OpenAI社長ブロックマン氏が語る「パーソナルAGI」構想 ― ChatGPTとエージェントの融合の行方
OpenAIの社長グレッグ・ブロックマン氏が、あるインタビューで自社の製品戦略について詳しく語った。ChatGPTとコーディングエージェント「Codex」の融合、コンピューティング資源の希少性、そして、AIと医療の未来――。同氏の発言からは、OpenAIが目指す「パーソナルAGI」という構想の具体像が見えてくる。本稿では、ビジネスパーソン・投資家が押さえておくべきポイントを整理する。
1. 「スーパーアプリ」ではなく「パーソナルAGI」
ブロックマン氏は、ChatGPTが、「スーパーアプリ」化しているという見方について、「本当に我々が構築しようとしているのはAGIだ」と説明した。同氏によれば、2022年のローンチ当初のChatGPTには記憶機能もツール連携もなく、対話型の知能はユーザーが目標を達成するために必要なものの一部にすぎなかったという。
同氏が描く将来像は、「常にあなたのために何ができるかを考え続けているAI」だ。朝起きればメールボックスが整理されており、健康計画についても相談相手になってくれる。同氏は理想のインターフェースについて「ほとんどインターフェースがない状態、ほとんど製品がない状態」だと表現し、長期的な方向性は「単純化」と「統合」に向かうと語った。
2. Codexの社内浸透率、Slackと同水準に
OpenAIの社内では、コーディング支援エージェント「Codex」の利用が急速に広がっているという。ブロックマン氏は、「社内での利用の浸透度は今、Slackと同水準になっている」と明かした。同社はほぼ完全にSlackベースで運営されており、Slackを使わなければ仕事ができない環境だが、Codexについても同様の状況になりつつあるという。
2-1. 非技術者による利用の広がり
同氏は、Codexが「コーディング」という名前を持つものの、実際には汎用的なツール活用の基盤(エージェント・ハーネス)として機能している点を強調した。具体例として、広報チームのスタッフがイベント運営の際、参加者に食事制限の希望を尋ね、席次表を作成するといった作業をCodexに任せた事例を紹介している。
2-2. なぜ2023年の「プラグイン」は失敗したのか
ブロックマン氏は、2023年に導入したChatGPTの初期のツール連携機能「プラグイン」が機能しなかった理由について、「モデルがまだ準備できていなかった」と振り返った。当時は同時に扱えるコネクタが3個程度に限られ、コンテキストも2000〜4000トークン程度しかなかったという。現在のモデルは数百種類のツールに接続可能で、コンテキストは「52万トークン」規模まで拡大しているとされる。
3. エージェント時代における「信頼」の構築
ブロックマン氏は、AIエージェントが実際に行動を代行する時代において、最も重要な要素は、「信頼」だと述べた。同氏は「信頼は付与できるものではなく、獲得されるものだと考えている」と説明し、ツールの提供、制御、監督の仕組みを通じて、ユーザーがAIにどこまで権限を委ねるかを決めていく必要があると語った。
3-1. Appleとの競争についての見方
同氏は、AppleのSiriとの競合関係について問われた際、「OSという捉え方とは少し違う」という立場を示した。「機械を人間に近づけることがAIの美しさであり、人間がファイルやフォルダといった不自然な仕組みに自分を合わせる必要はなくなる」との考え方を示し、OSという概念自体が「異なる時代のもの」だと位置づけた。
4. コンピューティングは今後も希少資源であり続ける
サティア・ナデラ氏が、「モデルはコモディティ化しつつあり、価値ある資産は企業固有のAIシステムだ」と発言したことについて問われたブロックマン氏は、直接的な反論は避けつつ、「このスタック(技術の階層構造)のどの層も、価値の連鎖から取り除かれることはない」との見解を示した。
同氏は、現在利用されているエージェントの利用者数は、1000万〜2000万人規模であり、ChatGPT自体の10億人規模のユーザーと比較してもエージェント機能の浸透度はまだ小さいと指摘。「十分なコンピューティングが世界中のすべての需要を満たすことはないだろう」と述べ、コンピューティングこそが今後も希少資源であり続けるとの見立てを示した。実際、旧世代のH100チップについても、通常であれば購入されないはずの状況下で価格が上昇しているという事例を挙げている。
5. 医療分野への応用 ― 週2億3000万人が健康相談に利用
ブロックマン氏は、AIと医療の未来について語る中で、「毎週約2億3000万人がChatGPTを健康に関する質問に利用している」という数字を明らかにした。同氏は、これまで患者自身が医師のように振る舞わざるを得なかった状況について、「医師が間違いを犯しても、その代償を一生払うのは患者自身だ」と述べ、AIがこうした情報の非対称性を改善する可能性を指摘した。
同氏はまた、自身の妻が複数の健康問題を抱えていることに触れ、「ChatGPTなしで、彼女の多くの症状をどう管理できていたか分からない」と個人的な経験も語った。同氏は、AIによる予防医療の普及が医療費全体の負担軽減にもつながる可能性があるとし、医師や看護師の疲弊が深刻化する現状において、AIが果たせる役割は大きいとの見方を示している。
