地政学リスクと供給過剰で揺れるコモディティ市場―金・銅上昇、原油調整の行方
グローバルな地政学リスクや貿易政策、経済成長の鈍化が、金・原油をはじめとするコモディティ市場に大きな変動をもたらしています。本稿では、Goldman Sachsの「Exchanges」シリーズから、グローバル・コモディティ調査の共同責任者であるDan Stroivin氏のインタビューをもとに、市場の動向と今後の見通しを整理します。地域紛争や米中関係、気候変動要因など多様なファクターが交錯する中、投資家・事業関係者が押さえておきたいポイントを具体例や発言を交えて解説します。
1. 中東情勢下の原油市場の現状
1-1. 地政学リスクと価格の急騰・急落
中東衝突に伴い、地政学的リスクプレミアムは、一時15ドル/バレル超に跳ね上がりましたが、24時間後には、数ドルにまで低下しました。Dan氏は、「オイルトレーダーは繰り返し大きな地政学ショックを経験するも、流通が止まらないケースを目の当たりにしてきた」と述べています。実際、イランの対応は限定的で、米国・カタールへの事前通知もあり、市場の過度な悲観を抑制しました。
1-2. 供給増加の構造的要因
原油価格の下押し要因として、以下の二つの供給拡大が挙げられます。
OPECプラスの減産解除
自主的な協定を段階的に解除し、需要に応じた供給増を実現。非米国シェール国の急速な増産
ブラジル、ガイアナ、ノルウェー、カザフスタンなどが、8月以降で約100万バレル/日の生産増を達成。Dan氏は「グローバル供給は今年、需要の約4倍のペースで増加すると見込まれている」と強調しています。
これらの動きにより、ベースケースで原油価格が今後1年でさらに10ドル程度下落する見通しが裏付けられました。
2. 需要の低調と変容
2-1. 電動化と省エネの進展
かつてはGDP成長率が石油需要成長率を約1.5ポイント上回っていましたが、現在では、約2.5ポイントに拡大。中国では電気自動車(EV)やLNGトラックの普及が急速に進み、ガソリン・軽油の需要伸びがピークアウトしています。
2-2. 気候変動関連の一時的需要
2025年夏の米欧中の猛暑は冷房需要を押し上げる一方、以下の市場リスクを顕在化させました。
発電所・精油施設の稼働不安
米国PJM市場などでの停電リスク
冷房用燃料油(Fuel Oil)の一時需要増
Dan氏は、「夏季の電力市場は既にひっ迫しており、価格スパイクや停電のリスクが無視できない」と指摘しています。
3. 工業金属市場の潮流
3-1. 銅市場:貿易摩擦と在庫逼迫
米国の銅輸入に最大25%の関税が検討され、Steel・Aluminumに続くメタル制裁が進行。期限前の輸送急増により、中国・その他地域の在庫は消費10日分程度まで低下し、供給逼迫が価格を押し上げています。
3-2. 防衛支出拡大とニッケル需要
NATO加盟国の防衛費増により、米国の銅需要の約5%、ニッケル需要の13%が軍需関連と報告。Dan氏は「産業用メタルはエネルギーよりもメタ・トレンドの恩恵を最も受ける」と述べ、ニッケルの構造的需要拡大に注目しています。
4. 金市場:中央銀行による買い支え
4-1. 中央銀行の買い越し傾向
22年以降、ロシア中銀の準備資産凍結を契機に中央銀行の金買い越しは5倍に拡大。70行以上を対象とした調査では、保有削減を示唆した銀行は皆無でした。「金は、ドル外資産の主要な選択肢として定着しつつある」とDan氏は分析します。
4-2. 個人投資家の参入余地
金市場は、米主要資産(S&P 500や米債市場)の100~200分の1程度の規模にとどまるため、わずかな資金シフトで価格に大きなインパクトを与え得ます。ドル安・金利低下環境下、プライベートマネーの金への分散投資拡大が次の価格上昇局面を生む可能性があります。
5. 今後の見通しと投資戦略
総合的に見ると、以下の相対的パフォーマンスが予想されます。
金(Gold):中央銀行需要やリスクヘッジ需要を背景に、約20%の上昇余地。
銅(Copper):関税リスクと供給逼迫による上振れ圧力。
原油(Oil):強い供給増が需要を大幅に上回り、価格下落リスクが優勢。
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