Maverick Capital共同CIOが語る「AIトレードの次の勝者」 ― ボトルネックはGPUからCPU・データベース層へ回帰
2026年6月4日に収録されたGoldman Sachsのポッドキャスト「Exchanges: Great Investors」にて、30年以上の運用実績を持つMaverick Capitalの共同CIO、Ben Silver氏とDavid Tykoczynski氏が出演した。AI投資の次のフェーズ、ヘルスケアセクターの見通し、そして、リスク要因について、実務家の視点から率直に語った内容を整理する。
1. AIトレードの「ボトルネック移動」をどう追うか
1-1. ドットコムバブルとの比較
Tykoczynski氏は、現在のAI設備投資ブームとドットコムバブルとの相違点について具体的な数字を挙げた。ドットコム期には、累積設備投資額が営業キャッシュフローの約200%に達しており、事実上の外部資金依存だったという。一方、現在のAI投資は、100%を大きく下回っている水準であり、世界最大級のキャッシュリッチ企業が自己資金で賄っている点が異なると指摘した。
ただし、同氏は、「時価総額数兆ドル規模の企業が、次の投資資金のために株式市場から調達を始めた」事実にも触れ、差異が縮小しつつある点も率直に認めた。
1-2. バリューチェーンの川下回帰
AI投資の収益機会がバリューチェーン上をどう移動してきたかについて、Tykoczynski氏は、明確なフレームワークを示した。初期段階では需要が既存の生産能力の範囲内に収まっており、GPUなど川下の物理的な出力が最大の恩恵を受けた。しかし、需要が生産能力を超えると、ボトルネックはファブリケーション(半導体製造)、その設備、さらには、「日本の証券取引所に上場している素材メーカー」といった川上へと移動したという。
現在注目しているのは、この流れが逆転し始めている点だという。AIがエージェント化し、実際のビジネス変革や生産性向上に使われるフェーズでは、「CPUやデータベースが新たなチョークポイントになる」との見方を示した。LLMが企業の既存ワークフローやシステムと統合される形で利用される実態が広がっており、価値がエッジ側・エンドユーザー側に近づいているという。
1-3. 「エアポケット」への警戒
両氏が指摘した重要なリスクは、AI投資における「ハンドオフ」のタイミングだ。トレーニング向けインフラ構築の成長が減速する局面で、それを補うだけのアプリケーション需要が追いつかなければ、「エアポケット」が生じ、市場のボラティリティを引き起こす可能性がある。Tykoczynski氏は、コーディング分野では、エージェント型の推論利用が立ち上がりつつあるが、「より広範なナレッジワーク領域にまで利用が拡大しなければ、将来の需要予測を支えるだけの勢いは維持できない」と語った。
2. ヘルスケアセクター:「次のAI勝者」候補
Silver氏は、ヘルスケアセクターから資金がAIセクターへ流出する状況を「大きな吸い込み音」と表現しつつも、特にライフサイエンスツール領域に大きな投資機会があると述べた。
2-1. リショアリングと創薬AI
この領域には、2つの追い風が吹いているという。第一に、医薬品製造のリショアリング(国内回帰)に伴い、製造設備への設備投資ブームが3〜6ヶ月以内に可視化されると予想した。第二に、AIが創薬の初期段階を加速させており、消耗品の使用量にも回復の兆しが見え始めているという。
2-2. M&Aの構造的機会
Silver氏は、同セクターが過去20年間にわたって統合が進んできた業界構造であることに注目した。現在、株価が低迷する中で、時価総額50〜100億ドル規模の企業群が大手統合企業によるM&A対象として有力だとの見方を示し、ファンダメンタルズの回復が遅れれば買収が加速する可能性があると語った。
3. リスク要因:中国と産業構造の脆弱性
両氏が挙げたリスクには、米国内の政治的分断に伴う合理的な長期政策決定の難しさ、米中間の地政学的緊張に加え、AI投資で恩恵を受ける企業の産業構造的な脆弱性が含まれる。
Tykoczynski氏は、歴史的にテクノロジーの価値がソフトウェアやアプリケーション層に集中してきた理由として、そこにIPが存在した点を挙げた。一方、現在大きなリターンを上げている企業の多くは、レーザー・光学部品やアナログ半導体など、「構造的に中国との競争にさらされやすい」領域に位置しているという。同氏は、「市場が次のボトルネックはどこかに注目するあまり、その企業の産業特性が持つ構造的リスクを過小評価しているのではないか」と懸念を示した。
4. 投資哲学:Co-CIOモデルと「カウンターウェイト」
Maverick Capitalの創業者Lee Ainsley氏から共同CIO体制への移行が行われた背景について、Silver氏は、「2人の自然な化学反応と、類似点と相違点の両方がカルチャーにとって有益だと判断された」と語った。Tykoczynski氏は、TMT(テクノロジー・メディア・通信)出身でセキュラー成長とテーマ投資を重視し、Silver氏は、ヘルスケア・景気循環型セクター出身で個別の事業構造分析を得意とする。
Tykoczynski氏は、「単一の投資哲学が完璧であることはない。自分の行き過ぎを抑制してくれるカウンターウェイトがいることへの感謝がある」と述べ、30年超のファンドが持続的な成果を出し続ける仕組みの一端を垣間見せた。
オススメ記事
Next Big Wave——成長株・アイデアの種・トレンド深掘り
いいなと思ったら応援しよう!
この記事は noteマネー にピックアップされました

