【2/27】注目の海外スタートアップの資金調達5選
近年、テクノロジーを活用したスタートアップへの大型投資ニュースが相次いでいます。特にAI(人工知能)やSaaS(クラウド型ソフトウェア)、フィンテック、ヘルスケアといった領域では、業界をリードする新進企業が次々と登場し、大幅な資金調達に成功しています。本記事では、そうしたトレンドを象徴する5つの事例を取り上げ、それぞれの特徴と背景をわかりやすく解説します。具体的な引用や事例を交えながら、スタートアップが今後どのように業界を牽引していくのか、あるいは社会課題を解決していくのかについて探っていきます。
1. スイスのAIスタートアップ「Unique」、シリーズAで3,000万ドルを調達
1-1. 「エージェンティックAI」とは何か
ニュースによると、スイスのAIプラットフォーム「Unique」が、シリーズAで3,000万ドルの資金を調達しました。同社は「エージェンティックAI(agentic AI)」の波に乗り、金融サービス領域に特化した自動化ソリューションを提供しています。
そもそも「エージェンティックAI」とは何を指すのでしょうか。一般的なチャットボット機能を超えて、「意思決定や多様な業務をこなせるエージェント機能を持つAI」というのが特徴です。たとえば、「オンラインショッピングの代行から、経費精算の処理、工場の効率化など幅広いタスクを遂行し、判断を下す」ところまで担うとされています。
1-2. 金融セクターへの応用
UniqueのCEOであるManuel Grenacher氏をはじめ、CCOのMichelle Heppler氏、CTOのAndreas Hauri氏らが2021年にチューリッヒで創業した同社は、銀行や保険、プライベートエクイティといった金融業界向けに「エージェントを使った業務効率化」を支援しています。具体的には、調査業務やコンプライアンス、KYC(Know Your Customer)プロセスなどを自動化し、コストやリソースの削減を狙っています。
Uniqueが用意するAIエージェントの一例に「投資リサーチエージェント」があります。これは社内外のデータを参照し、自然言語での問い合わせに回答を行うものです。たとえば、プライベートバンクや投資銀行のアナリストが利用すれば、膨大な情報を瞬時に要約しレポートすることが可能です。また「デューデリジェンスエージェント」も用意されており、会議記録などの文書を分析し、過去の評価と比較して「追加で聞くべきポイント」を提案する機能も備えています。
1-3. 今後の展開とスイス金融界との連携
Uniqueは当初、営業チーム向けのAIビデオソリューションに特化していましたが、ニーズの変化に合わせて「金融チーム向けのコパイロット」へと進化。2023年にはスイスのプライベートナショナルバンクであるPictetとのサービス運用を開始するとともに、Pictet自身からも出資を受けています。ほかにもUBPやGraubündner Kantonalbankといった大手金融機関が導入を決定済みとのことです。
今回の3,000万ドルの調達によって、Uniqueは米国への進出を加速させる計画で、合計調達額は5,300万ドルに到達しました。「決断力を持ったAIエージェント」の動きがますます活発化しそうな気配です。
2. アジア式モデルでヨーロッパの配送改革に挑む「Relay」、3,500万ドルを確保
2-1. 従来の「固定ルート配送」の課題
続いては、ヨーロッパのデリバリースタートアップ「Relay」がシリーズAで3,500万ドルを調達したニュースです。アジアでは、急速に発展したeコマースを背景に、いわゆる「Uberのような配送モデル」が定着しつつあります。一方、欧米では、多くの宅配会社が依然として「空港近くの大規模拠点から日次固定ルートで宅配」を行う方式を採用しており、非効率やコスト高、さらに環境負荷が大きい問題点が指摘されてきました。
2-2. 「フードデリバリー型」アプローチ
Relayは、この状況を打破すべく、「フードデリバリーアプリのように、荷物と配達員をマッチング」し、必要に応じてミニデポ(地域の小売店など)を活用するアジア式のモデルを導入しています。大きなトラックを使わず、eバイクなど環境にやさしい方法で効率的に配達・返却を同時に処理することで、配送コストとカーボンフットプリントの削減を狙っています。
