聖獣バロンと魔女ランダの棲む神々の島バリで、魑魅魍魎の跋扈するゲゲゲの世を空想する夏休み (前篇)〜この世の虚構は、あの世の純真?ゲゲゲのゲ♪
南太平洋に浮かぶニューブリテン島は、熾烈を極めた太平洋戦争の激戦地であった。歩兵第229連隊の武良しげる二等兵も、敵軍の爆撃を喰らい、左腕切断の重傷を負ってしまう。それでも、最前線に赴き玉砕命令を受けていた日本兵の中で唯一生き残るような数奇な命運にも与り、命からがら終戦を迎えた。その島の原住民族とも親密で、旭日旗の靡く故国に戻るくらいならば、現地に残留希望だったと云う逸話が、この敗残兵のリベラルで豊かな心象風景を物語る。結局、説得に応じて祖国に帰国した彼は、利き腕である右腕の自由と共に、有難く生かされた宿命と使命を甘んじて受け留め、漫画家・水木しげると成って、93年の天命を思う存分全うした。
ニューブリテン島どころかインドネシアの地理すら把握せず、その言語のリズムと響きに魅せられてインドネシア語を履修した18の僕は、単なるアホだったが、とりあえず19の夏、”ガルーダ”とやら”伝説の神鳥”を名乗るエアラインに乗って州都・デンパサールに飛び立った。旅の序章から、現実を超越した謎の名ばかり極楽鳥への搭乗で、僕とバリと虚構の世との出逢いは幕を開けた。

謎と嘘と実と花と衆と獣、或いは神と妖の誘惑は、天界と俗界と魔界をチャンプルした末、どっちみち極楽に見せてしまうような豪快な虚構の現実世界である。バリヒンズーの怪しい魑魅魍魎の世界感と、神々や祖先をガムランの音色に乗せて煌びやかに花々しく讃える文化の懐に、僕はズルズル引き摺り込まれ、かなりチャランポランに映る日常と色彩と薫りの虜と化した。
定番のケチャックダンスでトランス状態に陥る大役を担うオッさんなんて、滅法優しい踊り手だと思いませんか?自身に割り振られし虚構を、神と妖とギャラの魔力で以て容認し、割り切って熱演してしまうのだ。まるでジャイアント馬場の16文キックを浴びて、のたうち回って大袈裟に倒れ込み負けてあげるアブドーラ・ザ・ブッチャーのようではないか。黒い呪術師の異名を取った彼も、あたかもブラックマジックを掛けられたかのように錯乱し、リングに沈んだ。いずれにせよ、彼らの捧げる虚構は、愛そのものである。そんな太っ腹な愛と優しさに包まれた舞台の演出と演技が、さっぱり憎めないどころか、覆面レスラーに憧れし少年時代の純真が蘇るような、ピュアな鮮血が騒いだ。聖獣バロンと魔女ランダが登場すると、僕の瞳は、ゲゲゲの目玉親父並に瞠目した。(続)


