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400億ドルVCファンドがTikTokクリエイターを採用した理由——Lightspeed × Zoey Talks

2026年、大手ベンチャーキャピタル(VC)のLightspeed Venture Partnersが異例の採用を行った。投資家としてのキャリアを持ちながら、TikTokとInstagramで35万人以上のフォロワーを持つクリエイター、クレア・ゾウ(Zoey Talks)をパートナーとして迎えたのだ。

「投資家兼メディア担当」という前例のないポジションは、なぜ誕生したのか。そして、これはVC業界にとってどんな意味を持つのか。ポッドキャスト「Sorcery」でのインタビューをもとに、その全貌を整理する。


1. Zoey Talksとは何者か


1-1. VCの「翻訳者」として登場

クレア・ゾウは、6年前にVCアソシエイトとしてキャリアをスタートした投資家だ。以前のファームではSubstackを通じて約1万5,000人の読者を持つニュースレターを運営していたが、より広い層へのリーチを模索していた。

そのきっかけは、身近な人々との会話だった。「友人や家族、大学生の弟と話すたびに、自分がVCの仕事を通じて得ている未来の窓が、外の世界に全く届いていないと感じていた」と彼女は語る。

1-2. TikTok投稿1年で35万フォロワーへ

2025年3月にTikTokへの投稿を開始し、同年6月にInstagramも開始。当初の目標は「1万〜2万人に届けば十分」というものだった。しかし、現在は全プラットフォーム合計で35万人以上のフォロワーを持ち、月間インプレッションは1,000万回以上に達している。

「最初はただのインターネット上のサイドクエストだと思っていた」と彼女は振り返る。その規模の大きさが現実として感じられるようになったのは、Vanta、Perplexity、Metaといった企業からスポンサーシップの打診が届くようになってからだという。

1-3. コンテンツの中身

特に反響が大きいのは、「Hot Starter Rounds」というシリーズで、注目のスタートアップ資金調達ラウンドを週に2〜3件紹介するフォーマットだ。「どこに資金が流れているかを知りたいという需要は、思った以上に大きかった。TechCrunchやCrunchbaseのような情報源は、我々には当たり前でも、一般の人には全く見えていない」と彼女は指摘する。

他にも、テクノロジーニュースを「これは何か、なぜ重要か、世界はどう動くか」という視点で解説するコンテンツを継続的に投稿している。

2. LightspeedがZoey Talksを採用した理由


2-1. Josh Kushnerによるスカウト

Lightspeedに新たに加わったJosh(Kushner)がTikTokを通じて、クレアを発見し、声をかけたことが始まりだった。当初クレアは、「短尺動画に興味があって意見交換したいのだろう」と思っていたという。しかし、実際には、Lightspeedのブランドをテックエコシステム外に広げるという大きなビジョンの一部として、彼女のポジションが構想されていた。

「Lightspeedはもともと強いブランドを持っているが、それはテックや投資の世界の中での話。一般の人々にとって、テック・スタートアップの情報源として信頼できる場所はまだ空白地帯がある」と彼女は分析する。

2-2. 投資家の仕事は「本質的にナラティブ」

クレアがLightspeedチームと話す中で、採用の必要性はすぐに腑に落ちたという。「投資家の仕事は本質的にナラティブ(物語)で動いている。スタートアップに対して売り込み、ファンドの出資者に対して売り込み、パートナーを説得する。ストーリーテリングはこの仕事の核心にある」。

それにもかかわらず、その能力が「コンテンツ制作」として正式に組み込まれることは、これまでなかった。彼女はその空白を埋める役割として採用された。

2-3. 「編集の独立性」は条件として保証された

Lightspeedへの参加にあたり、クレアが重視したのは「Zoey Talks」を独立したプラットフォームとして維持できるかどうかだった。

「VC業界では、投資家が独自の見解を持つことは歓迎される。それが議論を豊かにし、ファームの集合知を高める」と彼女は言う。Fred WilsonのブログやBrad GersnerのBG2ポッドキャストと同様に、Lightspeed所属であっても独自の発信を続けることは、議論にもならなかった。