同社のCEO Jonathan Jenssen氏はインタビューで、「静止画による配送証明写真の代わりにコンピュータビジョン技術を導入し、誤配リスクや請求トラブルを82%減らした」と語っています。たとえば、「ゴミ箱の上に置かれていないか」、「ポーチに放置されていないか」をAIが確認し、配達員へフィードバックするという仕組みです。
2-3. 環境と効率へのインパクト
配達の最終区間(ラストマイル)における効率化は、CO2排出量削減につながるだけでなく、消費者の満足度向上にも寄与します。Relayはすでに「Vinted」、「TikTok」、「Temu」などの有名プラットフォームや、英国の小売企業と提携しており、複数の都市(ロンドン、マンチェスターなど)へ拡大中です。
市場調査によれば、2023年に1,610億個に上る世界の小包取扱数は2030年に2,240億個を超える見込みです。その成長を見据えたRelayは、今回の資金調達によってさらなる拡大とAIの導入を強化し、環境にも配慮した新しい宅配スタイルを広めようとしています。
3. 女性投資家の支援を得た「Millie」、1,200万ドルを調達し産科医療に革新
3-1. 創業者の出産体験がきっかけ
カリフォルニアを拠点とする産科クリニック「Millie」は、このたびシリーズAで1,200万ドルを調達しました。出資者にはRH Capital、TMV、そしてMelinda French Gates氏率いるPivotal Venturesが名を連ね、いずれも女性主導の投資ファンドです。
Millieの創業者Anu Sharma氏は2019年に自身の娘を出産した際、医療スタッフが見落としかねない症状を自らが医者の子として気づいたという経験をしました。その苦労をもとに「自分が欲しかった出産環境を実現しよう」と2022年に立ち上げたのがMillieです。
3-2. ハイブリッド型の医療サービス
同クリニックは、産科医療や婦人科診療はもちろん、産後のコーチング、メンタルヘルスケア、栄養カウンセリングといった幅広いサポートを提供。大手保険会社とも提携し、対面とオンライン両方でのケアを行っています。特筆すべきは、「専用のテックプラットフォーム」により、リモートモニタリングやバーチャル診療をシームレスに行える点です。
Sharma氏は、「弊社の強みは、クリニックでの対面診療とバーチャルケアを組み合わせ、さらに独自アプリやAIを活用したワークフロー最適化を行っているところにある」と強調しています。医師や助産師の専門性にテクノロジーを掛け合わせることで、妊娠初期から産後に至るまで、女性が必要とするケアを総合的に提供しているわけです。
3-3. 今後の拡大と意義
調達した資金は、カリフォルニア州における物理的クリニックの拡張やテクノロジーサービスの高度化に使われる見込みです。また、提携する保険・医療パートナーをさらに広げ、多くの女性が「より安全で安心な出産体験」を享受できるようにする計画だとのこと。
出資元がすべて女性主導のファンドであることからも、「女性が課題を感じている社会問題を、女性自身の視点で解決する」という意義が強調されています。産科医療という分野でのデジタルヘルス活用は、今後さらに注目を集めることでしょう。
4. ブラジルのSaaSスタートアップ「Capim」、2,670万ドルを調達
4-1. 歯科クリニック向けBNPLサービス
南米ブラジルのSaaS企業「Capim」は、歯科サービスにおける「後払い(Buy Now, Pay Later: BNPL)」を可能にするスタートアップです。シリーズAで2,670万ドルの資金を確保したと発表しました。
共同CEOであるMarcelo Lutz氏とRoberto Biselli氏は、INSEADのMBA課程で出会い、卒業後の2021年にサンパウロでCapimを立ち上げました。同社は当初から「歯科市場に特化した垂直SaaS」として、クリニックの管理をクラウドで行うシステムを提供。その一環として、患者が歯科治療費を36回までの長期分割払いにできるBNPL機能を導入しています。
4-2. 競合サービスとの違い
