All-In Podcastで語られた4大テーマ ― NYC社会主義、中国AI追走、メモリ枯渇、Cerebras下落
2026年6月26日に配信されたAll-In Podcast第278回は、政治・AI・半導体が同時並行で激しく動いた一週間を凝縮した内容となった。ホストのJason Calacanis氏、Chamath Palihapitiya氏、David Sacks氏に加え、Travis Kalanick氏(元Uber CEO、現在Adamsを起業)とAtreides ManagementのGavin Baker氏が登場し、NYC民主党予備選におけるDSA(米民主社会主義者)候補の躍進、中国Z.AIの新型オープンソースモデル、Micronの好決算、そして、CerebrasのIPO後の値動きを議論した。本稿ではビジネスマン・投資家向けに要点を整理する。
1. NYC民主党予備選 ― Mamdani派が3戦3勝
火曜の予備選で、NYC市長Zohran Mamdani氏が支持した3名のDSA候補が全員勝利した。Polymarketの事前予想では「3勝チャンスはわずか26%」だっただけに、市場・政治観測者にとって大きなサプライズとなった。
第10選挙区:Brad Lander氏が現職2期のDan Goldman氏を破る(West Village、Wall Streetを含む富裕層地区)
第13選挙区:32歳のShahana Hanif氏が現職5期(Hispanic Caucus議長)を破る
第7選挙区:Claire Valdez氏が後継指名候補を破る
1-1. なぜ「裕福な若年層」が社会主義に流れるのか
Sacks氏は、DSAの実態を「移民層+下方移動層の白人進歩主義者」の連合体と分析した。
「Mamdaniが市長選で勝てたのは、ネイティブ・ニューヨーカーだけの投票なら不可能だった。大量移民票が勝負を決めた」
Baker氏は、経済構造の観点から、住宅・学費ローン・医療費の高騰により「2世代分のロスト・ジェネレーション」が制度に絶望していると指摘。
「Mamdaniは私が生きてきた中で最も才能ある政治家の一人。彼のカリスマと、システムが不正に仕組まれていると感じる世代を組み合わせれば、DSAの台頭は説明がつく」
1-2. 投資家が留意すべき構造変化
DSA共同議長のGustavo Gordillo氏は、「我々は民主党を投票アクセスのためのビークルとして使っている」と明言している。これが意味するのは、既存民主党議員が予備選敗北を恐れて政策スタンスをDSA寄りに修正していくということだ。法人増税、富裕層課税、企業の公的所有といったテーマが今後の選挙サイクルで本格化する可能性がある。
2. 中国Z.AI「GLM 5.2」 ― オープンソースのフロンティア到達
同週、中国のZ.AIがオープンウェイトモデル「GLM 5.2」を公開した。MITライセンスでの完全オープン、7,440億パラメータ、コンテキストウィンドウ100万トークンという仕様で、Artificial Analysis Intelligence Indexで51点を記録。これはオープンウェイトモデル史上最高スコアだ。
2-1. 「Distillation(蒸留)」という追走戦略
Baker氏は、中国勢が米フロンティアモデルのAPIから「推論トレース」を大量取得し、自社モデルの強化学習に投入してきたと指摘した。
「これは他のモデルが追いつくためのカンニングペーパーだ。だがGLM 5.2はもう自前でRLが回せるほど良い。猫は袋の外に出てしまったかもしれない」
Z.AI創業者はElon Musk氏との対話で、「オープンウェイトでFableクラスの能力は2027年第1四半期より早く到達する」と述べたという。
2-2. 「Composable Model(構成可能モデル)」という未来像
Baker氏が示した将来像は、企業がフロンティアモデル(Claude、GPT、Grockなど)とオープンウェイト自社モデルを組み合わせ、ルーターが用途別に振り分ける構成だ。難易度の低いクエリの大半は自社モデルが処理し、難問のみフロンティアが「指揮者」として介入する。トークン量の80%以上がオープンソース側に流れる一方、経済価値の90%は依然としてフロンティア側に残る——というのが彼の見立てである。
