【5/6】エンタープライズAIは誰の手に?IBMの再浮上とPalantirの試練
近年、企業のAI活用はもはやトレンドではなく、生き残りを賭けた必須戦略となっている。2025年5月のBloomberg Technology番組では、IBMのCEOアービンド・クリシュナ氏が登壇し、「エンタープライズAIの簡素化とスケール化」を掲げる一方で、Palantir Technologiesは四半期決算で売上予測を引き上げたにもかかわらず、株価は期待に届かず急落した。本記事では、これら2社の最新動向を中心に、米国政府の経済政策やその他ビッグテック企業の市場反応も含めて、専門的視点から解説する。
1. IBMの企業AI戦略
1-1. Think Conferenceでの発言
IBMは自社年次イベント「Think Conference」において、今後3年間で「10億もの新規AIアプリケーション」が生まれるとの市場予測を紹介しつつ、顧客自身のデータをモデルに最大限活用する重要性を説いた。クリシュナ氏は冒頭で、「なぜ顧客が自社データを保存し、それをモデルに活用しない手はないのか」と強調し(「…why not make it easier for customers leverage their own data, conserve their own data to the models and then leverage it to make the enterprise a lot more productive.」)、150以上の新エージェント機能を発表した。
1-2. ハイブリッドクラウドとスケールの両立
IBMの戦略の核は、ハイブリッドクラウド環境下でのAI活用をいかに「断片化(fragmentation)」から解放し、統合的にスケールさせるかにある。クリシュナ氏は、「実験だけで終わらせず、25%の成功事例から学び、残り75%の障壁を除去せよ」と述べ、実証済みプロジェクトの横展開を強く訴えた。さらに、政府機関向け事業についても、いわゆる「DOD」「GSA」といった契約を安定稼働中としつつ、労働力の増強や裁量的支出領域は厳しくチェックされると見通しを語った。
2. Palantirの業績と株価動向
2-1. 売上予測の引き上げと株価の乖離
Palantirは「前年比36%増」の売上成長予測を提示し、年間売上900百万ドル超・顧客数800社未満という高収益モデルをアピールした。しかし、投資家の期待値に対して市場評価は厳しく、発表直後に株価は12%超の下落を記録した。アナリストは「成長性は確かだが、評価倍率(バリュエーション)が過熱している」と指摘し、実際にマルチプルは2026年予想売上の56倍にも達していると言われる。
2-2. 小売投資家と機関投資家の反応
興味深いのは、Palantir株を巡る「小売(リテール)投資家の熱狂」と「機関投資家の慎重姿勢」の二極化だ。あるインフルエンサーは「リテール勢は“買い場”と見てディップ買いを継続しており、4月単月で400億ドル超のネットフローを記録した」と報告する一方、ヘッジファンドはマグ7銘柄のショートポジションを2022年水準にまで高めている。このギャップが「短期的ボラティリティ」の増大要因となっている。
3. 米国経済をめぐる政府の動き
3-1. FRBの政策スタンス
放送時点で市場は翌日のFRB会合を控え、「据え置きが本命だが、タカ派寄りのコメントが出るか注視」と分析していた。Bloomberg Intelligenceは「消費者物価が高止まりしており、FRBがすぐに緩和姿勢に転じる可能性は低い」と予測している。
3-2. 歳出削減と貿易協議
一方、財務省のスコット・ベッセント長官は議会証言で「IRSの効率化として20億ドル超を削減したが、サービスに影響はない」と説明しつつ、中国との貿易交渉に関しては「主要15か国のうち80~90%と年内に枠組み合意を目指す」とのタイムラインを示した。政府支出が抑制される一方、そこから生まれる“再投資機会”がテクノロジー企業にどのように波及するかは、引き続き注目される。
4. その他の市場動向
4-1. テスラの欧州市場
テスラはモデルYの中国・欧州生産切り替えの影響で、スウェーデンで81%、英国で62%の販売減を記録。欧州のEV普及率は地域によって温度差が大きく、ノルウェーなど好調な国もあるが、主要市場ではまだ課題が多い。
4-2. Ares ManagementやDoorDashの動き
プライベートクレジットで高リターンを維持するAres Managementは、社債販売やディストレスト資産への投資機会を強調。DoorDashはDeliverooとSevenRoomsの多額買収を通じ、国際・B2B領域への拡大を加速している。
IBMはハイブリッドクラウドを軸にAI活用のユースケースを構造化し、Palantirは高成長をアピールしつつもバリュエーションの調整局面に直面している。米国政府の金融政策や貿易交渉の行方がビッグテックの投資判断に影響を与える中、投資家は「実証済みプロジェクトのスケーラビリティ」と「適正な評価倍率」のバランスを見極める必要がある。今後も、エンタープライズAI市場の拡大とともに、各社の戦略的ポジショニングが明暗を分けるだろう。
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