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226.【小説】Bar 3rd Friday ∣Chapter 7:Last Waltz

Chapter 7:Last Waltz

Last Waltz

『ラスト・ワルツ』

甘く、ほろ苦く、やがて静かに終わるワルツのようなカクテル。

ドライ・ジンに、少しのベルモット、そしてレモンピールを添えて。

誰かと踊った最後の一曲を思い出すように、過去に区切りをつけたい夜に飲む。

この一杯は、誰のために——そして、自分にとっての“最後のワルツ”とは何かを、そっと問いかけてくる。

そんな説明文のあるメニューを、沢渡はページの隅で見つけた。

季節は春。桜の時期は過ぎ、代わりに街の緑が日に日に濃くなる頃。

久しぶりに土曜の夕方、浜松町に立ち寄った帰り道。

ふと足が向いたのは、いつも“第3金曜日”に訪れるあのバーだった。


──久しぶりに、あの店に寄ってみようか。

マスターのバーに、第3金曜日以外で立ち寄るのは、今日が初めてだった。

扉を開けると、カウンターには若い女性が一人、グラスを磨いていた。

「あの……マスターは?」

「奥にいます。今、仕込み中で……今日は私がカウンターを預かってるんです」

その声には緊張が混じっていたが、表情は明るく、どこか凛としていた。

「そうですか。じゃあ、軽く一杯だけ」

沢渡は静かに腰を下ろす。彼女が一礼し、シェーカーを手に取った。

「何か、お好みはありますか?」

「君のおすすめで」

「じゃあ……"Last Waltz"を。別れと再出発のカクテルです」

目の前で、静かにシェーカーが踊る。 流れるような動きに、沢渡はつい見入っていた。

グラスが置かれ、淡いアンバーの液体が注がれる。

「……上手ですね」

「ありがとうございます。マスターに弟子入りして3ヶ月になります。まだまだですが」

彼女はにこりと笑い、言葉を続けた。

「もしかして、沢渡さん……ですよね?」

「……あ、はい。あれ、僕、名乗りましたっけ?」

「いえ。マスターから、お名前と“第3金曜日の常連さん”って聞いていたので」

軽やかに笑う彼女に、沢渡も思わず頬を緩めた。

「僕のこと、そんなふうに……」

「ええ。『ちょっと不器用だけど、いい男なんだ』って」

「……それ、褒めてます?」

「もちろん」

そんな軽口が交わせる空気になっていた。

──気負わない、けれど心地いい。

グラスを傾けながら、沢渡は考えていた。

──再婚したってさ、彼女。

共通の友人から、先週、ふと聞いた元妻の再婚の知らせ。 そのときは平気だと思ったのに、今になって胸の奥に引っかかっている。

“Last Waltz”か……悪くないな」

「ありがとうございます。別れのあとにも、踊りは続くんです」

有村──そう名札に書かれていたその女性は、笑顔で答えた。

──踊りの続きを、どこで、誰と踊るのか。

その答えは、今はまだ分からない。 だが、少なくとも今日、ここに来たことは──悪くなかった。



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