3. 「投資家×クリエイター」という新しいポジションの設計


3-1. トップオブファネルの拡張

クレアが自分の役割として語るのは、「Lightspeedコミュニティへの広い入口を作ること」だ。対象は、AIに興味を持つ大学生、テックに触れたことのないスタンフォードの研究者、創業を考えているオペレーター——まだファウンダーになっていない「プレファウンダー」たちだ。

「そういった人たちにLightspeedのエコシステムを知ってもらい、最終的には投資機会に転換していく。それが自分のミッション」と彼女は語る。

3-2. 新メディア「Light Work」の立ち上げ

Lightspeedは、新たなポッドキャストスタジオ「Light Work」を開設した。クレアは、Joshとともにこの番組に携わり、スタートアップやディープテック、AIに関するニュースを週次で解説する。ゲストはLightspeedのポートフォリオ企業や外部の専門家も含まれる。

「TVPN(This Week in Startups)やDar Cashのインタビューのような高品質なコンテンツはすでにある。でも自分がやりたいのは、テックの外にいる人が初めてこの世界に触れるための入口を作ること」と彼女は言う。

3-3. 注目するポートフォリオ企業の例

クレアが特に関心を持つのは、エージェントAI周辺のインフラ領域だ。Lightspeedが投資したSycamore Labsのように、AIエージェントの監査証跡(オーディットトレイル)を構築する企業、あるいはModus(AI活用の監査サービス企業、実際の会計事務所を買収して参入)のような、従来テックが届いていなかった領域への展開を興味深く見ている。

4. 一般層のAI認識と「翻訳者」の役割


4-1. TikTokのコメント欄が見せた「別の世界」

テック業界の内側ではAIへの楽観論が主流だが、TikTokで一般向けに発信し始めた当初、クレアは大きなギャップを感じた。「テックTwitterでは皆が興奮しているのに、TikTokのコメント欄には懐疑論、怒り、『AIに仕事を奪われる』という不安ばかりだった。二つの別の宇宙にいる感覚だった」と振り返る。

4-2. 「少年が狼を叫ぶ」ダイナミクス

この認識ギャップが生まれた一因として、彼女はAI業界の「誇大な期待設定」を挙げる。「AGIが2027年に来る」「ホワイトカラーの仕事がなくなる」といった発言が繰り返される一方で、現実がそれに追いつかないたびに、一般の人々の不信感が積み重なっていく。

「テックの世界にいる人間として、私たちはもっとうまく人々を引き込む方法を考えるべきだ。テクノロジーが実際にどう使われているかを具体的に見せることが、その第一歩だと思う」と彼女は述べる。

4-3. AIの「良いストーリー」が伝わっていない

AlphaFoldやIsomorphic Labsのような医薬品・科学分野でのAI応用が、一般には届いていないと彼女は感じている。「人々が思うAIのイメージは『AIガールフレンド』や『仕事を奪う何か』だ。でもパーソナライズドがんワクチンやAlphaFoldの成果は、ほとんど知られていない。その差を埋めることが私の仕事だと思っている」。

5. VC業界にとっての示唆


5-1. 「投資家は書き手であり続けた」

クレアは、投資家がコンテンツを発信することを歴史的な文脈で捉えている。「以前の世代の投資家も、常にブログを書き、ポッドキャストをやっていた。アイデアを外に出すことで、面白い機会が引き寄せられ、ブランドが育ち、創業者に自分が何者かを知ってもらえる。それが正式に組み込まれただけだ」。

5-2. フルコミットが転換点

ポッドキャスト「Sorcery」のMollyも、フルタイムで媒体に集中した後に急成長を経験したと語る。クレア自身も、「投資家としての仕事との両立ではなく、もしこれに全力を注いだら」という問いに対する答えを、Lightspeedという環境の中で試みている。「フルタイムで取り組み始めた瞬間に、ROIが跳ね上がった」というMollyの言葉は、この二人に共通する経験だ。

5-3. VC業界の「非促進的」な文化との戦い

Lightspeedのチームについてクレアが語るのは、「非常に知的で思慮深い人たちが、自分たちの仕事を普通のことだと思って外に発信しない」という課題だ。「18歳の頃の私は、このチームの洞察に触れることができたなら、どれだけ違っていただろうと思う。それを届けることが、自分が今できる大切な仕事だ」。

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