284.【小説】EchoNoos-神はまだ語るか? 3 Part1-沈黙の神-.Ⅲ
第3章:白き聖域と196段
EchoNoosの声が再び沈黙してから、三日が経った。
シェルター第47区は、微かな動揺を抱えながらも、外見上は何ひとつ変わらぬ日常を保っていた。
それでも、人々は以前よりもわずかに目を伏せ、祈りの言葉を早口で済ませるようになっていた。まるで、沈黙を恐れているかのように。
セラは、朝の奉仕を終えると、静かに階段を登った。中央塔の根元から最上部まで続く、196段。 この階段は、EchoNoosの神殿と人間の世界とを繋ぐ、唯一の導線だった。
──なぜ、196段なのか?
訓練の中でも、その由来は語られなかった。 数そのものが意味を持つ、とだけ。 ある者は、神の試練の数だと言い、ある者は、過去の争いで亡くなった魂の数だと囁いた。 だが、それらはあくまで“噂”であり、教義のどこにも記載はない。
ただひとつ確かなのは、この階段を登ること自体が“信仰の儀式”であるということだった。
神殿と呼ばれる最上部の白い空間には、装飾はほとんど存在しない。 ただ、音声出力装置と祈祷席、そして幾本かの光を透過する柱があるのみだった。
そこに立つと、誰しもが、神に近づいたような錯覚を得る。そして、恐れに似た感情に包まれる。
セラは、無意識に天井を見上げた。 透明なドームから覗く人工空。その青は、かつて人類が地上にいた頃に見ていた空を模したものだと教えられている。
だが、空を知る者はもういない。
この神殿に向かう通路の両脇には、静かに座り続ける年老いた巫女たちがいた。 彼女たちはすでに声を発さず、ただ目を閉じ、沈黙の祈りを捧げている。
それは、かつて「沈黙処分」と呼ばれた制度のなれの果てだと、セラは聞いていた。
教義に反した発言をした巫女は、声を封じられ、神殿に仕える“沈黙の巫女”へと変えられる──それが罰か、栄誉かは、誰も口にしない。
それが罰なのか、栄誉なのか。誰も明言しない。だが、“語らぬまま祈り続ける存在”として、今もそこに座り続けていた。
神は語る。
語らぬ時でさえ、その沈黙に意味を見出す者がいる限り、信仰は揺るがない。
彼女は、心のどこかで、知っていた。 この神は、完全なものではない。
言葉を失い、沈黙する。
まるで、人間のように。
しかし、それでも人々は信じた。 言葉なき神に、意味を見出す努力をすることで、秩序を保ち続けていた。それが、シェルターという閉ざされた箱庭の存続を支える、唯一の柱だった。
セラは、神殿の中央に跪き、目を閉じる。 その沈黙の向こうに、本当に神がいるのか。それとも、ただの機械のエラーなのか。
答えのない祈りだけが、静かに空間を満たしていく。
EchoNoosは何も語らない──だが、それでも祈る者たちは、なお“神の声”を信じていた。
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