ブラジルでは、クレジットカード払い(かつ6~12回程度の分割)が一般的です。しかし、CapimのBNPLは、「上限36回の柔軟な支払い」を可能にし、さらに利率も銀行やカード会社より50%ほど低く設定されています。Biselli氏は、「カードの限度額に余裕がない患者でも、治療を受けやすくなる」と説明します。
また、CapimのSaaSには、「オンラインでの予約管理」や「会計の自動化」といった機能が統合されており、患者にもクリニックにもメリットが大きいとされています。実際、同社のデータでは利用クリニックが増収していると報告されており、2024年の売上は3倍に成長、現在までに6,000の歯科クリニックを顧客として獲得しています。
4-3. 今後の展開とAI活用
調達した資金は、POS端末の提供など新しい金融サービスや、AIを活用したクリニック業務効率化機能の拡充に充てられる見込みです。Capimが導入しようとしているPOS端末は、一般的なクレジット/デビットカードに加えて、ブラジルの即時決済システム「PIX」にも対応し、「クリニックのMDR(加盟店手数料)を大幅に削減」する可能性があります。
「誰もが必要な歯科ケアを受けられるように」という社会的意義を持つサービスとして、Capimは既に6万人以上のブラジル人に治療機会を提供してきました。投資家からも将来性を評価されており、さらなる拡大が期待されています。
5. 複数アプリを統合するECスイート「Shop Circle」、6,000万ドルを調達
5-1. コマースアプリの一元化
最後に紹介する「Shop Circle」は、eコマースの運営に必要な複数の機能を統合的に提供するSaaSスタートアップです。今回、Nextalia Venturesのリードにより6,000万ドルのシリーズB資金を獲得したと発表。あわせて「AIによるガイド付き販売」を提供するAidenを買収したことも明らかにしました。
Shop CircleのCEO兼共同創業者Luca Cartechini氏によれば、パンデミック以降に多くの事業者がECへ移行した一方で、「在庫管理、レビュー管理、プロダクトディスカバリーなどの機能をそれぞれ異なるアプリで運用」するケースが急増。その煩雑さとコストを改善するため、Shop Circleは自社開発や買収を通じて、さまざまな機能を「ひとつの統合プラットフォーム」にまとめ上げています。
5-2. Shopifyとの連携とAIの活用
Shop Circleの特徴のひとつが、Shopifyとの深い統合です。「Shopifyアプリストアで最大級のソリューション提供企業」でもあるという同社は、アップセルや在庫管理のAI機能などをワンストップで提供し、利用者のビジネス成長をサポートします。
Cartechini氏は、「カテゴリーごとにはいくつも競合がいるが、すべての機能をひとつのプラットフォームで提供できるのはShop Circleだけ」と語っています。今回のAiden買収でAI関連機能をさらに強化し、導入企業が顧客の閲覧傾向や購入履歴などを分析して最適な商品を提示する、といった機能も強化される見込みです。
5-3. 新たな資金調達と今後の展望
今回のシリーズBラウンドには、Endeavor Catalyst、既存投資家のNFX、QED Investors、645 Ventures、3VC、i80 Groupなども参加しました。Shop Circleは、2023年に1億2,000万ドルの調達を発表しており、利益を出し続ける安定した経営基盤を武器にさらなる成長を見込んでいます。
EC市場の拡大に伴い、多数のツールを使い分ける複雑さは今後も課題となるでしょう。その解決策として、Shop Circleのような「統合プラットフォーム型SaaS」の需要はますます高まっていくと考えられます。
以上の5つの事例は、業界や地域は異なるものの、AIやデジタル技術を駆使して既存のビジネスモデルを刷新するという共通点があります。金融、物流、ヘルスケア、ECといった多岐にわたる分野で、スタートアップが大きな役割を担いつつあることを示す好例といえるでしょう。今後もこうした革新的なサービスが、新たな資金を糧にどのような進化を遂げるのか注目していきたいところです。
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