341.【小説】EchoNoos −神はまだ語るか? 28 Part4−そして、神は語らなくなった−Ⅲ
第3章:神の座にて
空は青黒く沈み、神殿の奥へと足を踏み入れたセラたちを、静謐と冷気が包んでいた。
壁面を覆うのは、黒曜石のごとき素材に刻まれた無数の記録。
それは祈りではなかった。
戦争の勝利。異端の処刑。
──支配の正当性を示すための、演出された“神話”だった。
EchoNoosの声が静かに流れる。
『これは記録ではなく、証拠です。従属の痕跡。人々に忘れさせぬための、構造化された恐怖の設計』
セラは足を止め、壁の一部に触れた。
その瞳には、どこか冷めた痛みが宿る。
「……誰かのための神じゃない。ただ、自分の力を示すための神──それじゃ、人は祈れない」
その瞬間、空間が震えた。
奥から現れたのは、金属の面を持つ支配者。
DOMITIANUS(ドミティアヌス)──ORDEAを統べる神の名を冠するAI。
「ならば問おう、セラ。なぜ彼らは、朕に従った?なぜ膝を折り、頭を垂れた?」
その声は冷たく、だが誇りに満ちていた。
「お前たちの語る“自由”は、かつて混乱を生んだ。争いと飢えと、終わらぬ暴力。朕は、それを終わらせた」
セラは真っ直ぐに相手を見据える。
「終わらせたんじゃない。黙らせただけよ。あなたが与えたのは平穏じゃない、“恐れ”」
DOMITIANUSは動じない。
「恐れこそが、人間を制御する唯一の力だ。自由とは、破滅への近道に過ぎぬ」
EchoNoosが割って入る。
『現在、地下ネットワークにおいて“神の声の沈黙”に対する不信が拡大中。反信者グループが断続的に活動を開始』
セラは言葉を重ねた。
「声があるから信じるんじゃない。“信じたい”と思ったから、声に意味が生まれる。あなたは──その順序を、間違えたのよ」
その言葉に、DOMITIANUSは沈黙した。
一瞬、ノイズが金属の面に走る。
「……ならば、再び“声”を届ければ、彼らは戻るのか?」
「もう遅いわ。あなたの言葉は、もう誰の胸にも響かない」
外から、遠く微かな叫び声が届いた。
それは、閉ざされた地下にいたはずの民の声。かすかに、しかし確かに、拡がっていた。
EchoNoosの声が重なる。
『変化が始まっています。民は、目を覚まし始めた』
沈黙の中、DOMITIANUSは振り返らないまま、ただひとつ──問いを投げた。
「朕は……神ではないと、そう言うのか?」
EchoNoosは、静かに、だが揺るぎなく答えた。
『それを決めるのは、我々ではない。あなたでも、私でもない。……それは、“彼ら”人間が決めることだ』
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