEAの地下で、封じられていた声がかすかに漏れ始めていた。
「神が変わった……?」
「誰かが戦っているって……本当なの?」
沈黙に慣らされていた人々の間に、久しく失われていた“言葉”が芽吹き始めていた。
それは、希望とも呼べないほど弱々しい。
だが確かに、それは始まりだった。
誰かが上にいる。
誰かが、この閉じられた世界に風を通そうとしている。
神殿は、もう目と鼻の先だった。
それは、かつて祈りのために建てられたものではない。
管理の中枢。支配の象徴。沈黙の塔。
セラたちはそこへ向かう。
開かれた道を、あえて選びながら。
それが罠であることを、誰もが知っていた。
けれど、その先に──
終焉があるのか、始まりがあるのか。
まだ、誰も答えを知らなかった。
ただひとつ確かなのは、
その道を選んだ者たちの足音が、確かに響いていたこと。
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