OpenAI社内、Codex利用率が従業員の90%超に ― 2026年1月から半年で利用6倍に
OpenAIが開発するデスクトップアプリ「Codex」は、もともとエンジニア向けの開発ツールとして生まれたが、いまや従業員の90%以上が日常的に利用するツールへと成長している。Lenny's Podcastに出演したCodexのプロダクト・エンジニアリングリード、アンドリュー・アンブロシーノ氏は、AIによって製品開発のプロセスそのものがどう変化しているかを語った。本稿では、ビジネスパーソン・投資家向けに、その要点を整理して紹介する。
1. 社内浸透率90%超、半年で利用6倍という成長スピード
Codexは、2026年1月以降、利用量が6倍に拡大し、現在の週間アクティブユーザーは、500万人超だという。さらに注目すべきは、OpenAI社内では、エンジニアだけでなく、ほぼ全従業員(約100%)が週次で利用しているという点だ。
アンブロシーノ氏は、Codexを「人々が次に何かをするときの自然な選択肢」にすることを目指していると語る。これはブラウザのタブを開く感覚に近いものだという。
2. 「実装」から「テイスト」へ ― 製品開発プロセスの逆転
これまでの製品開発は、実装コストが高いという前提のもとで、ドキュメントや研究、プロトタイプを通じて事前にリスクを取り除く、という順序で進められてきた。しかし、AIによって実装コストが急激に下がった結果、プロセスは「逆転」したという。
アンブロシーノ氏によれば、いまや一つの機能アイデアに対して社内で90もの異なる実装の試みが並行して動いていることもあるという。
2-1. 重要になったのは「キュレーション」の能力
実装そのものが安価になった今、価値の源泉は、「何を作るか」よりも「90通りの試作の中から何を選び、どう組み合わせるか」という判断力に移っている。同氏は、これを「テイスト(taste)」と表現する。
「実装はもう高コストな部分ではない。あえて言うなら、テイストだ」
この発言は、AIが普及した組織における人材評価の軸が、実装スキルから判断力・編集能力へと移行していることを示唆している。
3. なぜAIはまだ「デザイン」が苦手なのか
ソフトウェア開発と比べ、デザイン領域でのAI活用が遅れている理由についても語られた。理由の一つは、コードのように「正しいか・動くか」を機械的に評価しにくく、良いデザインかどうかの判断には人間の感性が介在せざるを得ない点にある。
さらに、デザインには、「文化的な新規性」が求められる側面があり、同じ正解パターンを繰り返すこと自体が評価を下げる可能性があるという。ソフトウェア工学では、既知のパターンへの忠実さが評価されやすいのに対し、デザインでは適度なランダム性や新しさが重視される、という違いも指摘されている。
4. PM不要論への反論 ― 「役割の崩壊」の危険性
AIの進化に伴い、「プロダクトマネージャーの役割は不要になる」という議論が一部企業で起きていることについて、アンブロシーノ氏は明確に懸念を示した。
役割の境界が、曖昧になることには賛同しつつも、各職能には積み重ねられた知見やベストプラクティスがあり、それを「コードを書いたから自分はビルダーだ」という発想で安易に放棄するのは危険だという立場だ。Codexチームでは、デザイナーがエンジニアの言語を話し、PMもコードを書くなど職能間の重なりが大きいが、それは役割が消えたわけではなく「平均としてどこに時間を使っているか」が役割を定義する、という考え方に基づいている。
5. ロードマップ計画の難しさ ― 「9ヶ月先の精度は偽物」
AIモデルの進化速度が速いため、長期計画の立案は構造的に難しくなっているという。短期の計画ほど詳細であるべきで、9ヶ月先のような長期計画に精度を持たせようとすることは「偽の精度」を作り出すだけで時間の浪費になる、という考え方が紹介された。
象徴的な事例として、Codexアプリが、2026年2月にリリースされた際の話がある。同じ製品コンセプトであっても、前年11月の時点ではモデルの性能が不十分で市場では失敗していたはずだという。つまり、プロダクトの「形」が同じでも、裏側のAIモデルの進化度合いによって成否がまったく変わるということだ。
6. 想定外の使われ方 ― Premiere Pro拡張機能の自作エピソード
Codexが当初想定していなかった使われ方をした事例として、社内の映像編集担当者がCodexを使って動画編集を試みた話が紹介された。Codex自体は動画編集ソフトではないが、編集者が使用していたPremiere Proのファイル構造を理解し、編集作業の一部を支援。さらに、対応できない部分については、Premiere Proに組み込める拡張機能をCodex自身が構築したという。
この事例は、既存の専門ツールを置き換えるのではなく、AIエージェントがツール同士を連携させる「接続役」として機能する可能性を示すものとして語られている。
