「残しただけでは、資産にならない。」
― AIが、会社の記憶を“使える知識”に変え始めた。―
町工場とAIの伴走記録⑤
会社に残したデータって、
本当に「資産」なんでしょうか?
紙の日報をファイルに残す。
Excelに記録する。
Google Driveに資料を保存する。
確かに、会社には情報が残っています。
でも最近、私は思うようになりました。
「必要な時に取り出せない情報は、
本当に“資産”と呼べるんだろうか?」
今回は、そんな話です。
■ 前回、
「働くことは会社の知識資産になる」と書きました
前回の記事で、私はこんなことを書きました。
「働くことは、会社の知識資産になる。」
町工場では毎日、
本当にたくさんの経験が生まれています。
「このやり方の方が早かった」
「この製品では、ここに気をつけた方がいい」
「今日こんな不具合があった」
「こうやったら改善できた」
「お客様からこんな連絡があった」
ところが、その多くは人の頭の中にあります。
だから私は、
仕事をする
↓
話す
↓
AIが整理する
↓
会社の知識として残す
という仕組みを
作りたいと考えるようになりました。
でも、実際に進めてみて気づきました。
もう一つ、大切なことが抜けていたんです。
「残しただけでは、まだ資産にならない。」
■ 「伝わらない」
を減らすために、2つのAIを作りました
今、マルゼン工業では、
ChatGPTを使った2つの仕組みを試しています。
一つが、現場で働く人たちが使う
「伝わるくん」
もう一つが、経営者である私が使う
「伝えるくん」です。
伝わるくんは、
社員がその日に起きた出来事や、
報告・連絡・相談したいことを
AIと一緒に整理する仕組みです。
文章を書くのが得意でなくても大丈夫。
まずは自分の言葉で話す。
「今日こんなことがありました」
そこからAIが、
「いつ起きましたか?」
「どの品番ですか?」
「何個ありましたか?」
「今はどんな対応をしていますか?」
と、足りない情報を確認してくれる。
質問に答えていくうちに、
報告として必要な情報が整理されていきます。
文章を作るAIではなく、
「伝わる」まで一緒に伴走してくれるAI。
それが、伝わるくんです。
■ 外国人スタッフも、
自分の言葉で報告できる
そして今回、実際に使い始めて、
「これは大きいかもしれない」
と思ったことがあります。
うちの会社には、外国人スタッフも働いています。
当然、母国語も違います。
今までは、日本の会社で働く以上、
「日本語でうまく伝えなければいけない」
という壁がありました。
でも、AIを間に入れると、
この前提を変えられるかもしれません。
自分が一番話しやすい言葉で、まずAIに話す。
AIと一緒に内容を整理する。
そして最後に、
会社のみんなが読める日本語の報告書にする。
これなら、
「日本語が得意ではない」
ことと、
「仕事の内容をきちんと伝えられない」
ことを、分けて考えられます。
これは私がずっと考えている、
「伝わらないをゼロにする。」
というテーマにもつながっていました。
■ でも、本当に変わったのはここからでした
最初の頃は、
ChatGPTの中で報告書が完成しただけでも、
「これは便利だな」
と思っていました。
ところが、そこには大きな問題がありました。
ChatGPTの中だけで終わっていたんです。
良い報告書ができても、
それだけでは会社の知識として
十分に活用できません。
そこで今回、その報告をGoogleドキュメントとして会社側へ保存するところまで進めました。
ここで、私の中では一気に景色が変わりました。
■ AIが、会社の記憶を整理してくれる
Googleドキュメントとして会社に残れば、
次のAIにつなげられます。
保存された報告をAIが確認し、
必要な場所へ整理していく。
例えば、人ごとに整理すれば、
「この人は今月、どんな仕事をしてきたんだろう?」
という履歴を見ることができます。
さらに、品番を軸に探せば、
「この品番を、誰が、どのくらいの時間をかけて、何個作ったのか?」
という情報にもつなげていける。
品質情報が積み上がれば、
「以前、この品番で似たような不具合はなかった?」
という質問もできるようになるかもしれません。
今までは、
人が覚えている。
紙を探す。
フォルダを開く。
誰かに聞く。
という方法で探していた会社の経験を、
AIに聞けば、
必要な情報を探して目の前に出してもらえる。
ここまで来て、ようやく私は気づきました。
■ 保存することが、DXじゃなかった。
紙をデジタルにする。
Google Driveへ保存する。
それだけでも、もちろん前進です。
でも、本当にやりたかったのは、
「保存することではなく、もう一度使うこと。」
だったんです。
昨日の仕事が、
今日の誰かを助ける。
今日の失敗が、
明日の改善につながる。
ベテラン社員の経験が、
新人社員の学びになる。
一人の気づきが、
会社全体の知識になる。
そのためにAIを使う。
これが、
私が目指していたDXだったのかもしれません。
■ 「報告書」が、次の仕事の材料になる
これまで報告書というと、
「書いて提出するもの」
という感覚がありました。
上司が読む。
確認する。
ファイルへ入れる。
終わり。
でも、AIが使えるようになると、
意味が変わります。
報告書は、
「次の改善を生み出すためのデータ」
になります。
だから、報告すること自体が仕事なのではない。
大切なのは、
「その報告を使って、次に何を改善するか。」
私は、人にしかできない時間を、もっとそこに使いたい。
同じ説明を何度もする時間。
過去の資料を探す時間。
報告書をきれいに書く時間。
そういう時間を少しずつAIに任せて、
人は、
「じゃあ次はどうする?」
を考える。
そんな会社にしていきたいと思っています。
■ Work to Value
前回、
「働くことは、会社の知識資産になる。」
と書きました。
今回、その意味がもう一段深くなりました。
残すだけでは、まだ本当の資産ではない。
必要な時に、
必要な人が、
必要な知識を取り出して、
次の仕事に使える。
そこまでできて初めて、
会社の経験は本当の意味で「資産」になるのかもしれません。
人が働く。
人が話す。
AIが整理する。
会社に残る。
そしてAIが、その中から必要な知識をもう一度見つけてくれる。
その知識を使って、人が考える。
改善する。
また新しい経験が生まれる。
そして、それも会社に残っていく。
この循環を作りたい。
Work to Value
― 働くことを、価値に変える。―
そして、
「伝わらないをゼロにする。」
まだ「伝わるくん」も「伝えるくん」も完成ではありません。
専用アプリにもなっていません。
今あるAIやGoogleの仕組みを組み合わせながら、町工場の現場で一つずつ試している途中です。
でも、
「働けば働くほど、会社の知識資産が増えていく会社」
は、少しずつ現実になり始めました。
完成してから報告するのではなく、
その途中も含めて、これからもこの「町工場とAIの伴走記録」に残していこうと思います。
次は、この仕組みで実際に集まった報告を、
「必要な人に、必要な情報としてどう届けるか」。
そんなところも書いてみたいと思います。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
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