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Evercoreアナリスト3名、米消費を分析 ― TJマックス同店売上+6%、コールズは-1%で明暗

米消費の現場で何が起きているのか。著名空売り投資家として知られるスティーブ・アイズマン氏が、Evercoreの小売・外食・食品担当アナリスト3名(Michael Benetti氏、David Palmer氏、Greg Melich氏)を招き、セクター横断で米消費者の実態を掘り下げた。見えてきたのは、よく言われる「K字経済」よりも一段階複雑な構図だ。


1. 「K字経済」の真実 ― 苦しいのは低所得層だけではない


1-1. 外食業界に見る所得三分割の実態

David Palmer氏によれば、外食消費は、年収5万ドル未満、5万〜10万ドル、10万ドル以上の三層にほぼ均等に三分割されているという。一見意外な構成だが、ファストフードは、この最下層に通常より約25%多く依存しており、典型的なマクドナルドでは売上の約40%が年収5万ドル未満の層から来ている。

この層がコロナ後の値上げ(ファストフードは約40%の価格上昇、対する賃金上昇は約24%)に反応し、外食頻度を落としている結果、「ファストフードの同店売上は現在平均でマイナス1%」という状況だという。一方でカジュアルダイニングは価格上昇を約20%に抑えたため、相対的に好調だと分析された。

1-2. 「溶けていく中間層」というキーワード

big box担当のGreg Melich氏は、上位20%の所得層が、米消費全体の約40%を占めていると指摘した上で、現状を「溶けていく中間(limping middle)」という表現で説明する。低所得層は以前から苦しく、高所得層は資産効果もあって健全だが、過去12か月でその中間層に圧力が及び始めているという。

象徴的なのが「トレードイン」という新しい行動パターンだ。同氏は、年収15万ドルの家庭がWalmart+に加入し、「シリアル1箱が2ドル安く届くなら入る」という形でウォルマートに流れてくる現象を紹介し、これは従来の「トレードダウン」ではなく、同じ商品をより便利に得るための合理的な選択だと位置づけた。

2. 苦戦する小売 ― ナイキとアパレル各社の現状


2-1. ルルレモンの「ヒット商品依存」

Michael Benetti氏は、Lululemon、Ulta、Gap、Kohl's、Canada Gooseの株価が今年揃って下落している背景を説明した。ルルレモンについては、コロナ期の特需後に「ヒット商品を次々と追いかける」戦略に陥り、デザイナー退任後の約1年半でブランドの磁力が落ちていると指摘。Aloなど新興競合への顧客流出が加速しているという。

2-2. ナイキの「直販シフト」が招いた誤算

ナイキについては、2019年にテック業界出身のCEOを起用し、卸売チャネルからD2C(直接販売)への急激な転換を進めたことが転機になったと分析された。Benetti氏は、「複数ブランドを並べる店舗に商品を置かなくなると、自社ブランドの競合状況に関する情報を失う」という構造的な問題を指摘。その間隙を突いて、On RunningやHoka、Salomonなどの新興ブランドが急速にシェアを伸ばし、いまや年商80億ドル規模に成長したNew Balanceのような「復活組」も強敵になっているという。

3. 外食・食品 ― GLP-1とプロテイン化の波


3-1. スターバックスとチポトレの分岐点

David Palmer氏は、スターバックスの米国同店売上が前四半期に7%増加したと評価しつつも、株価が伸び悩んでいる理由は、「利益のフローが見えていないこと」だと説明する。同社は2028年度にEPS4ドル超えを目指すが、現状の見通しは3ドル未満。投資先行で利益が追いついていない状態だという。

一方、チポトレは、今年20%超下落しているが、Palmer氏は新しいマーケティング責任者の起用や調理機器の更新により、第4四半期にかけて同店売上が改善する可能性があると見ている。

3-2. プロテイン化と伝統的食品企業の苦境

GLP-1薬の普及により、「カロリー消費は前年比2%減少」しているという。Palmer氏は、伝統的な大手食品企業がプロテイン強化トレンドに乗り切れず、自社カテゴリー内でも侵食されている例として、シリアルでの高プロテイン版グラノーラの台頭がフルーツループのような従来製品を圧迫している状況を挙げた。Campbell Soupの直近の決算では、2027年度のインフレ見通しが「エネルギーを除いて2〜3%、全体では約6%」に達するとされ、値上げの余地がない中での厳しいコスト環境が浮き彫りになった。食品セクターの配当payout率は80%に達し、PERは10倍を下回る水準まで落ち込んでいるという。

4. ビッグボックス ― ホームデポ vs ロウズ、コストコ vs ウォルマート


4-1. 住宅市場の「ロック」とホームデポのTAM拡大戦略

Greg Melich氏は、住宅市場が4年連続で「凍結」状態にあると指摘する。既存住宅の約3,000万戸が、低金利ローンや税制要因によって売却されにくい状態にあるという。その中でホームデポは、プロ向け(施工業者向け)市場を取り込むため過去6〜8年で物流投資とM&Aを進め、TAM(獲得可能市場)を1.2兆ドルまで拡大させたと評価された。一方ロウズは負債/EBITDA比率が3倍超まで上昇し、株主還元の余力では劣後しているとの見立てだ。

4-2. コストコとウォルマートの構造的な違い

Melich氏は、コストコが会員費(年65ドル)を取りながら粗利マークアップを平均約11%に抑える「購買代理人モデル」であり、それが92%という高い更新率につながっていると説明。Amazon・Costco・Walmartの3社で米小売売上の24%を占めているとし、ウォルマートは、Walmart+会員サービスが「S字カーブ」の手前にあると分析した。

5. 数少ない「勝ち組」 ― ラルフローレンの高級化戦略


Michael Benetti氏が最も評価したのは、ラルフローレンだ。同社は、2018年にCEOが就任後、「セール頻度を計画的に減らし、在庫を絞る」という地道な戦略を継続し、2018年以降、平均販売単価(AUR)を60%引き上げたという。マディソン街やパリ、ボンドストリートに旗艦店を構え、Z世代にも浸透するマーケティングを展開したことで、ディスカウント依存のブランドから憧れの対象へと転換した数少ない成功例として挙げられた。

まとめ


3名のアナリストの分析を通じて見えてくるのは、単純な「高所得層は強く、低所得層は弱い」という二極化ではなく、価格決定力(プライシングパワー)を持てているかどうかが業績を分ける構図だ。ラルフローレンやTJマックス、ウォルマートのように価値提案を再設計できた企業は中間層からの支持も取り込めている一方、ナイキやルルレモン、伝統的食品企業のように戦略転換のタイミングを誤った企業は、構造的な逆風に苦しんでいる。投資家としては、各セクターの「誰の財布を取り込めているか」という視点で個別企業を見極める必要がありそうだ。

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