3. Anthropic「Mythos」事案と政策リスク
Sacks氏は、政府の事前審査プロセスが事実上のライセンス制になりつつあることへの懸念を改めて表明した。
「我々はショットクロックの上にいる。中国は6カ月遅れだが、シリコンも含めれば24カ月遅れのはず。それでも全体では数カ月差。我々は何のゲームをしているのか」
Chamathは、Anthropic CEOのDario Amodei氏が「AI版FAA」を主張してきた経緯を指摘し、規制的モート(参入障壁)の構築という目的があるとの見方を示した。一方で、Fableのロールバックは「自分の罠にかかった面もある」と論じた。
4. Micronのブロックバスター決算 ― HBMが最重要ボトルネック
Micronの決算は、市場予想を16%上回り、売上高は前年比約4倍。Q4ガイダンスも430億ドルから500億ドルへ引き上げた。株価は10倍に上昇している。
Baker氏は、AIインフラ全体のボトルネックがDRAM、特にHBM(高帯域メモリ)に集中していると断言した。
「メモリ容量と帯域はあらゆるAIモデルの性能の基盤だ。Elonがテラファブをメモリに振り向けているのも、これが最重要ボトルネックだと見ているからだ」
4-1. SDA(供給契約)構造の変化
Micronは、複数の大口顧客(売上の約50%相当)とフロアとシーリングを伴う長期供給契約を締結しており、フロア価格は前サイクルのピークを上回る水準にあるという。これはDRAM業界のビジネスモデル自体を変える可能性がある。
4-2. 波及効果 ― AppleとXboxの値上げ
メモリ逼迫は消費財に波及。Appleは、6月26日に大規模値上げを発表し、$699のMacBook Neoは、$799へ(約14%上昇)、Mac Studioは、25%値上げ。MicrosoftもXbox本体価格を引き上げた。これは前回記事(Bloomberg Tech分)でも触れたApple値上げと整合する。CXMT(中国メーカー)が、消費者向けDRAMを供給し始めれば緩和される可能性はあるが、AIサーバ向けHBMは、引き続き米韓の3社寡占構造が維持される見通しだ。
5. IPO市場 ― Cerebras下落とAnthropic「3兆ドル」予想
Cerebrasは、公開直後の決算でIPOプライスを割り込み、機械的売却に巻き込まれた。Baker氏は、「IPO価格を割ったら無条件で売る大手ファンドマネージャーが一定数いる」と説明。プライシングの失敗ではなく、Q1決算ではOpenAIとの新規大型契約(2025年12月締結)の効果がまだ反映されないタイミングの説明不足が一因だと分析した。
注目は、Anthropicの評価額予想だ。Baker氏は次のように述べた。
「Anthropicは、今日の時点で3兆ドルの価値があると思う。今年のARRは1,000億ドルを大きく超えて着地する」
仮にIPO時の浮動株が5%なら、市場が吸収すべき新規供給は約1,500億ドル規模。グローバル資本市場で吸収可能だが、SpaceX、OpenAI、Anthropicが順に上場すれば総額数兆ドル規模のフロート移動になる。
6. 投資家への示唆
第一に、米国の政策不確実性は今後の選挙サイクルでDSA寄りに振れる可能性が高く、富裕層・企業課税、AI規制が論点として再浮上する。
第二に、中国オープンソースの追走により、フロンティアモデルの「6カ月リード」は経済的価値の源泉として十分かを再評価する局面に入っている。
第三に、メモリ需給は短期では緩和しにくく、HBM寡占の3社(Micron、SK Hynix、Samsung)が引き続き恩恵を受ける構造が続く見込みだ。
これらは独立した話題ではない。AI投資の総需要、サプライチェーンの偏在、そして、政治的バックラッシュは相互に連動しており、ポートフォリオ全体のリスク評価軸に組み込む必要がある。

